第二十話 神獣フェンリルのハク参上
セイナは、槍を出して、近づいて来る大きな何者かに備えると、クインは溜息を吐きながら、その者を待ち構えて、コハクはクインの後ろに隠れように待機していた。
そして、近くの木が大きく揺れたと思った時に、大きな白いものがセイナの前に現れて、クインを見て、笑みを浮かべて、話しかけた。
「良く来たな、我が番、元気そうで何よりだ」
神獣フェンリルの雄で可成り大きいその物、クインを見て歓迎をしていた。
「ふん、やる事だけやって、直ぐにおさらばした物に番呼ばわりなどされたくない、私はこの子を護り死にかけた。なのにお前は助けにすら来なかった」
クインは悔しそうな表情を浮かべて、雄のフェンリルを睨んだ。
「それに関しては、本当にすまない事をした。詫びても許してもらえん事もな、たが我にも役目がある。それを放り投げる事はできぬのだ、それはお前とて、同じであろう」
雄のフェンリルはクインを見詰めながら、話をしていた。
「ねえ、クイン、私は少し離れた処で、コハクを連れて待っているから、じっくり話合ってねぇ」
セイナは、夫婦喧嘩は犬も食わぬと言う事で、ここから退散しようとして、クインに伝えた。
「ふん、話合いなど不要です。セイナ、帰りましょう」
クインは吐き捨てるように言い、帰る事をセイナに告げて、来た方へ歩み始めた。
「そなたがセイナか、待ってくれ、そなたは慈愛の女神メルリス様により導き出された者であろう、我の役目にお主を守護する事も含まれておる。頼む我をお主の従魔にして、傍に置いてくれ」
雄のフェンリルは慌てて、セイナの前に立ち、そして頭を下げてセイナに頼み込んだ。
「ハァ、エェ~、貴方を従魔にするの、どうしよう、急にそんな事を言われても、ねぇ、クイン、どうしたらいいの」
セイナは急に雄のフェンリルに、従魔にしてくれと云われて、焦り思わずクインに聞いた。
「ふん、セイナの守護なら、私とコハクで充分だ、あんたはこの森をずっと守ってれば良いじゃない」
クインは雄のフェンリルを蔑む様に告げた。
「しかし、セイナ殿、我を従魔にすれば、問題の一端は解決する。大変なのだろう、魔力の制御ができぬ事に苦労しているのだろう」
雄のフェンリルはセイナの一番気にしている事を言い当てた。
「うっ、うぬぬ、なんで貴方が知っているのよ、私が一番、気にしている事を」
セイナは図星をつかれて、思わず雄のフェンリルに叫んだ。
「何でも何も、セイナ殿の魔力は番を助けた時から、我の処まで魔力がただ漏れしておったぞ、だから我は番を助けに行くのを辞めたのだから、そしてこちらに向かっている事も直ぐに分かったからな」
雄のフェンリルはセイナを見て、分って当然という表情をしてセイナに話した。
「えっ、そんなところから、私の魔力がここまで、ただ漏れして届いていたと言う事なの」
セイナはショックを受けて地面に膝を付き、四つん這いになり、嘆いていた。
「そうだ、だから我と従魔契約をすれば、それを我がコントロールしてやると言うておるのだ。それにセイナ殿と共にいれば、今度こそ番と息子も守る事が出来る。勿論セイナもだ。悪い話ではなかろう」
雄のフェンリルはセイナを説得しながら、クインとコハクをチラ見して話していた。
「分かったわよ、本当に私の魔力を制御できるのよねぇ、それにちゃんとクインとコハクを守ってくれるのよねぇ」
セイナは雄のフェンリルに最後の確認をした。
「あぁ、当然だ、我とて慈愛の女神メルリス様の眷属なのだ、女神に誓って約束は守る。番に我の息子よ、今度こそ、そなた達の傍に居て守って見せる。我とてあの時は本当に後悔をしたのだ。それだけは信じて欲しい」
雄のフェンリルはセイナに誓い、そしてクインとコハクにも許しを請うように話した。
「分かったわ、クイン、ごめんねぇ、納得できないかも、だけど、私には死活問題なの、許してくれる」
セイナはクインに、謝り、許して貰えるようにお願いをした。
「セイナが決める事です。私はセイナの決めた事に口を挟みません、セイナは私の命の恩人ですから」
クインはセイナには大きな恩がるので、セイナの決めた事に従う積りであった。
「それじゃ、貴方をティムします。貴方はコハクの父親のなので、ハクと命名します」
セイナは雄のフェンリルの額に手を充て、魔力を流して、そしてティムをした。
セイナは雄のフェンリルにティムをした時に魔力を流し続けていると、暫くしてから、今度は雄のフェンリルから、魔力が流れ込んできて、其れから数分して、セイナと雄のフェンリルの身体が光り、そとて重なり合ってから一瞬、眩しく光ってから、直ぐに収束をした。
「うむ、我は今日からハクと名乗ろう、宜しく頼むセイナ殿、そしてクインにコハクよ、今日から家族としてやり直そう」
ハクはセイナ、クイン、コハクに親愛を籠めて、改めて挨拶をした。
「セイナ殿、申し訳ないが、この森に結界を張って欲しいのだ、私がセイナとコハクを運ぶので、我の背に乗って欲しい、クインはついて来れるだろう」
ハクはセイナに頼み、結界を張る場所に連れて行くからと言って頼んだ。
「えっ、結界ですか、私はやった事が無いから無理よ」
セイナが、ハクに出来ないとはっきりと伝えた。
「結界と云っても、聖霊樹の種を植えて、成長させれば良いのだ、もう既に植えているだろう、二つもな」
ハクはセイナが、聖霊樹の種を二回ほど、植えて成長をさせている事も知っていた。
「何で知っているの、まさか魔力の流れとか揺らぎとかで、把握していたの」
セイナは驚き、ハクに確認をした。
「流石はセイナ殿、ご名答ですぞ」
ハクはニヤと笑い、セイナに伝えた。
「もう、いいです。それより、もう制御してくれているのよねぇ、ただ漏れは防いでくれているのよねぇ」
セイナはハクに魔力の制御の事を尋ねた。
「アァ、勿論だ、ただ漏れはもうしていない。但しセイナ殿が魔法を使った時だけは、我が制御すると使えなくなるので、その時だけは我は制御はしないので、覚えていて欲しい」
ハクは念の為にセイナに、魔法を使う時だけは制御しない事を伝えた。
「そうねぇ、魔法が使えなくなるのは、困るから、上手く調整しておいてねぇ」
セイナは、魔法が使えなくなるは、流石に困るので、その時だけは制御しない事に納得した。
それから、セイナはコハクを抱き、ハクの背に乗り、結界を張る場所にクインと共に向かって走り出した。