第一話 異世界転移の儀式を堪能する
この物語は、一人のヘンタ……もとい! 神により不遇な環境を与えられ続けた青年の冒険譚! を見ながら、一人のヘンタ……少女がその姿に熱くなる物語である!
異形の竜。
それは魔物と呼ばれ、異形の生物が存在しない平和な国で育った高校生が、絶対にみることがない生物だ。
だからだろう。
実戦で直ぐに動けたのは、私と彼だけだった。
だからこそ私は竜の前に行くことなく立ち止まり、彼だけを巨大で醜悪な竜の前に立たせたのだ。彼の能力値を私の〝狂愛の魔眼〟で全能力値を減少させ、彼の奮闘を一番近い場所で堪能する為に。
「ふへへ」
あぁ、なんて甘美で淫靡なのだ。
絶対に、誰にも彼のことは分からせないんだから。当然、それは彼自身にさえもね。
このお話は、私が彼を可愛がる物語。
誰にもそれの邪魔はさせない。
相手が、神であっても。
事の始まりは、何の前触れもない日常の中で起きた。
「なんで床が光ってるんだよ!?」
「窓も扉も開かないよぉ!?」
「なになに!? 何なの!?」
初夏の昼下がりの教室は、数学の担当教諭と授業を受けていた同級生達の悲鳴で阿鼻叫喚となった。
突然、開けていた全ての窓が一斉に閉まったかと思うと、眩いばかりに光出した床。そして耳を塞ぎたくなるほどの大音量で響き渡る鐘の音は、教室内をパニックにさせるには十分だった。
外に出ようとするが、開いたことなどこれまでなかったかのように、窓も扉もびくともしていなかった。
極め付けは、聞いたことも無い言語が直接頭の中に聞こえてくるようになった。ここまで来ると、担当教諭に加えクラスメート達は一人を除いて、その場にへたり込んでしまっていた。
どうやら、この何語か何か分からない言葉には、人の心を弱らせる効果があったのだろう。かくゆう私もその中の一人であり、クラスメートほどではなくても、この時点で机から立ち上がる気力はなくなっていた。
取り乱すことで事態が良くなることはないと感じ、努めて冷静にしていたが、経を読まれているかのように続く意味不明の言葉に、気力を奪われていくようだった。
「くそぉおお! 開けぇええ!」
だけれども私は他の皆んなと違い、完全に心が折れることはなかった。何故なら、私には彼がいたから。
「おぐぅえぇ……ぐぞがぁああああ!!!」
きっと彼も、私たちと同じように辛いはず。それは彼が吐きながらも窓に近くの椅子を使って割ろうとしているのを見ていれば、嫌でもわかるもの。
決して格好良くはないその姿は、狂気さえ感じるほど。でもその瞳は、どこか憂いを感じさせる。
どれだけ足掻こうと、理想の結果は得られないことを彼は知っているものね。でも、そのことを誰よりも理解しているのに、彼は自身の行動を変えることが出来ない。
どうにもならないとわかっていても。
努力見合う成果を、絶対に得られないとわかっていても。
それでも彼は、絶対に諦めない。ただそれは見方を変えれば、諦めないのではなくて、諦めることが出来ない呪いにでもかかっているかのようだった。
足掻いて、足掻いて、足掻き続けても、何も出来ない自身の力を呪い、その憂いを帯びた瞳は暗くなる。
「あぁ……ふあぁあぁぁ」
こんな訳のわからない状況だと言うに、私の身体は熱くなる。
顔を歪めながらも、どうせダメだと理解しながらも、それでも行動を止めることがない貴方のそれが、とってもぞくぞくしちゃうの。
「何で……何でだよぉぉおおおお!!!」
駄目! そんな涙目になりながら、開かない扉を諦めずに叩くなんて! どこの誰かしらないけども、最高の仕事をしてるわ! もっと彼を追い詰めてぇええええ!!!!
「でもよ……」
!? ほらほらほらほら! 来るわ! 来るわよぉおお!!! 反転するのよ! ひっくり返るのよ! 彼の瞳が絶望を薪にして、燃え上がるのぉおおおおお!!!
「俺の心は、絶対に……誰にも折れやしない!」
あぁああああ!!! 私が絶対に折ってあげるんだからぁああああ!!!
「はぁはぁはぁ……もう無理……ちょっと一人にさせて……」
今の私、絶対白目剥いてるわよね。よだれも酷いし、アヘ顔がやばい自覚があるわ。だけれどもこんな特殊な性癖のおかげで、このお経みたいな変な声にも精神やられていないのだから、人生何が身を助けるかわかりゃしないわね。
こんな性癖に目覚めさせたのは、彼にあるのだから、しっかり責任はとってもらうの。
ね、日野一路クン?
別に、私と結婚してほしいとかではないの。ただ、一生私の事を滾らせて欲しいの。だって、貴方以外で私の身体を滾らせるなんて、不可能だもの。
ねぇ、私がいつから貴方のことを観ているなんて知らないでしょ?
そう、あれは高校の入学式の帰りだったわ。って、回想するくらいに今の私は最強に滾ってるの。その心の何処かでは諦めたら楽になるとわかっているのに、それに逆らい身体を震わせながらも、立ち向かうその姿が私の心を、身体をゾクゾクさせるのだからぁああああ!!!
あぁ!? ついに血反吐を吐いたわ!? 瞳は涙目から次の段階に進んで、泣きのステージね! 口はへの字に曲げながらも、わかるわ! 負けないのよね!? 状況が酷くなればなるほど、立ち向かうのが貴方だものね! 全く力が足りなくて、負けるとわかっていても立ち向かわずにはいられないのが、貴方だものねぇええ!!! あぁあああぁああ!!!
しっかり見るのよ神ノ木伊波! 網膜に焼き付けて、あとで脳内再生して、一人きりの時に再び滾るためにぃいいいい!!!!
なんだったかしら、そう、彼との出会いだったわ。油断するとここでアヘ顔で果ててしまうのだけは、流石に私が社会的に死んでしまうので、それは避けなければならないもの。常に彼にマウントをとりながら、彼の這い上がる様子を観るために。回想でもして、ちょっと落ち着かないとね。
高校の入学式の帰り道、私は迎えの車に乗って帰る途中だったのよね。あの日は、卒業式の後も、主席合格だったことと中学の時の私の評判振りから、職員室に呼ばれたり、早々に告白されて振りまくっていたりして、他の生徒より大分遅く帰ったわ。
信号の待ち時間に、ふと車から外を眺めたら、何やらコンビニの駐車場が騒がしいじゃない? 屋敷から外に出る時は、街の喧騒を眺めるのが趣味な私は、運転手にコンビニの駐車場の端に停めさせたのだったわね。
どうやら頭の悪そうな男達が、数人で私と同じ制服の男子を殴っているようだったわ。どうしてそうなっているのかは、その男子生徒の後ろでへたり込んで泣いている女子高生を見れば、何となく察しがついたわ。
要するに彼は、その泣いている彼女をきっと助けようとしているよ。ただし多勢に無勢な上に、見たところ喧嘩に強いというわけでもなさそうだったわ。頭の悪そうな連中に馬鹿にされ、転かされ頭を踏まれ、そしてどこか憂いを感じる瞳だったわね。
でも、貴方は決して折れなかったわ。
塵屑の様にされ、唾を吐き捨てられても、後ろの女子高生に彼等の手を触れさせる事はなかったわね。どれだけ酷い仕打ちを受けて、瞳にいっぱいの涙を浮かべ、瞳の中に絶望の色を浮かべながらも、その瞳の中の一粒の光だけは失わない。
そんな貴方の姿に、私は震えたわ。
そんな事で、自分がこんなにも興奮する事があるだなんて知らなかったから、本当に驚いたわ。痛めつけれられ、瞳は如何にも負け犬のそれなのに、それでも取り憑かれたように立ち上がり、向かっていく。
警察が駆けつける頃には、立ったまま気を失ってなのじゃないかしら。そこまでしなくても良いのにと思うほどに、頭の悪そうな連中も痛めつけるのをやめなかったのが、あの時は不思議だとは思ったわ。
それからというもの、学校では同じクラスだと分かってからは、貴方の様子を観察しては、身体を熱くさせる日々だったわね。
貴方を見てきた結果わかった事は、〝努力に見合う結果が一切得られない〟という性質を貴方が持っており、何故か貴方に向かっていく者は、必要以上に苛烈になってしまうということね。
それを分かっていた私は、もちろん自重したわ。私が貴方に関わろうものなら……
あぁあああぁあああ!!!!!!!!!! 想像しただけでもぉおおおぉおお身体が疼いちゃぅうううううう!!!!!
はぁはぁはぁ……落ち着くために回想しているのに、その回想で昇天しそうになってどうするの私。
ふう……そうね。学力にせよ、スポーツにせよ、荒事にせよ。貴方は異常なほどに努力していることは、私は誰よりも知っているのよ。その情報の入手方法が非合法だとしても、そんなの関係ないわ。
誰よりも努力し、それは文字通り血反吐吐くほどであるにも関わらず、結果が伴わない。それが嫌というほど、自分でもわかっているはずなのに、諦めれ切れない。
そう、諦め切れないというところが、大事なのよ! 身体をふるふると人知れず振るわせ、拳を精一杯の強がりで握りしめるけれども、表情は今にも泣きそうになりながらも、泣くのを堪えながらも、諦め切れずに立ち上がり前を進もうとするなんて……
あああああぁああ!!! 私の嗜虐心が迸ってしまうぅうううううう!!!!! ひぎゃあああああっぁあああああ!!!!
あぁ、だめよ、ダメダメ。そんな必死な表情で、一人足掻かないで! ほら、なんだかよく分からないけども、いつの間にか身体が床に沈み出したわ!
「な……なんなんだよぉおお! どうして……どうして俺はいつも……何にも成せないままなんだよ」
やめてやめてぇええええ!!! 自分一人だけしか聞いてないと思って、このタイミングで弱音を吐かないで! もう私の身体が色々もう限界なんだから! どぅへへへへへ。
でも、堪えるのよ、私! 絶頂はここから……
「……知ってるさ。そう、そんなこと……俺は知っている」
そうそうそうそう!!! 貴方は、そうよね!
「俺は足掻くのをやめたりしない!」
ドォオオオオオオン!!!! はああああぁああん!!! 最後の最高の漢気台詞いただきましたあぁああああぁああああん……
こうして、私は果て……ではなく昇天……と言うことでなく、クラスメイト達と一緒に異世界へと連れ去られたの。
きっとみんなの心の中も、こんな感じでしょう?(白目)