四話 運任せ
「これも噂です。皇の七守護は国を守る戦士だが国民は守らない。そう言われているのは知っていますよね」
「あぁ。当然だ」
皇の七守護が守るのは女皇と国である。そこに市民は含まれていない。
国で起こる小さな事件を解決するのは衛兵の仕事である。そして衛兵が手に負えない事件を解決するのが、いわゆる冒険者と呼ばれる賞金稼ぎだ。
その冒険者が手に負えない事件が出てきて初めて、皇の七守護の誰かが事件解決のために駆り出されるという仕組みになっている。
大規模なテロでも起こらない限り、皇の七守護は動かない。
故に人々はこう言った。彼らは暇人の集まりだと。
「でも、『獣殺し』だけは違った。視界に入った住民は例外なくみんな助けて、お礼の品も受け取らずに去っていく。彼はまさしく英雄だったって。この話も、噂で知ったものです」
「俺は自分のことを英雄だなんて思っていない。ただ言われたことをしただけだ」
「言われたこと?」
「………いや、なんでもない」
『命あるものは助けろ! 少年!』
俺に剣の才能を見いだしてくれた、命の恩人の言葉。
まだ出会ってまもないこいつに話す話ではないだろう。
「でもありがとうございます。つまり私を送ってくれることも、やるべきことってことですよね!」
「……ここまででいいか」
「すみません連れていってください」
元気だけはあるやつだ。
ただでさえ黒髪なのだから、その元気を魔法の鍛練に使えばいいものを。
「そういえばお前、魔法学院を出て何年だ」
「数日前に卒業したばかりですね」
聞き間違えただろうか。
「魔法学院を出て何年だ?」
「だから数日前ですってば。耳大丈夫ですか?」
「お前のその精神の方がよっぽど心配だ」
「何でですか。私の何がダメだっていうんです!?」
どうやら自分でも分かっていないらしい。
指摘されて何も分からないということはつまり、自分は間違ったことをしていないという強い信念があるということだ。
「お前はさっき、俺がこの森にいるから来たと言っていたな。そしてお前は数日前まで基本的に外に出ることができない学院内で過ごしていた。お前の言っていた噂は概ね事実だが、噂という信憑性の低い情報だけを便りに、こんな危ない森に来たというのか」
「そうですけど……?」
首をかしげて、それの一体何が悪いのかと顔で訴えかけてきた。
まだ分かっていないらしい。
「確か俺が倒した魔獣は、お前の代の首席の子で倒せるかギリギリというレベルだったな。そんな魔獣が住む森に、何故入ってこれた」
「ここで死ぬ程度なら、その程度だということです。ローベルトさんを見つけるには、運も必要になってきますからね。特に私は落ちこぼれですから、運だけは磨いておかないと」
透き通った目で、マキナはそう言った。
なるほど。これはどうやら、悲しいほどにイカれていてどうしようもない。
だがそれは、マキナの覚悟が強いということでもある。
「俺を仲間にしたいというのも運任せ、ということか」
「まぁそうですね。ダメなら次を考えればいいんですよ」
マキナは笑って言う。
「……ポジティブだな」
「私は、どうしてもローベルトさんに会いたいんです。そのためなら、死んでもいい」
一体何がマキナをそうさせるのか、俺は気になって仕方がなかった。