町で「武器や防具は装備しなきゃ意味がないぞ!」と言い続けるおじさんの苦悩
「武器や防具は装備しなきゃ意味がないぞ!」
今日も俺は言い続ける。
もはや町の名物おじさんとなった俺に対し、若い連中の目は冷ややかだ。
「分かってるって!」
「後で装備するよ」
「おっさん毎日同じこと言ってて飽きない?」
どこか俺をバカにしたような返事ばかり返ってくる。
バカにされるのは構わない。だが、俺のアドバイスをないがしろにするのだけは勘弁してもらいたいものだ。
俺が暇を見つけてはこんなことをしてるのにはもちろん理由がある。
信じられないかもしれないが、買った武器や防具をすぐに装備しない奴は意外に多い。
買ったばかりでピカピカな剣や鎧をしばらく新品のままにしておきたいのか、身につけないまま森や洞窟に向かう。森に入る直前に装備すればいい、洞窟に入る手前で装備すればいい。そう考える者が多いのだろう。だが、モンスターとは突然襲ってくるものなのだ。
予期せぬ襲撃を受け、せっかく買った武具の性能を生かせず、大怪我する者を俺はよく見てきた。中には死んでしまう者までいる。嘆かわしいことだ。
だからこそ、俺は今日も言い続けるのだ。
「武器や防具は装備しなきゃ意味がないぞ!」
……
ある日、町に若い冒険者が運ばれてきた。
見た顔だった。俺のアドバイスを笑って聞き流していた若者だ。
足に酷い怪我をしている。魔獣に嚙みつかれたのだろう。一緒に運ばれてきた若者の荷物には新品のレガースがあった。これをちゃんと装備していれば、おそらくここまでの重傷は負わなかっただろう。
俺は若者に駆け寄った。
「おい、大丈夫か!?」
「いてて……」
「しっかりしろ!」
若者は俺をちらりと見ると、申し訳なさそうに言った。
「ごめん……。おっさんのアドバイスをちゃんと聞いてれば、こんなことには……」
「……!」
しおらしい若者の言葉に、俺は後悔した。
アドバイスを聞いてれば、ではない。俺がもっと説得力のあるアドバイスをしていればこんなことにはならなかったのだ。
そうすれば、この若者もきっときちんと装備をし、魔獣に打ち勝つなり軽傷で逃げ帰るなりできたはずなのだ。
タンカで運ばれていく若者に、俺は独りごちた。
「すまん……」
……
酒場でマスター相手に俺は飲んだくれていた。
「ウイ~……俺がもっとちゃんとアドバイスできてれば……」
「あんたのせいじゃないって」
「いや……俺がもっとちゃんとしてれば……」
武器や防具は装備しなきゃ意味がない。ただむやみにこれだけを言ってもダメなのだ。もう一つプラスがなければ、ただの平凡なおっさんが自信に満ちた若者たちを説得することはできない。
説得力を付加するにはどうすれば――
……
後日、結局答えを出せないまま、俺は町を歩いていた。
すると――
「ったくいつまでたってもおめえは成長しねえな!」
「す、すんません!」
大工の親方と徒弟だ。
親方は厳しい人で、やれ釘の打ち方がおかしいだの板の削り方がおかしいだのしょっちゅう怒鳴っている。それでも徒弟はついていくのだから大したものだ。徒弟に根性があるのはもちろんのこと、指導にも説得力があるのだろう。
「いいか、俺がやるのをよく見ておけ!」
「はいっ!」
そういうと親方はテキパキと作業を始めた。徒弟も熱心に見守っている。
なるほどな、説得力というのはこういうことか。口だけじゃなく自分でもやってみる。そうしてこそ、言葉に力を持たせることができる。
ようやく「答え」に至った俺は、さっそく行動に移すことにした。
……
俺はいつものように、いやいつも以上の熱意で若き冒険者たちに呼びかけていた。
「武器や防具は装備しないと意味がないぞ!」
どよめく町民たち。
俺の言葉を聞いて、若い連中は引きつった顔をしつつ、
「わ、分かったよ!」
「ひいいっ! 言う通りにするから近づかないでくれ!」
「すぐ装備します!」
と装備を整えていく。
これだ……! これだったんだ!
自分がやってみせなきゃ意味がない。俺はようやく「説得力」を手に入れたんだ。これからは多くの未来ある冒険者たちを救ってみせるぞ。
程なくして、町の警備兵たちが現れた。
また何か事件でも起こったのか、と見ているとどうやら彼らは俺の方に向かってきている。
「俺になんの用だい?」
「なんの用だ、じゃないですよ!」
「なに怒ってるんだよ」
「いやいや、なんつう恰好してるんですか。あなたは!」
「なぜって……装備しないことの意味のなさを身をもって証明してるんだよ」
俺は本来装備すべきシャツやズボン、パンツ、靴などを装備してない姿のまま、警備兵たちに取り押さえられた。
完
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