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モブが幸せになってもいいのだろうか

家に引きこもって早二日。気付いてしまった俺と上紺屋の想い、真堂太陽の口から聞いた名前、それに頭が追いつかずにキャパオーバー。知恵熱出したのが昨日。どんな顔をしていいかわからずにズル休みが今日。


「…合わせる顔がない」


まさにそのとおり。思い出せば思い出す程、一将の視線が一将の表情が一将の言葉が、はるか昔から俺を想っていたことがわかってしまう。

それに気づかないふりをしたのも俺だし、自分の心にも見ないふりをしたのも俺だ。

あんなに一途に見てくれていた男を、好きにならないわけがないのだ。


そしてまさか自分の子孫と同級生になるなんて誰が予想した?

俺の前世の名前は陽太だった。ただの偶然、そう思えばよかったのだけど…話を聞けば聞くほどそれは確信にしかならなかった。

曾孫世代であればそこまで詳しい話は知らないようだったけど、曾祖母の名前はみどり、先に亡くなった曾祖父は入婿で女ばかりの家系でようやく産まれた男が太陽だということ。

生前曾祖父宅には付き人の男がひとりと柴犬が二匹いた。そして柴犬の子孫が代々いて…その一匹を森浦さんが飼っており、名前は梅太郎。俺の家の柴犬は小梅。それは前世で飼っていた雄雌の柴犬夫婦の名前だ。

こんな偶然があるものか、いやない。


帰りに梅太郎に会わせてもらったら、完全に梅太郎だったし、ぶんぶんと尻尾を振って物凄く懐いてくれた。

森浦さん曰く「普段は男の人に全然懐かないのに…持木くんすごいね…?」と言われた。う、梅太郎…!と泣きそうにハグしたらべろべろに舐められ、帰ったら小梅にどこの犬の匂いよ!と怒られたものだ。お前の元旦那の匂いだよ…。


そんなこんなで俺は毛布にくるまり、ごろごろしていた。人生緩めなモブだと思ったのに、なんつう急展開。はぁ、とため息ついていたらインターホンが鳴って、母が出る音が聞こえた。そして部屋に向かって言葉が投げかけられる。


「誠人ーお友達がきてくれたわよー」


「風邪引いてっから無理」


「もう熱下がったじゃないの、仮病はだめよ…お母さんだって具合悪いのよ、今日の晩御飯は自分でやってね」


ガシャン、と玄関の鍵が開けられる音がした。そしてそのまま母がぱたぱたと部屋の前を通り過ぎ、リビングの扉を閉めて奥に行ったようだ。

待って母さん具合悪いなんてはじめて聞いたけど大丈夫なん……と毛布から顔を出した矢先、俺の部屋の扉が開けられた。

そこにいたのは今最も会いたくはなかった男、上紺屋一将。そのまま中に入れたのかよ母さん…!!


「……大丈夫か、二日も休んでるから皆心配してた」


「大丈夫だけど移すとわりいから帰れ」


モブを心配しないでくれよ、まじで…俺はいるかいないかもわからないようなモブでいいんだよ…今更そんなん言えない所まできてるんだろうけど…。

もそもそと毛布に包まり直して背中で拒否を向けたらギシリと床が鳴った。

気配が近付く。来るな、そばに来るな、今はまだ見たくない、感情が追いついてないのに、何故お前は、


「…誠人」


「…っやめろ、帰れって言ってんだろ!」


伸ばされた手が俺の肩にかかる。それを思い切り払うようにして起き上がると、深く息をしながら少しでも距離を取ろうと壁にもたれて離れる。

叩かれて赤くなり、行き場のない手を宙に浮かせたまま目を丸くした一将がそこにいる。

…やりすぎた、か…?いやでも寄ってくるこいつが悪い。


「……っ」


「…な、なんだよ…」


唇を噛み締めた一将が俺を見る。びく、と肩が揺れたかと思うと一将の手が俺の腕を掴んで、ベットに乗り上げると同時にダン、と壁に押し付けた。


「痛…ってえな、バカ力!なにすんだよ!」


「なんで俺を避ける」


「…別に、そういうわけじゃ…」


「二日前の昼休みぐらいから俺を無視してるだろ」


「………」


「なぁ頼むよ、なんか怒らせたなら謝るから……俺を拒否しないでくれ」


ギリ、と痛いくらい握っていた俺の手首を引き寄せ、まるですがるように乞い願うように俺の手に顔を寄せる。

…バカだな、記憶ないくせに…まるで昔の一将みたいじゃんか。他愛もないことで喧嘩した時、『一将なんかどっか行けばいいんだ!』と言い放つと一将は俺の手を取り、絵本の騎士のように手の甲に額を寄せて謝った。

『どうかお傍に…あなたの傍に仕えられない苦しみなど耐えられない。他の罰ならなんでも受けますから』

俺が悪いのに、一将はそう言う。そう言ってくれる度に、安心する俺もいて…性格悪いな俺。


こんな顔してさ、こんな事言ってさ、それで好きじゃないとか好きにならないとか、嘘じゃん、無理じゃん。誰もそんなこと言ってないけどさ。

悩んでた自分が馬鹿らしくなって、俺はため息をひとつついた。はっきりさせよう、俺の為にもこいつの為にも。


「…なぁ一将」


「…ん」


「お前、俺のこと好きなの?恋愛的な意味で」


「………!」


あ、その顔ははじめて見た。いつも表情を崩さない男がはじめて見せる、戸惑い、照れた顔。

右へ左へ視線が流れて、少しだけ間を開けて「…ん」と小さな返事をする。どうしてとかなんでとか、恥ずかしいから否定するとか、そういうのがない所がまた一将らしい。俺からそう問われた事に疑問に思えよ、あと一応違うとか言えよ、男同士だぞ…。


「……なんで?俺、別に女ぽくもないし可愛くもなければ綺麗でもない。結構その辺にいるような顔だし、特質したなんかもないのに」


好かれる要素なんて微塵もない。俺はメインキャラたちのような煌びやかさも特別な何かもない。俺はモブ。昔みたいに主人公ではないのに。誰かに好かれるスキルなんてないのに。


「…一目見た時に、見つけたと思ったんだ」


「……?」


「子供の頃からずっと誰かを探してる夢を見てた。誰かもわからないのに、ずっと探してる。小さな子供の背中を見つけて、声をかけると…振り向いてくれるのに起きたら顔も覚えてない」


「……」


「ただの夢だとわかってるのに、現実でも胸がざわつく。何かが足りないのと探してしまう。何か、なんてわからないのに」


「………」


「高校が決まって、夢が変わった。その子がひとりで泣いてるんだ。それがわけも分からないくらいつらくて思わず声をかける。俺が傍にいるから泣かないでって。そしたらその子は顔をあげて大きな黒い瞳に涙いっぱい溜めて笑う…それがぎゅう、と胸を締め付けた。…でも起きたらやっぱり顔がわからない」


「…………」


「高校に入学して、クラスに入ってお前を見た時に、頭ん中で夢がリフレインした。見えなかった顔が、忘れていた顔がお前になって、…見つけたと思った。俺はお前を探してたんだって」


「……夢、…そんなの夢、だろ…」


「あぁ夢だ。でも顔とか性格とか、そういうんじゃない。多分、魂とか…そういう見えないものに惹かれた気がする、お前がいい、お前しかいないって俺の魂も言ってるみたいだった」


俺は、もう昔の俺じゃないのに。それでも俺だという。俺の魂をそうだと言ってくれる。じわりじわりと耳で赤が広がっていく。これ以上の告白なんてあるのだろうか。


「いつも自分は傍観者、みたいな顔してるのに気づけば体が先に動いて誰かを助けてる。誰かの幸せそうな顔に表情緩めてる。他人ばかり見てるんだ。自分の幸せはいいのかって思ってた。心の底から幸せだと思ってる顔が見たかった…そう思ってたら、…俺が幸せにしてあげたいってなってた」


あった。それ以上に飛び抜けた告白があった。なんだよもう一将何なんだよ…お前それ俺の最期の…あーもう、お手上げだ。前世から追いかけてくれた男に俺からかける言葉なんてひとつしかない。


「……多分、…いや、うん…きっと、そう、だと思う」


「……?」


「…心の底からの幸せってやつ、…一将しか、ないと思うから」


「!」


「…幸せに、してくれ」


「もちろんだ」


握られた手が離されて、それが背中に回されてぎゅう、と強く抱きしめられた。

あーくそー…俺はモブなのに…モブが幸せになってしまった…いや、まぁ…今のご時世ならそれもあり、か…?何せ、モブが王子様になれる時代だ。…まぁ…モブがお姫様になることもまぁ…?

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