side測量官コリン(上)
俺は王城勤めの測量官のコリン(24)だ。
王城勤めだが平民だ。
文官はほとんど貴族だが特別職には俺みたいな平民もいる。
今朝は特別だ。
使い古しだがよく洗ってパリッと干したテーブルクロスを敷く。
空き瓶に道ばたの小花を挿す。
特別な日でもなんでもない。
いや、特別かな。
昨日『常連リクエスト』のパンを購入したのだ。
リクエストパンをフライパンに乗せ軽く炙る。
チーズが溶けたら皿に移す。
コーヒーは中煎りの粗挽き。
子供舌なのは自覚している。
勿論砂糖とミルクはアリアリだ。
リクエストパンとはアパートの階下のパン屋の商品だ。
丸ごとじゃがいもに厚切りベーコンを挟み固パン生地でくるんで焼いたものだ。
生地全体にチーズの細切れが練り込まれている。
重い上、子供舌仕様だ。
俺がリクエストした。
どこそこ産のあれを詰めて、この産地のこれを詰めてと細かく指定した。
指定が多いほど、たくさん購入しなければならない。
貯金を六割使った。
元々、リクエストパンのための貯金だ。
全く問題ない。
常連は半年に1回使える『常連リクエスト』券が貰える。
昨日リクエストパンを30個購入して、冒険者時代に使っていた時間空間魔法を付与されたカバンに詰め込んだ。
パーティーメンバーにかけだしの魔法使いがいて、暫く生活の面倒を見てやっていた。
そいつからお礼に手作りの魔法カバンをもらったのだ。
冷蔵庫がわりになる優れモノだ。
あの頃は楽しかったなぁ。
リクエストパンを食べられる今も幸せだ。
パンのために働く毎日も幸せだ。
そんな些細な日常が幸せだった。
大事な大事な日常。
コーヒーをカップに注ぎ、いざ食べようとしたら緊急登城命令が来た。
俺は焼いたパンを魔法カバンに詰め淹れたばかりのコーヒーを水筒に詰めた。
その水筒も魔法カバンに詰め、測量道具の入った背嚢を背負い登城した。
緊急登城命令は国王が出しているので、遅れると普通に首が飛ぶ。(物理)
☆☆☆☆☆
小走りで城に向かう。
職場に到着すると助手のニール(78)が来ていた。
俺はニールに状況を小声で聞く。
「ニール爺、状況わかるか?」
ニールは小声で教えてくれた。
「今からわしたちはローレンツ領に行くらしい。王国軍がローレンツ領に進軍してローレンツ領の麦畑を接収するそうだ。接収した畑を王家と派兵した貴族とで分配するんだ」
「ローレンツ閣下は何か悪い事したのか??」
「しっ!それ絶対声に出すなよ物理的に首が飛ぶぞ」
「お……おお。」
「なるべく王家の取り分を多くするのが俺たちの仕事だ」
「おう」
俺たちは着替えた。
上は文官の制服のまま。
足元は軍靴。
軍の背嚢に仕事道具を詰め替える。
洗い替えの制服も背嚢に詰めた。
魔法カバンは制服の内側に装着する。
セントラルステーションからフェーラー家の転移陣へ跳ぶ。
ローレンツ領行きの転移陣は破壊されてるので動かない。
片方が破壊された転移陣は使えなくなる。
俺は詳しくないが。
だから最寄りのフェーラー家へ飛ぶのだそうだ。
フェーラー家からローレンツ領はそんなに遠くない?らしい。
フェーラー家からの行軍は辛かった。
俺はあえて後方に並んだ。
見てる間に農兵が減っていく。
こうフワンと。
フワンフワンと人が消える。
農兵が減るので仕方なく列を詰めた。
木箱に詰めた食料も減っていく。
なんだろう?こう?フワンと。
フワンと消えて行くのだ。
フワンと少しずつ少しずつ徐々に。
行程の半分くらいから地獄の様相と化してきた。
食料が足らない。
フワンフワン消える上に消費もされていく。
おまけに最初からギリギリの分量だったらしい。
ローレンツ領へあと3日ってあたりで小競り合いというか醜い争いが起きた。
食べ物を巡って醜く争う王国軍人。
まだ動く元気のある者は林に分け入って小型魔獣を狩ってくる。
そうすると正規王国軍人が狩ってきた兵士を殴る蹴るして魔獣を奪ってしまう。
毒持ちの魔獣に度々あたり、王国軍人が荷台に乗せられていたりする。
輜重隊の荷台だ。
空だからちょうどよく載せられる。
俺はニール爺さんを連れて岩陰で例のパンをかじる。
水筒に入れたコーヒーを飲んでいると爺さんが
「コリンさんよ、コーヒーは喉が乾く飲み物じゃよ。水を飲みなされ」
と言い指先から水筒のフタに水を入れてくれる。
ニール爺さんは弱弱の水魔法が使える。
検査にひっかからない程度の魔力量だそうだ。
そんな感じで俺とニール爺さんは至って元気だ。
だが元気だと目立つので交代でお互いを背負い、衰弱を装っている。
交代しているという不自然さは周囲の誰も気にしないようだ。




