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おまけ

三年生となれば力が入るのは文化祭。模擬店が多い中、俺のクラスでは王道と言わんばかりの演劇となった。

何故王道か、そりゃあうちにはThe主人公の真堂太陽がいるからだ。


小説家志望の生徒が書いたオリジナルの台本だが、演劇内容は王道の王子様とお姫様の話。

王子様はもちろん真堂だし、お姫様は学校一の美少女森浦さん。

そして女子生徒の強い要望で、なんと姫を守る騎士に一将が就任した。


三つ巴かよ!?と思ったけど、最近の王道とはそういうのが美味しいそうだ。なるほど、時代は移り変わるんだな…。俺の時は王子の俺とお姫様の森浦さんだけだったけど…。

本番さながらの練習で裏方の俺は道具作りに勤しむ。そしてそこで見たのは、姫に立候補できなかった奥ゆかしく慎ましい女の子の姿で…。


「……可愛いなぁ…」


とある一角にあるのはお姫様の衣装ブース。ティアラが置いてあり、それをそっと手に取るのは王子付きのメイド役奥墨委員長だ。

いつもの三つ編みと役のために眼鏡をコンタクトに変えている。羨ましそうにも聞こえるそれに俺がどきまぎしていたら…現れるのはもちろん、真堂だ。


「委員長?どうしたんだ?」


「し、真堂くん…!う、ううん、なんでもないですっ、なんでもない!」


「…あ、ティアラ?可愛いよな、委員長はそういうの好きなのか?」


「っ……う、うん…でも、私には似合わないのわかってるから…」


「んー…委員長、ちょっとごめんな」


一応断りを入れた真堂は返事も待たずに委員長の髪を結んでいたリボンを取り去り、黒い髪の毛が緩くウェーブがかかってふわりと広がった。

そしてティアラをそっと頭に乗せると、に、と人好きする笑顔を向ける。


「よく似合ってるよ、委員長。すげー可愛いと思う」


ぼ、と赤くなってあわあわし、右へ左へと視線を流して肩をすくめた委員長は消え入りそうな声で「…ありがとう」と伝える。

それを見守ってからそっと舞台裏から離れた俺は心で小さくガッツポーズ。

さすがだぜ、真堂。すごいぜ、真堂。

前世では森浦さんに「舞台から現実に戻っても…森浦さんは…俺のお姫様だから…っ」なんて言ってただけの俺と違う。

メイド(役柄)すら落とす王子様…我らの主人公は違うな…!





舞台袖で何やらうんうん、と満足そうにしている誠人が見えた。

何をしてるんだろうか、とぼんやりと思うけれど今俺は舞台に立って練習の最中。

クラスの女子に推薦させられ、無理やりやらされた騎士役。嫌ではあったがクラスの決め事に逆らえることもなく…今に至る。

俺はただ姫を守る騎士、なはずだがオリジナル台本ともあり、セリフがなかなかの言い回しだ。

ちょうど今の場面もそうだ…王子を追いかけたい姫、だけど一国の姫ともあり動けない姿に騎士は膝をつき、その手を取る。


「…姫、後のことはこの私にお任せください。あなたの幸せが私の幸せ、あなたの笑顔こそ私の喜び…どんな形であれ、あなたを幸せにするのが私の使命なのです。さぁ行ってください、…大丈夫、私はあなたの騎士。必ずや、あなたのそばに」


森浦は役らしくありがとう、とだけ告げたはず。何故、はず、なのかという練習を見守っていた女子達の甲高い声にかき消されたのだ。…うるさい…。

「やばい」「かっこいい」「惚れる」などと聞こえるがどうでもいい。…ん、待てよ、女子がそう思うなら誠人も多少そう思ってはくれないだろうか…?


俺は森浦越しに舞台袖にいた誠人に目を向けた。

そこにいたのは惚れ直してくれた誠人…がいるわけもなく、鼻で笑っている誠人だった。…いつも思うがあいつの反応はいつも予想外過ぎる…いやそれが面白いんだが、あれはいったいどんな感情なのだろうか…?





黄色い声援に耳がキーン、となる。モブとして聞くとここまでうるさいとは思わなんだ…。

騎士らしく膝をついて、そして漫画にあるような歯が浮くような言葉をつらつら並べる一将。

そんな一将と目が合うと、思わず全力で表情歪めて鼻で笑ってしまった。


「んなもん前世で腐るほど聞いたっつうの」


それは作られた台詞ではない。他人に向けられた言葉ではない。一将の心より紡がれた、俺への言葉。

それを知っていて、あれにときめく程俺もバカじゃない。まぁ懐かしいな、とは思ったけど。

その後不服そうな一将にじっと見られたが知るか。


文化祭の本番はなんの問題もなく終わって、大道具係の俺としては満足な結果だった。裏方メンバーと舞台袖から舞台を見れば、真堂と森浦さんと一将が客席に頭を下げて新聞部の部員にインタビューなんて受けてる。


「いやぁ素敵な劇でしたね!お姫様は王子様を選んだわけですが、やはり騎士役の上紺屋くんは残念に思ったのでは…!?」


「いや別に…」


「おっと、クールですね。でも美少女のお姫様ですよ?ときめいたりとか…!?」


「とくには…俺には俺の大事な人はいるんで」


「爆弾発言だーー!!女子が倒れた、阿鼻叫喚だ!!」


か、一将お前ーーー!!な、なに、なにを公衆の面前で…いやまだ救いはある 、大丈夫だ、落ち着け俺。これ以上の被害(主に俺に)を出さないためにとやつを止めないといけない…!

どうする、どうやって止める、と舞台袖でわたわたしていたら舞台にいた森浦さんと目があった。

も、森浦さん!あいつを!あいつを止めてくれ!必死に目で訴えると森浦さんは真剣な表情でこくん、と頷いてくれた。さすが前世の奥さん!以心伝心はばっちり……なはずが、何故が森浦さんはこちらに歩いてきて。


「え、っえ」


俺の腕を掴み、舞台袖から舞台裏へ。パニックな俺はなにがなんだかわからない。

ぽふ、と頭にロングのウィッグが乗せられた。肩から身体がすっぽり隠れるローブがかけられた。そしてちょこん、と頭にティアラをつけられた。

え、なにこれ。


「持木くん、可愛い……行こう」


……いやいやいやいや!?気づけば俺はまた森浦さんに腕を引かれて、なんと舞台の上に引っ張り出された。

悲鳴が響く。息が引き攣る。どういう状況だよ、これ!?


「おっとー!!お姫様がお姫様を連れてきたぞー!!これはまさか…騎士様の大事な人ー!?」


うおおお…嘘だろこれ……どうやら森浦さんはウィッグとローブでカモフラージュをしてくれたらしく、俺だとはバレていない。新聞部部員と客席には女子だと思われているようだ…170cm超えた女子高生…。

俺とわかっているのは森浦さんと真堂と一将…誰か止めてくれ、と思っても森浦さんは満足気だし、真堂はキラキラと表情明るくしてるし、一将は、おお、なんて感嘆漏らしてる。バカか!!!


「上紺屋、ほら、ここは行ったほうがいいんじゃないか?」


「…ん」


真堂煽るんじゃない。一将、騎士の格好のまま来るんじゃない。膝をつくな!俺の手を取るな!こっちを見るな、ばかやろう!!!観客の声がうるせえんだよ…!!

否定したいが声を出したらバレそうで何も言えない。じ、と見上げる一将の視線に息が詰まる。


「…未来永劫、いいや例え来世でも…どうかずっとお傍に。…頷いてくれるまでこの手を離しはしませんよ、俺のお姫様」


一将が口を開いた所でしん、となった会場に一将の言葉が響く。おいおいおい!なんで今、皆息を潜めるんだよ!?騒いで消せよ!俺の返事待ちかよ!こっちは羞恥で死ぬつうの!!

じわ、と広がる恥ずかしさ。演技とは違う、俺に向けられた言葉。前世と重なるのに、前世の俺ではなく今の俺に向けられたもの。嬉しい、恥ずかしい、嬉しい。そんな感情にごちゃごちゃと支配される。…それでもふと見せてくれた一将の笑みと、その優しさと裏腹に絶対離さないのだと言うような射抜く視線に負ける。


「………は、…」


声はバレてしまう。吐息でそれを誤魔化すと赤くなって固まった顔を何とか動かし、こくり、と小さく頷いた。

瞬間、体育館には割れんばかりの歓声と悲鳴と色んな声が混ざって鼓膜がいかれるかと思った。

キラキラと輝いた瞳で拍手してくれる新堂と森浦さん。もうやだ、なんで俺昔の奥さんと子孫に祝福されてんの。恥ずかしいんだけど。

一将は頷いたことで満足そうにしており、ぎゅ、と手を握ったまま立ち上がって、


「ありがとう」


そう囁くと俺をそっと抱きしめた。また会場はとんでもない声量に包まれるし、人前で本当に勘弁してくれと震える俺はバレないようにすることで必死だった。

モブ、というのはこういう時に便利なのだろう。学校内は騎士のお姫様を探せ!という話題で持ち切りだったけれど、元々の存在感の薄さにより正体がバレることはなかった。

だがしかし、委員長と黒岩先生には生温い瞳を向けられてる気がしたけれど知らないふり。秀才恐るべし。

ただただ俺は平穏な日常に戻ることを祈って、身を縮こませるしかなかったのだった……。




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