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第2話 サブちゃん

 ワタシは小学校四年生になってた。

 このころには剣道を習い、柔道を習い、女の子らしくないと両親をなげかせながら大会でまあまあの成績を残して、それで学校の成績も落とさないので文句は言われなかった。あいかわらずの乱暴者、お転婆だと愚痴だけやたらこぼされて憂鬱だったけど。

 いつかあちらに帰ったときに役に立つよう遊びは控えてとにかく勉強をした。学校の授業では飽き足りず、学校の図書室、市立の図書館に通ってとにかく乱読し、知見を広めた。テストで求められていることは必ずしも正解ではないとわかったらいい点を取るのはもっと簡単になった。

 この世界では学歴が人生を決めるといわれて学校の成績を親が競ってるところがあるから、ワタシの乱暴なのだけが残念といわれてた。でももう知ってる。この国では学歴以前に男女で格差がある。自由に勉強ができるだけ、元の世界よりいいのだけど、それも結婚までと思われているし女の幸せは結婚と思われているところも同じだ。

 ユカリはこんな理不尽の中を生きてきたんだな。

 ただ、ちょっとおかしいのはユカリの前世と少し違うというところだ。彼女のとは違う世界に来てしまったのかと思ったが、出来事を生まれる前含めて振り返ってみるとわかった。ワタシのほうがだいぶ過去に転生してしまったみたいだ。

 なんでそんなことがおきたかなんて聞かないでほしい。

 さて、サブちゃんの件だ。

 同じ通学班にゆいちゃんという新一年生がいる。

 その子が痴漢にあったというのでしばらく休むことになった。キズモノとやらになって、親もいたたまれないだろうから引っ越すんじゃないか、うちの親がそんな無神経な世間話をしてた。

 犯人として捕まったのがサブちゃんだった。

 三日くらいがんばったけど、結局サブちゃんは罪を認めたらしい。

 サブちゃんは知的障碍者だ。自分のやってることがあんまりわかってないってことはあると思う。でも、ゆいちゃんが怖がって絶対近づこうとしなかったのは知ってるし、サブちゃんも傷つくので嫌われている相手には近づかない。寂しい人だった。

 サブちゃんが犯人ってちょっとおかしいなと思ってたけど、あくまのしょうめい、ってやつでどうにもできなかった。

 その日は女子だけあつめて、保健の先生からお話があった。

 早い子はそろそろ初潮があるというので、それが何かとか、どうすればいいかとか、準備の話だった。体の変化に自覚はあったので、うわぁ、いやだな、面倒くさいなと思った。

 それで帰りが少し遅れたのだけど、そこでゆいちゃんを見かけた。

 転校するという噂は本当らしく、算数セットとかいろいろ学校においてある荷物を持って大変そうだった。迎えをまってるらしい。

 迎えにきたのは彼女の御両親ではなかった。近くにすんでいる彼女の御祖父さんだった。五十台くらいだったか。

 にこやかに担任と話をするのは優しい祖父という顔だったが、ゆいちゃんの顔が曇ったのが気になった。

 それでまぁ、いろいろ予定があったんだけど後をつけた。そうしたらとんでもないものを見てしまった。

 ゆいちゃんの祖父は彼女をまず自分のアパートに連れて行った。家にかえさなかったんだよね。

 で、お菓子をあげたり持たせたりしたんだけど、それだけじゃなかった。

 古いアパートの鍵なんかピッキングするのは簡単。足音を殺して歩くのも簡単。魔法剣士だったけど、ドラゴンを起こさずに通過したいときもあるし、いろいろなのでそのへんのスキルも前世でもってたし、今世でも練習はしてた。

 ゆいちゃんのお祖母ちゃんはもうなくなったらしく、アパートの部屋は散らかり放題で汚かった。いやあな臭いの中でこんな声が聞こえちゃったんだよね。

「痛いか? 我慢せぇ」

 痛さにうめく声と、粗い息使い。

「よう我慢した。どれ、いま薬をぬってやるからの」

「ええか、このことは絶対内緒じゃぞ。でないとお前がひどいことになる」

「ほれ、小遣いじゃもっていけ。こっちのお菓子も持って行って、ごちそうになってたというんじゃぞ」

 前世の未開人の知識でもわかるよこれ。

 そっと抜け出して、考えたね。これほっといていいのかなって。そう思ってると、むかむかしてきた。

 いたんだよね。こういうケダモノ。あいつらにいわせれば、自分のものをどうしようと自由だ。うん、あの世界はそういう世界だった。貧しくって口減らしに老人や子供を捨て、はけ口に暴力をふるう。前世の子供のころの心の傷がうずいたね。

 前世の体と剣があれば踏み込んでぐっさりやってるところだけど、残念ワタシは子供だ。少々棒振りや組み打ちの心得があっても大人との体格の差は補えない。

 ゆいちゃんがばたばた出ていった。家はすぐ近くってわけでもないのにあのケダモノは送りもしないんだな。表情のない顔、光のない目を見ると、先々のためにするべきことはわかっていた。

 デンキや火事の原因のことをワタシはしってる。忍び込むと、ゆいちゃんの祖父は下着いっちょでビールを飲みながらテレビを見ていた。

 ちょうどいい。お酒がはいってるなら眠りの魔法が使える。

 五分ほどかけつづけると、彼はやっと船をこぎ始めた。ちょうどいいコンセントはすぐ見つかった。埃まみれでゴミにうもれている。電撃の魔法を入れるとブレーカーが落ちてテレビが消えた。起きてしまわないかひやひやしたが、とにかく散った火花を使って炎の魔法をかける。よし、ついた。ゆいちゃんの祖父はまだ寝ていた。

 そっと抜け出したワタシが家に帰るころ、遠く消防車のサイレンが聞こえた。


 お葬式にワタシは参加しなかったけど、近所なので野辺の送りを見た。

 ゆいちゃんに表情が戻っていた。でも、ゆいちゃんのママのほっとしたような顔を見て直感した。この人、全部知ってたな。女の直感はアタルのだ。お父さんは気づいていない。もしかすると、ゆいちゃんのママも小さいころ、同じ目に? 

 どうしてサブちゃんに罪が押し付けられたのかわかったような気がした。

 ゆいちゃんは救われた。

 でもサブちゃんは救われない。

 ワタシは複雑な気持ちだった。

 すぐ引っ越していったゆいちゃんのその後は知らない。

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