一話 再起の剣
__爆発音のようなものが、木霊した。
森の中の小さな小屋に住む俺は、その音を聞いて飛び出すように小屋を出た。
もう握らないと決めていた剣を持って。
ここに住むようになってからはや半年。一目に付かない平和な森の中で暮らしていたつもりであったが、どうやらいつまでもそうわけにはいかないらしい。
「音が聞こえたのは__」
小屋から前方、約400といったところか。
剣先を進みたい方向へ向け姿勢を低くし、構える。
スキル『神速』
木々の間を瞬時に見極め、速度を落とさずに直進する。
__見えた。
俺は、その大きな獣を、二つに切り落とした。
「魔獣……? 何故こんな浅いところに」
「あ、あの!」
そう聞こえた気がして、俺は声のする方へと首を向けた。
全ての光を吸収してしまいそうなほどの、漆黒の髪。自分の胸部ほどしかない低身長。童顔に長いまつ毛。そして杖。
典型的な魔法使い。黒髪ということは……なるほど、落ちこぼれか。
魔法使いは基本的に、髪の色で得意魔法が分かるようになっている。赤なら火、青なら水という風に髪に特徴が現れる。
しかし、黒髪は黒魔法全般を不得意なく扱えるという特徴のない髪色で、一般的に、魔法使いとしては落ちこぼれの部類と判断される。
「剣士さん……ですか!?」
「……違うが」
「え、でもその大きな剣は一般人で扱うとものではないと思うのですが……」
彼女は俺の身の丈ほどある大剣を指さして、そう言った。
「一般人が持っていて何か悪いか?」
「悪いというか、なんでそんな大きな剣を扱えるのに、こんな森で暮らしてるんですか? 街に出れば稼げると思うんですけど」
「確かにそうだろうな。……街に出ることができれば、の話だが」
「……?」
「とにかく、お前はここにいるべきではない。あの程度の魔獣を倒せないなら、お前の未来は食われるか死ぬだけだ」
「あのぅ……それがですね」
「道が分からなくなった以外で頼む」
「正解です!」
元気よく遭難宣言をする少女が、そこにはあった。
「……森の出口まで送ってやる。その代わり、二度と森に近付くな」
そう言って、俺は森の出口の方へと歩き始める。
ずっと立ち話してはいられない。
「あぁ! ちょっと待ってくださいよぉ!」
彼女は慌ただしく、俺の背中についてきた。
「優しいんですね。こういうのって、基本的に取引じゃないですか」
「……俺はライだ。お前は」
「私はマキナです! マキナ・ローベルト!」
こいつが馬鹿で助かった。
突然話題を変えても違和感すら感じていないらしい。
「それで、さっきの街に出ることができればって、どういう意味ですか
前言撤回。こいつは馬鹿ではない。
「聞きたいのか?」
「聞きたいです。いくら私が優秀だとしても、あの魔獣は倒せませんでした。あの魔獣は、私の代の魔法学院主席の子でギリギリ倒せるくらいです。それをライさんは一撃で倒してみせた。……そんな人が、一般人のはずありません」
真剣な眼差しで、俺の方をじっと見つめてくる。
「……分かった。一応、俺の過去に関わる話は避けていたが、聞きたいのなら話してやる。どうしても話したくない過去というわけではないし、森に出るまで暇だろう」
「やっぱり避けてたんですね」
どうやら無理やり話題を変えたことも、見透かされていたらしい。
「俺は半年前に追放されるまで、皇に使える七人の守護者、皇の七守護の一人だったんだ」