母と【ローレンツ1号】
☆☆☆
まる1ヶ月の強化キャンプが終わると、我が領は麦の収穫時期である。
他領は初夏が収穫時期なのだが、我が領の麦は他領の麦とは全く別の理の生き物なので
市場に麦が品薄になる時期を見計らって、収穫するのである。
早朝から、領民、領兵、我が家の使用人、私たち家族全員畑にスタンバって
収穫用の麻袋を持って並ぶ。
麦たちは、列になり頭から頭髪のように生えている麦の穂を麻袋を持った人々に手渡す。幼い個体は穂が1本だけど、育つと3、4本生えてくる。年老いた個体は1本。
穂を人間に手渡し終えた個体は、また畑に散り散りに戻っていく。
収穫した麦は4割を国へ税金として物納する。
残りの6割は、魔鉄で出来たサイロに厳重に保管する。
サイロの周りは領兵が警備しているが、サイロもサイロの扉の鍵も
「竜が踏んでも壊れない」のだが、余計な騒動を起こさないよう、ちゃんと警備している事を見せつけている。
実はサイロより「麦舎」の方が最重要施設なのだ。
麦舎の警備はガチで厳重だ。
「麦舎」とは、麦が日没後寝る場所だ。
彼らは日が沈むと、各々麦舎に戻ってくる。
日が昇ると、圃場に出て光合成をする。
現在、圃場の周りは高い壁で囲って、麦を盗まれないようにしているが、
最終的には、天井もはめ殺し窓にして、完全な防犯を目指そうと思っている。
母の研究棟もやばい。
麦とトレントを掛け合わせて、
寿命を延ばし戦闘力を与えようとしている。
品種名は決まっている。
「ローレンツ2号」だ。
トレント程度の戦闘力なら一応自衛できるけど、
ゴーレムと麦を掛け合わせてもっと戦闘力の高い
「ローレンツ3号」も開発中だ。
これも王家には内緒の研究だ。
みつかったら接収されてしまう。
研究は既に佳境を越えており、今は領民の顔を覚えさせて
敵味方の区別を学習させている最中だ。
麦ゴーレムの仕上がりが楽しみだ。
普段は森の中を歩き回っていて、魔獣退治とかするそうだ。
退治した魔獣は吸収して養分にするらしい。
収穫期にだけ、人里に戻ってきて普段は姿を現さない仕様にするらしい。
こんな生き物ばかり作っていたら。母は魔王と呼ばれてしまう。
いっそのことダンジョンマスターをテイムして
ダンジョン内で作物作った方が、危なくなくない?
そんな事をちらっとこぼしたら、父も母も喰付きが良かった。
冗談なのに。




