第七話「あなたが必要なの」
琴子はこの事態をどう収拾つけるか悩んでいた。
神主の願いを聞き届けないわけにはいかない。
かといって、無理矢理なでなでうさぎを連れて帰ることもしたくない。
どうすれば納得して帰ってもらえるのか。
琴子は思案を重ねた。
その時、新たな声が聞こえた。
「あら?なでなでうさぎさん?」
琴子がその声の主に目をやると、なんとも見目麗しい紺色の着物姿の女性が立っていた。
「し、雫様っ!!」
なでなでうさぎが声をあげる。
「雫様……?」
誰かわからない琴子に日和が声をかけた。
「あれは、神社の井戸の守護神こと水の神様の雫様ですね」
「水の神様……?!」
琴子は驚いた。
「これは、ミコ様。はじめまして、ご挨拶が遅れました。雫と申します」
「あ、かんざ……ミコです。はじめまして」
前世の自分の名前を口走りそうになるが寸でのところでとめる琴子。
二人とも会釈をして挨拶を交わす。
「雫様、どうしてここに?」
なでなでうさぎが雫に問う。
「薬屋の翡翠さんのところに行っていたの。なでなでうさぎさんは珍しいわね、こんなところで」
「あ、……はい……えっと……」
なでなでうさぎは口ごもった。
「なでなでうさぎさんが帰りたくないそうで……」
琴子は事情を話す。
「あら、どうして?」
「そ、それは……」
再び口ごもるなでなでうさぎ。
琴子が代わりに説明をする。
「かっこいいと思われたい……ですか……」
すると雫はさらっと言葉を紡ぐ。
「私はなでなでうさぎさんのことをかっこいいと思っておりますよ?」
「え……?」
その場にいた全員が雫の発言に注目する。
「でも困りました。私にはあなたが必要なのです。なでなでうさぎさんがいなくては神社も私も寂しいですわ」
「へ……?さみ……しい……?」
なでなでうさぎが虚を突かれたように驚く。
「はい、あなたが必要なの」
どれくらいの時間がたっただろうか。
その場にいる皆が雫の発言に集中していた。
するとなでなでうさぎは頬を赤らめ、もじもじしながら衝撃の言葉を放った。
「雫様がそういうのであれば、帰ろうかな……」
「ええーーーーーーーーーー!!!!」
その場にいた皆が驚いた。
あれだけ苦労していたのに、雫の「かっこいい」の一言で帰ると言い出したのだ。
「うそでしょ……なんだったのこれ……」
町を巻き込み、ミコの力をフル活用した結果も虚しく、雫のただの一言であっけなく事件は解決したのだった。
「はあ……なんか疲れた……」
琴子は探してもらった皆に御礼と解散を告げると、社に戻ってきていた。
「まさか雫さんの一言だけで解決するなんて……なんだったのこの一日」
「お疲れ様でございました」
葵が琴子に向かってお辞儀をする。
「はあ…まあ、でも無事解決したからいっか!!」
今回はずいぶん振り回されちゃったけど、たまにはこういうのもいいかも。
これもよきかな、よきかな―
読んでくださり、ありがとうございました<m(__)m>