閑話 召喚されたもう一人の聖女 パート1
セイナと一緒に召喚された聖女、君島 紗耶香は召喚された広間から、エンリ殿下達と共に聖女の為に用意された部屋に案内をされて、其処でエンリ殿下と側近のロイドから色々と説明を受ける事になる。
「聖女、紗耶香様、まだ少し混乱をしておられるかもしれませんが、暫くはここで休まれると良いでしょう、ですが、少しだけお話させて貰います」
エンリ殿下が穏やかな表情で優しく紗耶香に話しかけて、ロイドに目配せをした。
「はい、分かりました」
紗耶香は俯き加減で返事をした。
「はい、ありがとう御座います。聖女様には精神的に落ち着かれましたら、聖女としての能力の訓練をして頂きますが、身体に負担を掛けない程度で行います。其れからこの世界の情勢などの教育を簡単にさせて頂きます。其れと生活面で欲しい物があれば聖女様専用の御付き者にお伝えください。用意出来るものは手配させて頂きます」
ロイドは手短に簡潔に説明を行った。
「ただ、聖女様、貴方の居た世界とは異なるゆえ、用意出来ない物もある事をご理解して頂きたいのです。その代わり用意出来るものは全て揃いさせて頂きます」
エンリ殿下は紗耶香に、用意出来るものは全て、手配する事を約束した。
紗耶香は側近のロイドとエンリ殿下の説明を聞いて、本当に異世界に来たのだと思い、家族の事を考えると寂しい思いもするが、憧れの異世界に来たのだという思いも有り、その思いが複雑に混ざり合い、思考が混乱しているので、自分の中で整理したいと想いたち、エンリ殿下にお願いする事にした。
「あの、大まかな事は分かりました。申し訳ございませんが、心の整理をしたいので、一人にして頂けないでしょうか、今後の事も含め色々と考えたい事もございますので、お願い出来ますか」
紗耶香は丁寧にエンリ殿下にお願いをした。
「そうでありますか、分かりました。では我々は一旦下がらせて頂きます。部屋の入口に聖女様の御付きの者を待機させて頂きますから、何かあれば申しつけください。なお、あと二時程で夕食に成りますので、こちらで召し上がるようでしたら、御付きの者に申しつけください」
エンリ殿下は紗耶香に御付きの件と夕食の件の説明をしてから、側近のロイドと共に部屋を後にした。
紗耶香は、エンリ殿下と側近のロイドが部屋を出るのを見送ると、大きく溜息を吐き、本当に異世界に来たのだなぁ、と改めて思いを寄せ、趣味で読んでいた聖女物の小説の主人公にまさか自分がなるとは、今でも不思議な気持ちでいっぱいになっていた。
しかし紗耶香は本当に自分が聖女なのか如何か心配になり、小説や漫画にアニメなども良く読んだり見たりしていた時の様に、自分のステイタスを確認する為に小さい声で詠唱をした。
「ステイタス」
ステイタス画面
名 前 サヤカ
年 齢 17歳
種 族 人 族
職 種 聖 女
称 号 異世界より召喚されし聖女
レベル 12
HP 3000 MP 2560
スキル 聖属性・水属性・風属性・生活魔法
「フウー、良かった。私は聖女として、ちゃんと召喚されているみたい、だけど少し能力が低めなのが気になるけど、伸ばして行けば良いのかしら」
紗耶香は自分のステイタスを見て感想を呟いていた。
其れから紗耶香は今後の事を考えて、もう元の世界に帰れないのなら、聖女の勤めを果たして、領地を貰い、貴族の次男当たりの素敵な男性と婚姻して、幸せに暮らせればいいなぁと思い、決して王族の一員にならない様にしようと心の中で誓った。
そう紗耶香は王族に関しては、余りいい印象を持っておらず、自分がそんな器では無いと自負をして居り、出来るだけ自由が良いと常々考えて、王族の堅苦しい思想や礼儀作法などは、自分には絶対無理だと思い込みもあった。
そして、聖女サヤカの動向を注視している一人の女性がいて、その女性こそがエンリ殿下の婚約者である公爵令嬢エリス・オディエスであった。
エリスは容姿端麗で、いかにも見た目は公爵令嬢と云う感じの女性であったが、実は王家に嫁ぐのが嫌で、今回の聖女召喚に僅かな希望を抱き、過去の記録で、召喚されている聖女の大半が王家に嫁いでいる事から、今回もそうならないかと期待を寄せていた。
実際には王家は過去に、好きな女性と婚姻する為に、聖女に無実の罪を被せて、婚約破棄した挙句に絞死刑にした王太子が居て、それから、この国には聖女は誕生しなくなってしまった。
その事から、王家は聖女召喚の為の術式を編み出して、定期的に聖女召喚の儀を行ない、召喚した聖女に寄って、瘴気を抑えてきた。
過去の過ちから、王家が積極的に聖女に対して、婚姻をする事は禁忌となり、希望が無い限り、お世話をする事に専念する事で、民からの信頼を回復してきた経緯があった。
聖女召喚の儀には、直接王家の者は参加せず、儀式の間に魔力量の多い魔術師を集めて行い、城に勤める者達を大勢儀式の間に集めて、それを見届ける事が流儀となり、同時に万が一魔力が不足した場合に、その見届ける人達から、魔力を供給する事が出来る仕組みになっていた。
その翌日から、紗耶香は側近のロイドと共に、午前中は魔導士団の団舎に行き魔法の訓練を始める事になり、そして午後からは自室でこの国の情勢と一般教養の勉強をロイドが講師となり学ぶと云うスケジュールが組まれる事になった。
エリスは聖女サヤカの同じ同姓の友人となるべく、エンリ殿下に働きかけて、紗耶香をお茶会に誘ったりと徐々に親しく成るべく勤めて、週に二、三度程会える様になり、二度目のお茶会でエリスはコイバナで、紗耶香に探りを入れる事にした。
「聖女様は好みの男性は如何な感じなんですか」
エリスは聖女サヤカに探りを入れる為に尋ねた。
「うーん、そうですねぇ、私は面食いなので、見た目は優しく目鼻たちがしっかりしている方が好いですねぇ、出来れば家督を御継に成らない次男とかの方が良いです」
紗耶香は自分の理想をハッキリとエリスに教えた。
「えっ、次男ですか、家督を継いだ方の方が良いのでは、ではエンリ殿下の事はどう思いますか」
エリスは再び聖女サヤカに探りを入れる為に尋ねた。
「エンリ殿下ですか、エリス様と婚約なさっているのですよねぇ、私は素敵な方だと思いますが、しかし、私は根っからの庶民ですから、余り王族の方とは関わりたく無いです」
紗耶香はハッキリとエリスに自分の考えを伝えた。
エリスは今回のお茶会で、コイバナなので、色々と探りを入れたが、聖女サヤカはエンリ殿下に余り興味が無いと云うより、王家に対して、関わりを持ちたくないという思いが強い事に違和感を覚えた。
そこでエリスは聖女サヤカと更に親しく成り、エンリ殿下と恋仲に持って行くか、これから色々と画策して行く事になるが、当の聖女サヤカはエンリ殿下にまったく興味を示さず、貴族の次男のチェックに勤しんでいる事に気付きショックを受ける事になる。