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第四話 決意

「なんで……そんなはず……なんで姉さんが……いやいやいや、ただ似ているだけ!そうじゃなかったら、僕の頭がおかしくなるもの……」


 僕は人生で最大の困惑を、現在進行形で味わっている。


 (一路)、には、十年前に死に(・・)別れた姉、日野がいた。アパートが火事になった際に、僕を助けて姉は炎の中に消えていったのだから。骨も残らぬほどに燃え上がったアパートは、地獄の業火と言って良いほどに凄まじい炎だった。


 万が一、その炎から姉が脱出できていたとして、そのあとに僕を一人にして他の場所で生きていく様な姉ではない事を、僕は誰よりも知っている。


 両親が事故で亡くなってから、姉は僕をいつも守ってくれていた。だから、あの火災の時も僕を逃して、自分が犠牲となったのだ。そんな命懸けで僕を守ってくれた姉が、万に一つの奇跡で、あの火災から生還していたとして僕に会いに来ないわけがない。


「でも……あの瞳は、姉さんしか持っていない筈……」


 昔、一度だけ見せてもらったことがある。紅蓮の炎が瞳の中に宿ったかのように、瞳の中に炎が揺らいでいた姉の瞳。あの瞳は〝特別〟だと、僕は知っていた。


 僕らが兄弟になったあの日に、姉は信頼の証として紅蓮の炎が宿る瞳の〝力〟を見せてくれた。


 〝わぁ!?〟


 〝怖がらないで。この炎は、怖くないの。これはね……私たちを護ってくれる優しい炎なの〟


 部屋の中にいきなり現れた炎の塊に驚き、思わず姉にしがみついた僕を、姉は優しく頭を撫でながら、僕に教えてくれた。姉は、その瞳の中の炎を亡くなった母親から受け継いだと言っていた。


 今思うと、姉は確かに変わっていたと思う。


 生傷が絶えなかったし、それでいて虐められているという感じではなかった。歳が十歳も離れていた為、気になっていたとしても、簡単に聞けるかというと、そう言うことでもなかったのだ。


 ただきっと素直に尋ねていたとしても、姉さんが僕に教えてくれるとは、今考えてみると思えないけど。


 それほどまでに、僕は子供だったのだ。


 だから、両親が再婚して程なくして事故で亡くした時、付き合いのある親戚がいなかった僕は、姉と二人で生活することになった時に、なんの疑問も持たなかった。今にして思えば、その時の姉とて高校生だった訳だから、色々大変だったに違いないのに、僕は不自由なく生活することができていた。


 姉が火事で亡くなるまでの一年間は、姉弟での生活だったが、十分幸せだった。結局、姉が亡くなった時には小学一年生になったばかりだった僕は、施設に入ることになるのだけれど、姉の知り合いが経営している施設に入ったため、今も不自由なく生活出来ている。


 まるでいつか自分が、僕を残していなくなるように、準備がされていた。


「足が……前にでない……」


 先生の元へ歩いて行き、もっと近くであの瞳を見たいと思っているはずなのに、どうして僕の足は動いてくれないのだろうか。ついさっきまで授業をしていた先生であり、これまで何度も教室で言葉を交わしたことも、普通にあるっていうのに。


「いや……待てよ?」


 そもそも本当に姉さんだとしたら、何の事情もなければ(・・・・)僕に連絡をくれない訳がないんだ。だとしたら、何か事情があるか、単なる人違いのどちらかに違いない。 


 どちらにせよ、遠くから眺めることしか出来ないでいる時点で、僕はきっとはっきりさせるのを怖がっているのだろうな。



 ただ……次は()、絶対に逃げずに護るんだ。


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