11.続・地区合同錬成大会
副将は不戦敗。
大将は瀬良垣だ。相手もここで勝てばトーナメントを上がれるために気合が入っているだろう。
「始め!」
「シャアアアアアア!」
「キャアア――――!」
相手は少し声の高いタイプらしい。それに動きがせわしなかった。
どうだ、対戦相手として瀬良垣を見るとでかいだろう? 怖いだろう?
瀬良垣はとにかくまっすぐだ。瀬良垣と対峙していると正眼の構えは鉄壁の防御だと感じる。そして同時に、いつでも攻められる攻めの構えでもある。
ダァアアと床を踏む音が響いた。
「メェエン!」
真っ直ぐにメンを打った。相手は驚いているようだが、俺は知っているそれは瀬良垣流のメンだ。瀬良垣は相手の歩幅に合わせる。そして同じように前後して剣先を揺らす。気付けば相手は同じ動きをさせられており、いわゆるミラーリングというやつだ。そのまま吸い込まれるようにメンが入る。初見だからこそはまると綺麗なメンが入る。
瀬良垣の気性は穏やかだ。誰に対しても誠実で、柔軟。斎藤がムードメーカーなら、瀬良垣はペースメーカーだ。彼のひたむきさが周りを巻き込む。俺や、斎藤、染森も気づけばまじめに練習を重ねている。
瀬良垣は小学校から剣道をやってきた剣道エリートで、剣を交えるとその強さが分かる。それなのに練習はいつもじっくりと基礎を繰り返す。例えて言うなれば休まないうさぎのような男。しかしそれを驕らず、飄々としている。
二人は開始線に戻る。
「二本目!」
相手は先ほどの面を警戒してか距離を取っていた。
だが瀬良垣の足は長い。相手は当たらない距離に逃げられていると思っているだろうが……。
「メェエエン!」
相手は茫然とそれを受けた。瀬良垣は残心を取り構える。
瀬良垣はかなりの策士である。不意を打たれたメンに、警戒して間を取る相手から足を使ってメンを入れるところまで、きっと瀬良垣の計画通りだ。普通なら入らない間合いでも瀬良垣の足の長さを生かすと遠間からでも入ってしまう。
瀬良垣の剣道は強みを生かしてできることは全部やる全力剣道だ。
全員で礼をして、枠線から出る。初めての試合で1勝をあげられた。うれしくてにやりと笑うと、他の二人も似たような笑い方をしていた。
俺たちは、二回戦へと勝ち進んだ。
連続の試合となるため、十分の休憩が挟まれる。その間に水分補給と竹刀の確認をした。次に当たるのは美浜商業。先ほどの試合ぶりからみるに、先鋒は好戦的な奴だ。だが自然と怖さを感じない。むしろ今はめいっぱいコートに立ちたいと思う。そのためには勝たなければならない。
「負けたら終わりなのは承知なんだけど。せっかくだから楽しもうな」
二人に、そして自分に言い聞かせるようにつぶやいた。
美浜商業は二年生と、三年生で編成されたチームだ。胸を借りるつもりで挑もう。
枠の外に出て礼をし、先鋒の俺は前に出る。ゆっくりと深呼吸をしながら開始線で蹲踞をする。
「始め!」
立つ姿勢に無駄がない。先ほど対戦したやつとの差を感じる。
団体戦において先鋒は勝って、勝利に勢いをつける係だ。したがってどの学校も強い奴が多い。この人もすごく強いはず。剣先を合わせて様子を見合う。竹刀を小さく上げた。つられて浮くかと思いきや、右に回りこんできて隙がない。
相手は剣先を外さない。どうしたら、打つ場所が見える。
時間が刻々と過ぎていく。こちらが仕掛ければ避けて、ずれたタイミングでメンを打ってくる。なんだか打ちにくい……そこではっと思った。この試合を引き分けに終わらせようとしているのではないだろうか。
引き分けに終われば、後の二人にプレッシャーをあたえることができる。
それならば、俺は気持ちを切り替えて連続技を始める。コテ メン メン! ことごとく受けられるが、地味に溜まるだろう? 一方的に打たれるのは歯がゆいだろう? 俺は足でとにかく攻めた。さぁ、受けているだけでいいのか。
さすがに相手も俺が煽っているのに気付いたのかもしれない。面の中で目を光らせる。
「ヤァアアアアア!」
ひと際、大きく気勢を張る。そんな消極的な剣道で良いのか?と思いを込めて。
攻めるぞと気合を入れてコテを取りに行く。やはり外されたが、渾身の体当たりをする。相手が崩れたのを見て。
「メェエエエエン!」
しっかり手を伸ばしてアピールする。
旗が三本立った。俺は深呼吸して開始線に戻る。
だがこのメンで相手は冷静さを取り戻す。
その後も、攻め続けるも受けられ、フェイントは交わされ。四分が過ぎだ。
「勝負あり」
俺は竹刀を佩いてコートを出た。
なんとか勝てたが……向こうが何枚もうわてだった。勝ち本数一本か。
「始め!」
続く斎藤の対戦相手は重量級だった。どっしり構えていると言えば聞こえはいいが、動かない。斎藤がたまらず、メンを打って体当たりをすると相手はそれに合わせて詰めてくる。斎藤は引きメンにして、剣先を相手に向ける。相手はそれに合わせてさらに詰めてきて、体当たりと鍔ぜり。
いわゆるくっつきだ。狙いが透けた嫌な戦い方だ。
「斎藤!うしろ!」 本来ならばそう叫びたいのだが、剣道の試合でそれはルールに反する。
斎藤も回り込もうと左に避けたが、そこを体当たりされてコテを狙われる。次いで鍔ぜりになった。斎藤は重心を下げようと左足を後ろに引いた。
「止め!反則1回」
斎藤の左足が枠線を越えていた。
反則は二回で相手の一本になる。まだ1回目と思うかもしれないが、また反則を取られたらとプレッシャーでどうしても動きが小さくなってしまう。斎藤も足の動きが鈍くなっている。
相手はメンをしては体当たりをして鍔ぜりで押してくる。先ほどの戦いを再現するかのようだった。斎藤の焦りが伝わってくる。こういう時、自分に自信をくれるのが地道に重ねてきた努力だ。やるだけのことはやってきた思える努力が背中を押してくれる。
「メェエエン!」
「メンあり!」
相手のメンが斎藤に入る。
斎藤は上を向いて両手で竹刀を握った。そして何かを振り払うように竹刀を振りおろす。
開始線に戻るとゆっくり剣先を合わせる。
「二本目!」
「ヤァアアアアア!!!」
斎藤は大声で吠えた。斎藤はまだ死んでない。
斎藤にまた相手がメンからの体当たりを仕掛けてきた。だが、先ほどよりも足が動いている。打たれても打たれても前に出る。それに正眼に構えた竹刀がぶれていない。相手も攻めあぐねているようだ。
また、コテから体当たりが来た。
斎藤はそれをふんばって跳ね返す。
相手は踏ん張られると思わなかったのか、体勢を崩した。
そこを真っ直ぐに引きメンをする。
「メェエエン!!」
あぁ、瀬良垣の体当たりに比べれば、たいしたことないよな。いつも吹っ飛ばされてたもんな。
一斉に旗が三本上がった。
結局、斎藤は最後までねばって引き分けとなった。俺はそれを称えるため精一杯拍手をおくった。




