第三話「依頼」
(でも実際にちゃんとそれできるかなあ……)
すると、日和が琴子に声をかけた。
「ミコ様、人間の方がいらっしゃいました」
「え? いきなり?!」
やがて、階段をあがってきたのは一人の年老いた女性だった。
階段を上ると、貢物を置き、焦った表情で社に願い事を言う。
「ミコ様、5歳の孫をどうか見つけてください。かすみ公園で私が……私がちょっと目を離した隙にいなくなってしまったんです。男の子で服装は青いトレーナーに黒いズボン、赤い帽子をかぶっていました。どうか無事に……無事に……」
手を何度もこすり合わせて深々とお辞儀をしながら、お願いをするその女性を琴子は真剣に見つめていた。
しばらく祈ると、踵を返して去っていった。
「ミコ様、あの女性はなんと?」
「かすみ公園でお孫さんがいなくなっちゃったって。探してほしいって」
「ミコ様、かすみ公園でしたら鹿がたくさんおりますゆえ、その子たちに探すよう指示をだしましょう」
「うん」
すると、葵が指笛を鳴らすと一頭の鹿が現れた。
「さあ、ミコ様。その子の特徴を鹿に伝えてご指示くださいませ」
「うん、わかった。えっと……あのね、5歳の男の子で、服装は青いトレーナーに黒いズボン、赤い帽子。この子を見つけられそう?」
一頭の鹿はうなずき、琴子へと返事をした。
「かしこまりました、ミコ様。お任せくださいませ」
そういうと社を颯爽と出ていき、捜索へ向かった。
「私たちも探しに行こう!」
「──っ! ミコ様自身がお出になる必要はないので……」
「探しに行こう! あのおばあさん、不安で仕方ないよ! それに日没までも時間がないし、急がないと男の子が心配」
琴子は鹿の姿に再び変化すると、かすみ公園のほうへと向かっていった―─
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