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1.王弟殿下のお茶くみ係

「ご理解いただけましたでしょうか?」


 いや、そんなこと急に言われても。一体自分の身に何が起こっているのか、まだ頭はついて行けてない。

 そもそもどうして私は今、お城の豪華な一室に連れてこられているのか。

 そしてなぜ、王弟殿下の従者だという目の前の美形な男に、よく分からないことを説明されているのか。


「王弟殿下はお忙しい方です。こうしている間にも執務室にお一人で籠られて、大量の書類と向き合っておられます」

「はぁ…」

「国のため、民のため、寝食を惜しんでまで日夜お仕事をされている方なのです」

「そう、なんですね…」

「そんな素晴らしいお方にお仕えできるのですから、もちろん嫌などとは仰いませんよね?」

「……っ…」


 顔が引きつるのは許してほしい。

 だってそれ、お願いじゃなくて強請でしょう?笑顔が怖いんですけど…。

 あれですよね?これ断ったら、私だけじゃなくてお世話になった教会とかにも被害があるやつですよね?

 あぁもう、ホント…これだから偉いお貴族様っていうのは嫌なんだ。

 それでも。


「私、なんかに…務まるとは思いません…。何より平民、ですし…」


 そう。私はれっきとした平民なんだ。

 そんな女をよりにもよって王弟殿下の傍に置こうなんて、この従者は一体何を考えているんだ。


「問題ありませんよ。貴女を指名したのは他でもない、王弟殿下ご自身ですから」


 違った…!!従者以上に主に問題があった…!!

 え、何この国の王弟殿下。自分の立場本当に分かってます?平民がおいそれと近づいていい存在じゃないんですよ?ねぇ、ちゃんと分かってますか?

 なんて、この従者に問いかけられるはずもなく。


「そう、ですか…」


 結局私は曖昧にそう返すしかなかった。


 そもそもの始まりは、王弟殿下ご一行が教会に視察に来たことだったらしい。

 "らしい"というのは、私たち孤児は直接その姿を見ていなかったから。当日案内をしたのはシスターだったし、何より私たち子供は教会内の庭で遊んでいただけだった。

 なのに!!あろうことかシスターは、私が子供たちのために手作りしたお菓子を王弟殿下に出したというのだ…!!

 そして多分、それが全ての始まりだったんだ。だってシスター、殊の外王弟殿下がお喜びになっていたのですよ、なんて。嬉しそうに私に報告してきたから。

 そのせいで私はここに連れてこられたんですよ!?どうしてくれるんですか、シスター!!


「貴女にしていただきたいのは、ただ王弟殿下のためにささやかなお菓子を用意して、お茶を淹れるだけですから。そう難しいことではないでしょう?」

「……茶葉の種類とか、美味しい淹れ方とか、全然知りません…」

「あぁ。それでしたらこれからお教えしますから。覚えていただければ問題ありませんよ」


 どうあっても、逃げられないらしい。


「もちろん仕事ですから。給金はお出しします」


 それは、純粋に嬉しい。

 ここドゥリチェーラ王国では、周辺諸国に比べて成人年齢が遅く、男女ともに十八になってようやく成人と認められる。それまでは子供とされて、例外を除けば働くことは基本許されない。

 そういう場所だから、私も来年成人するにあたって色々と働き口を探し始めていたところで。そこにこんなおいしい話が舞い込んできたら、本来は喜ぶべきなんだろう。分かってる。分かってるんだけど。


「その…なぜ、私なんですか…?」


 そう、そこだ。

 だって王弟殿下だよ?この国の王族だよ?その人相手に、なんで平民の私がお茶を淹れたりお菓子を作ったりしなきゃならないのか。

 色々疑うでしょ、普通に考えて。


「殿下は普段、休憩する時間すら惜しいと菓子の一つもお召し上がりになりません。それがあの日…貴女が作ったという菓子は全て平らげ、さらに殊の外お気に召したようでしたので」


 え?それだけ?

 待って。それだけの理由で、私はお城(ここ)に連れて来られたの?


「先ほども申しました通り、寝食を惜しんで(・・・・・・・)執務をされる方なのです」

「…………」


 あぁ、つまり。まともに食事も睡眠も取らないくらいに、ってことですね。

 貴族言葉分かりにくいよ!?


「ですので、貴女にはぜひともしっかりと(・・・・・)殿下に休憩時間を取っていただくための菓子を用意して欲しいのですよ」


 うわぁ~…責任重大~……。

 っていうか、我が国の王弟殿下は確か既に成人してたはずですよね?

 そもそも休憩はちゃんと取らないと作業効率落ちるのに。そんなの常識でしょ?まだ働いたことのない私だって知ってるのに、成人してる王弟殿下がそれを軽視って…それって上に立つ立場の人としていいんだろうか?

 いい大人が何してるんだと思わないわけではなかったけど、まぁそこは偉い人には偉い人なりの色々があるんだろう。



 こうして私には一切の拒否権もないまま、王弟殿下のお茶くみ係としての生活が始まったのだった。





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