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第二話 全部視えちゃうんだから

「ようこそ、異世界の勇者様方。この世界を……どうか、お救いください」


 AIで描いたかの様な絶世の美女、というよりは美少女と言うべきかしら、どちらでも良いけれども、流暢な日本語(・・・)で話しかけてきたわね。

 それにしても、おそらくはこの場で最も位が高いであろう人が話しかけてしたわけだから、こちら側も対応しなくちゃと思うけれど。


「あ、え? あ……えぇ?」


 あぁ、こちら側の年長者である担当教員は、この異常な状況に対して対応が全く出来ていないわね。はぁ、全く。


「私は、神ノ木(かみのき) 伊波いなみと申しますが、失礼ですが貴方は一体どちら様なのでしょうか?」


 まぁ、教員が駄目なら、生徒会長である私が動くほかないわね。副会長の冴斬(さえぎり)も私に目配せしてきたし、この集団のリーダーは私がやれってことなのでしょう。


「失礼いたしました、勇者カミィノキ・イナミ様。私はヒノス帝国第一王女シラユ・ヒノスと申します」


 流暢な日本語に聞こえるけども、私の名前が少し訛ったわね。それに、口元の動きと話している言葉が、変にズレているのは……あぁ、あれね。自動翻訳されている感じに近いわ。少し気持ち悪いけれども、それを指摘しても話が進まないから、無視するとしても、名前がカミィノキと言われるは、嫌ね。


「シラユ王女殿下、私の家名が発音しにくいのであれば、イナミ(伊波)でお呼び下さって結構です」


「お気遣いありがとうございます。それではイナミ様とお呼びさせてください。そして私のことも、是非にシラユとお呼びください」


 おぉ、凄いわね。私に負けず劣らずの微笑みを、私の微笑みを前にして平然と出来るとは、中々デキるわ。


「ではシラユ……さん。私たちにとっては、異常事態と言えるこの状況を説明してもらっても良いですか?」


 お、私が王女を名前で呼び捨てたら、明らかに敵意を向けてきたのが、何人かいたわね。どうせ、王女殿下を呼びにするとは無礼な! 的なものなのでしょうけども。


 ん? シラユの頭の上に何か表示が……


 ⚫︎シラユ・ヒノス

 ヒノス帝国第一王女

 十七歳

 女

 保有魔眼無し

 【備考欄】(▼更新)

 女神の信託を受ける程に、信仰心が高く、それ故にヒノス帝国においては〝聖女〟との称号を、民衆から得ている。

 民衆からの人気も高く、第一王子殿下からは疎まれているが、その人気の高さを盾に彼女は、第一王子殿下にも全く臆することなく、堂々と自身の意見を主張している。

 今回の勇者召喚に関しては、彼女の意思でなく女神の信託と言うことになっているが、正確に言うのであれば少々異なる。確かに女神は、自身と親和性の高い彼女の肉体を通して神託を行ったが、その内容は真逆と言ってよいほどに改竄されていた。

 女神は〝異世界人を攫ってくるのではなく、自分達の世界の力で世界を救うのです〟と信託した筈だったが、シラユは王、大臣、大神官達に〝異世界から勇者を召喚し、この世界を救いなさい〟と神託を受けたと告げた。そしてそれは、文献にある異世界からの来る勇者達を籠絡し、自身の駒と育て上げ、帝国を我がものとし、世界征服へと突き進む為であった。


「……」


 なっがい! しかも、【▼更新】があるってことは、内容が変わるってことよね。って、良くみたら、全員の上にこの王女と同じようなものが見えるんだけど!?


 王女は、説明に入ったら私達全員に向けて視線を向けているので、私が周りをキョロキョロしてても、気にしてなさそうね。しかし、さすが神託を真逆の内容にして利用する神をも恐れぬ腹黒王女、見事に庇護欲を唆る話し方と表情ね。


 なんか腹黒王女が色々説明しているけど、王女の備考欄を読んだら大体分かったし、他の人のを視てみようかしら……ん? そういえば、これって自分も視えるの?


 自分の顔は鏡でもないと見えないから、今は無理って……手の平を見るだけでもいけるのね。


 自分の手相を見る感じにしたら、私のプロフィール的なものが王女と同じように、手の平サイズのホログラム的に浮かび上がるってことは、原理はわからないけれども、どうやら身体の一部でも意識的に視れば良いようね。


 ⚫︎神ノ木(かみのき)伊波(いなみ)

 兎木崎(ときさき)高校生徒会長

 十七歳

 女

 保有魔眼有り

 右:鑑定の魔眼……自身も含め、身体の一部を観ることで、対象の情報を得る。

 左:狂愛の魔眼……自身の欲望を満たす獲物を狩る為に、視ている間は弱体化させることが可能であり、弱体化の程度は調整可能。


「どぅふ」


 おっと、私としたことが、思わず興奮が口から漏れてしまったわ。落ち着いて。落ち着くのよ、私……


 キタコレきたぁああぁああああああ!!!!!!! うぃいいいいはぁあああああ!!!! どぅへへへへへへへ……じゅるり。


 これはアレね、この世界に誰がどうやって私を呼んだのかは知らないけれど、一つ言えることは、貴方は最高の仕事をしたってことよ。どこかの神様。


 私の【備考欄】なんて、官能小説ばりに頭ピンク色なことしか書いてないから、これは間違いなく本物の力のようね。


 と言うことは、私が今からすべきことは()を観ることよ! でも慌てちゃダメよ、私。今私は学校側の最前列で、王女の話を聞いているふりをしているだけで、全く聞いていないの。そんな私が急に後ろを振り返って、彼を凝視したら流石に変だわ。


 王女の話の区切りに合わせて……


「シラユさん、大体の話は分かったので、一旦私達だけで話合わせてもらえないかしら?」


「もちろん、そのようにさせて頂きます。私共は、一度この召喚の部屋から退出させてもらいます。それでは、三十七分後にまた戻って参ります」


「えぇ、配慮してもらってありがとう」


 三十七分後とかすごく中途半端なのは、きっと時間の単位もおそらく此処は違うのね。何かしらの力で、私達の時間の単位として翻訳してくれているのでしょう。


「冴斬君、先ほどの王女の話を元に、これからの私達の行動指針を吉野先生と話し合ってくれないかしら」


「了解しました。会長は、ご一緒に話をされないのですか?」


「私は、ここに連れてこられた皆を一先ず落ち着かせることを最優先に動くわ。貴方なら、私の考えは理解しているでしょうし、私がいなくても問題なく話をまとめられると信頼しているもの」


「会長……お任せください!」


 ⚫︎冴斬(さえぎり) 琢磨たくま

 兎木崎高校副会長

 十七歳

 男

 保有魔眼無し

 【備考欄】(▼更新)

 副会長として神ノ木会長を支え、会長に対する忠誠心は世界一であると自負している。成績優秀容姿端麗である為、神ノ木会長と二分するほどの人気の持ち主であり、他校においてもファンクラブが存在するほどである。しかし当人は、そのことに関しては一切無関心であり、心はいつでも会長への敬愛に溢れており、それが会長への恋心であるとことは、本人も気づいていないのだった。


 あぁ、うん。ま、冴斬君はこんな感じよね。良くも悪くも想像通りだし、私への感情も、そりゃそうよねって印象がそのまま記載されているに過ぎないわ。


 ただ、意外なのは彼でさえ魔眼を保有していないということだわ。彼ほどの優秀な人物であれば、普通に持っているのかと思ったけれど、魔眼を持っているというこは、相当希少なことだと言うことね。


 他の子達の事も視ておく方が良いのでしょうけど、冴斬君が予想通りだったことがわかったと言うだけで、とりあえずは問題ないはず。


 と言うことは、いよいよメインディッシュぅううううう!!!!!


 はぁはぁはぁはぁ……そんな奥に引っ込んでないでぇえええ!!! よく視えないからぁああああ!!!! でもいいの! 私から人をかき分けつつ、自然に貴方に近づいちゃうのぉおおおお!!!!


 あぁ! 彼も私が近づいてくるのがわかったのね! 身体が強張ったのがわかったわ! ねぇねぇ、そんなに緊張しないで? そんなに怖がらないで?


 私は、とっても優秀で、高校で一番の高嶺の花で、スクールカーストを超越した存在けれども、モブの中のモブみたいな貴方が、私に声をかけられるなんて畏れ多いでしょうけど! オドオドしないで? 


 だってゾワゾワしちゃうものぉおおおおお!!!!!!


「日野君も大丈夫?」


「あ、あぁ、うん。大丈夫だよ、神ノ木さん」


「私の記憶が確かなら、最後まで貴方が教室で抵抗していたような声が聞こえたいたのだけれど……」


「うぇ!? いや! そんなことは!? ……ないよ。何も、僕は出来なかったよ」


 ひぃやぁああああ!? 羞恥よね!? その身体を縮こませたのは、最後の抵抗を見られていたことが、恥ずかしかったのよね!? だって、まだ無駄な頑張りになっちゃったから! 


 私の目を見れずに顔を伏せつつも、唇を強く噛むところや鬱血しているであろうほどに拳を握り締め、今にも泣き出しそうな表情を奥歯を噛み締めて、私に見せないようにしているのところが……ゾクゾクするわ。


 そして、そこからの……


「でも、僕は大丈夫だから。神ノ木さんも、無理しないでね」


 あぁあああぁあああん! 強がってるのが丸わかりなのに、それをバレてないと思って振る舞う姿がいいぃいいい!!! 無理無理無理無理ぃいいいい!!!


「……」


「神ノ木さん?」


 は!? 押し倒せるほどの至近距離でのコレは……危険だわ。冷静になるために、日野君のプロフィールを読まないと、最悪目の前で果てる自信があるわ。


 ⚫︎日野(ひの) 一路(いちろ)

 兎木崎高校在籍

 十七歳

 男

 保有魔眼有り

 右:女神の涙……女神の涙が宿し神具。主の身体に、これまで得られた筈の成長を十倍にして与え、かつ、これからの努力で得られる成長速度を十倍して与える。

 左:女神の燈……女神の怒りの炎が宿る神具。主の身体における成長限界を無効化し、理論上のおいては神をも凌ぐ力を得ることが可能。

【備考欄】(▼更新)

 元の世界の神の気まぐれで、一路(いちろ)は七歳からの十年間、どれだけの努力をしてもその得られる成長が十分の一になる身体と、どれだけ挫折しても諦めることの出来ない精神、常に人並み以下の結果となるように操作された因果律を与えられ、これまで生きてきた。

 そのことを本人が知る由もなくく、一路(いちろ)はまさに神の悪戯の対象となったのだ。

 神の呪いであるため、如何なる者でも一路(いちろ)を救うことは出来ず、そもそも一路(いちろ)がそれを知る術もなかった。

 しかし、そんな一路(いちろ)に転機が訪れた。それが、今回の異世界への召喚である。この世界を管理する女神の神域を抜ける際に、女神が一路(いちろ)の状態を把握し、その結果、女神は多いに狼狽した。神の呪いとも言えるモノを、自身が見守る子に付与するなどという所業を目の当たりにしたからだった。

 女神は同じ位階に存在する者として、贖罪の意味を込め一路(いちろ)に女神の祝福を超え、それは寵愛と言って良いほどの加護を与え、自身の世界に迎え入れたのだった。無論、このことを一路(いちろ)本人が知るよしもないのだった。


「……」


「神ノ木さん? 大丈夫? って、泣いてるの!? うぇ!? どうしたの!?」


 こんなの……チートじゃないぃいいいいいいいいいい!!!!! 絶対に無双してこれまでの鬱憤を晴らすかの如く大活躍しちゃうじゃなあああああああいいい!!!


 そんなの嫌ぁああぁあああああああ!!!!!


 クソ女神ぃいいいいい!!!! 余計なことしやがってぇええええ!!!!


 それと元の世界の神ぃいいいい!!! 結果的に私の新しい扉を開くことになったのは確かだけれど、このクズ野郎ぉおおおお!!!


 あぁあああ!!! 色々知りすぎて情緒がもたないよぉおおおおお!!!!!!


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