第八話 金魚すくい大会~前編~
「暑い~」
「ミコ様、だらしないですよ」
「だってえ~ほんと暑いんだもん! もう日に日に暑くなってるじゃん!」
「あ。ミコ様、人がいらっしゃいました」
「ってもう! 葵聞いてないし」
葵は社の中に設置されたモニターをじっと見つめる。
そして「自分では聞き取れませんので」と琴子に聞くように促して自分は一歩引いた。
『今年こそ金魚すくい大会で優勝できますように』
小学生くらいの小さな女の子が一人、神社にお賽銭を入れて目をぎゅっとつぶりながらお祈りしている。
女の子の額からは汗が流れ落ち、雫がぽとんと神社の石に沁み込んだ。
走ってきたのだろうか、前髪が汗で濡れて何本かの束になっている。
そうしてお祈りをしたあと、女の子は階段を降りて神社を去っていった。
「日和~葵~」
「なんでしょうか」
「金魚すくいに大会なんてあるの?」
「……ミコ様、何をおっしゃっているのですか?」
「え? 私変なこと言った?」
モニターを座って観察していた琴子は身体をひねらせながら二人のほうを振り返る。
「ミコ様、もう少しこの土地について学んでくださいませ」
「ご、ごめん」
母親に叱られた子供のようにシュンとなる琴子は、口をとがらせながら床板を木を指でこする。
「金魚すくい大会は、この『ナラ』の夏の風物詩の一つと言っても過言ではありません」
「ほえ~。金魚すくいの大会ってすくった金魚の数を競うの?」
「はい、基本は制限時間内にすくった金魚の数で順位を競います。個人戦と団体戦があり、子供たちは金魚すくいの習い事にいって練習します」
「金魚すくいの習い事?!」
「はい、なので金魚すくい大会は生半可なものではありません。闘いなのです」
「おお、、、なんか熱いね、葵」
そういうとこっそりと葵に聞こえないように日和が琴子の耳元で呟く。
「以前、葵は金魚すくい大会に出場して優勝を逃したんです」
「え、鹿なのに出たの?!」
「先代のミコ様に後でバレて怒られてました」
「だよね……」
その時の優勝景品の高級マスカットがどうしてもほしかったらしく、葵は先代ミコが寝ている隙に出かけて大会に出場した。
あとでその様子をテレビで見ていた先代ミコが見つけ、葵は帰ると同時にこっぴどく叱られたのだそう。
「ところで、どうして金魚すくい大会の話をなさったのですか?」
「ああ、さっきの神社に参拝にきた女の子が、金魚すくい大会で優勝できますようにって」
「それはミコ様、大変困ったことになりました」
「なに?」
「金魚すくい大会は明日が本選です」
その葵の言葉を聞き、一瞬で固まる琴子。
そして社に響き渡る鹿声。
「ぴいいいいいいいいいいいいいーーーーーーーーーー!!!!!?(うそーーーーーーーーー?!)」
金魚すくい大会開催まであと20時間。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
【一言おはなしコーナー】
夏と言えば金魚すくい大会ですよね~(地元ネタ?)
少し時期すぎてしまいましたが、更新してみました!
気に入っていただけたら、ブックマーク(ブクマ)をしていただけると励みになります。
評価☆☆☆☆☆など、いつも応援ありがとうございます。
また、他にもいくつか作品を書いているので、
お気に入り登録をしていただけると便利かと思います。