三話 英雄
小さい家ほどあるんじゃないかというその大きな巨体と、口から突き出る大きな牙。
森の木々を物ともしない力強さ。
一目見ただけで分かる、強敵。
「恐らく、さっきお前が大声を上げたから寄ってきたんだろうな」
「ご、ごめんなさい!」
「気にするな。それにしてもさっきの魔獣といい、何故こんなところに……」
森には魔獣が多い。
それでも、巨体クラスの魔獣は半年に一回見るか見ないかというくらいだ。
同じ日に二体……一体どういう……。
「戦えないなら下がれ。俺一人でやる」
「で、でも……」
俺は戦いなれているから何ともないが、後ろにいるマキナは違う。
完全に怯えきって、全身が震えていた。
「__安心しろ。俺は負けない」
そう言って、俺は剣を構える。
四足歩行のデカい図体……狙うは脚。
「っ……!」
『スキル【疾風】』
漆黒の剣身が、白く煌めき始める。
何かを察した魔獣は、雄叫びを上げながらこちらに突っ込んできた。
それを見て、直ぐ様足元目掛けて剣を薙ぐ。
当然剣は届かない__が。
巨獣は怒号のような雄叫びをあげたのだった。
「■■■■■■!!!!」
その刃はヒットする。
空気中に刃を飛ばす、いわゆる鎌鼬かまいたち。
前足を切られた巨体は姿勢を崩し、勢いそのままに前方へと倒れてくる。
「__見えた」
無音。
瞬間、巨体の身体は二つに割れた。
『スキル【一線】』
身体の中心線を斬ることで、無条件であらゆる物体を切り裂く技。
巨体の血が噴射して、俺の身体を赤に染めた。
「大丈夫だったか」
「え……あ……はい」
「行くぞ。戦闘はできる限り避けたい」
そう言って、俺はそそくさと歩き始めた。
慌ててマキナもついてくる。
「ホントに……元皇の皇の七守護なんですね」
「疑っていたのか」
確かに口だけで、証明するものは何もなかった。
疑うのは当然だ。
「ただ強いだけの剣士なら、他にもいます。けど、ここまで圧倒的な人は限られます。噂に聞く皇の七守護の『獣殺し』」
「……まだその名を覚えている人がいたとはな」
「普通です。でもまぁ、魔法学院生は基本的に学院外に出られないから、噂にしか聞きませんけどね」
やはり皇女に仕えるとなると、学院外に出られない生徒の間でも有名になるか。
だが、その名はもう捨てたものだ。俺のものではない。
「それで__噂によると、その人は英雄だったそうですが。それはどういうことですか?」
「…………ほう」
「街の英雄、だったんですよね? ライさん」