モブが幸せになりました
俺は愛情いっぱいに育ててくれた今の両親にめちゃくちゃ感謝してるし、とても好きだ。故に、一将とこうなった事は申し訳ない気持ちもあったし、隠したくないとも思った。
思ってたけども、一将がそれ以上に真面目に突き進んでしまい、なんと母さんの具合が良くなった時を見計らってすぐに言いやがった。
「息子さんを俺にください」とうちに遊びに来て晩飯をあやかってる時にお前はこのやろう…!!!
固まる両親。冷や汗かく俺。そんなん関係なしに「誠人と真剣にお付き合いさせてもらってます」なんていうし、もう…バカかよ…!!
俺はもう自分の顔が青いのか赤いのかわからない。
そんな俺に母さんがあらぁ、と間の抜けた返事をした。
「誠人が幸せならそれでいいの、言いづらかったでしょうに、こんなにしっかりと伝えてくれる人なら安心ね…」
「ん、ん…まぁ…そう、だな…驚いたが…お前がそれでいいならいい」
父さん…母さん…!あぁ本当にこの人たちのところに産まれてよかったなぁ、なんて泣きそうになってたら母さんがぽ、と頬を赤らめて父に肩を抱かれている。え、なに…。
「まぁなんだ、子供とか血とかそういうのは気にするな…私達も話そうと思っていてな」
「……女の子ですって」
「…は、……」
「おめでとうございます」
え、えー…この年になって妹ができるよカミングアウトー…だから具合悪かったのかよまじかよー…。
…ま、まぁうん…この人たちの血を残していけないのは申し訳ないな、とは思ってたからよかったけども…俺は子供いたし、一将は…うん…俺だけでいいっつってたし…昔も言ってたし…恥ずかしい…。
そんなこんなで晩御飯も食べ終えて小梅の散歩ついでに一将を送ろうと外に出た。
駅前までくると何やら噴水に人だかりが出来ていて…「俺と結婚してください!」なんて聞こえた。おー公開プロポーズかよ、かっけーなんて思って覗いたら…絶句。
「…私でいいの…?」
「君しかいない」
「…嬉しい、ありがとう…!」
指輪を受け取り涙ぐむ女性と、プロポーズ成功でガッツポーズをする男性。
…あれ、昔より若いけど…前世の俺の親父とお袋じゃん…嘘だろ、おいおい…。
前世の不仲どうしたんだよ、すげーラブラブじゃん。え、何事まじで。
…どっかで聞いたことがある、人は生まれる前に誰に出会ってどんな試練を自分に与えるか決められるらしい。出会った人とどうなるか、試練を乗り越えられるかは歩む人生によって変わるらしいけれど…それが本当なら、あのふたりはもう一度出会うことを選択し、もう一度やり直すことを決めたのだろうかとぼんやり思った。
家を出てからは一切関わらなかったからわからなかったけど…あの人たちもどこかでは思い合っていたのだろうか…それはもうわからない事だけど、俺の中で少しだけ思い出が和らいだ気がした。
今度は幸せになってくれよ、なんて思いながら去ろうとしたら人だかりを押しのけてその二人に近付く影がひとりいた。
「姉ちゃん!」
「太陽!どうしてここに…」
「義兄さんプロポーズ成功したんだね、おめでとう」
「ありがとう、太陽。お前のおかげだよ」
お、おっとー…真堂お前かー…すげえな、真堂。前世の母は真堂の姉に生まれ変わったようで。真堂は本当に名前の通りの男だ。きっとあの二人は太陽に照らされたから昔とは違う自分たちになれて、ああして幸せを掴んだのだろう。
太陽がいるならなんの問題もないな。友達の姉夫婦なんてよっぽどのことがなければ関わらないし、まぁ俺の方には大丈夫だろう…。
「プロポーズで先に越されちゃったけど…私も言いたいことあったの」
「うん?」
「……私、…実はできちゃったみたいで…」
「本当か!?」
「わ、姉ちゃんおめでとう!」
「ありがとう。性別はまだわからないんだけど…なんとなく、男の子だと思うんだ。そしたらね、太陽、あなたの名前を真似て…陽太ってつけようと思ってるの」
…遠い記憶、母に呼ばれた名前にびくりと肩が揺れた。
「陽太って…曾祖父さんの…?」
「そうね、元を辿ればそうなんだろうけど…会ったことはないけれど曾祖父様も優しい人だって聞くし、何より男の子なら太陽みたいに皆を明るくしてくれる人になってほしいから」
「な、なんか照れるなぁ」
「ふふ。…元気に産まれてきてね、陽太。待ってるからね、三人で幸せになろうね」
「陽太…いい名前だな。陽太ーパパも待ってるぞー、なんて気が早いか。…男の子かぁ、いいな、俺息子と一緒に酒飲むのが夢なんだよなぁ」
視界が歪んだ。それは在りし日の夢。有り得なかった現実。それでも…陽太と幸せになろうと言ってくれる、…泣いてた子供の俺が救われた気がした。
…待てよ、前世の母さんがこれから産む子が男の子。…今の母さんがこれから産む子が女の子。……いやいやいや、ははっまさかそんな、なぁ?ないない、そんな…いやいやいやいや…。
怖い妄想が繋がりそうになり、俺のセンチメンタルも吹っ飛んだ。俺の百面相を見てたのか一将がなんか肩を震わせて笑ってるから思い切り肩パンをいれた。さっさと帰れ、阿呆!!!プロポーズに感動してたのか、なんて言ってんじゃねぇのよ帰れ馬鹿!!!
そんなこんなでわちゃわちゃしてたらぐるりと季節は変わって俺達は高校三年生になった。
周りではいろんな事が変わっていった。
まずは真堂にはまだ彼女はできていないけれど、どうやら最近は奥墨委員長が頑張ってくれているらしい。ぜひ恋を叶えて欲しいものだ。
梨塚と有栖は学年があがり後輩を持つ立場になると、どうやらお互いにしっかりとし始めたらしく後輩教育に精を出している。最近は年下もいいかも、なんて言ってるとか…?
金城は無事に元世話役だった男(現在同級生)と付き合い始めたそうだ。よかったなぁモブのひとり。
双子の姉妹はうじうじしてる妹に、姉が叱咤激励したことにより妹が吹っ切れて、自分らしく姉妹仲良くしているらしい。やはり双子の絆に勝てるものはないようだ。
そして黒岩先生はなんと、先日婚約の報告をしてくれた。
相手は学生時代に青い髪飾りをくれた人…黒岩先生が忘れられない気になる人、と言ってたやつだ。
同窓会で再会し、実はお互い、なんて話からとんとんと話が進んで再会数ヶ月で婚約となったらしい。さすがは元委員長、段取りが早い。
あとは森浦さん。森浦さんは…うん、相変わらず読めない感情でのほほんとしていて、俺達のことも祝福してくれたし梅太郎と小梅のお見合いもしてくれたし、うまくもいった。
…実はここから何年かすると大学に進んだ森浦さんが独身の教授を射止めて大恋愛をするんだけど…まぁそれは未来のまた別の話。
まるでゲームのような人生だと思っていた。
だけど現実は思いのほかゲームよりも二転三転と転ぶ面白いものだった。
それに気づけたのも全部、俺がモブになれたおかげだと思う。
主人公ってのも悪くはなかったけど…脇役も実によかった。いいや、脇役なんてないのかもしれない。
誰でも、きっと大切な誰かの主役だ、それに気付かされたのは大事な仲間と…大切な人のおかげ。
あぁだけどやっぱり…次も転生するならばやっぱりモブがいいな。どんな幸せも、モブからしたらとんでもなく大きくて、素晴らしいものに感じるんだから。
終わり




