表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
学校一の美少女は、告白されると俺の名前を出して断るらしい  作者: 城野白
四章 運命になれなかった初恋へ
59/99

58話 阿月哲 その3

分割します。今日もう1話。

 新島家の三人が家に戻り、すっかり静かになったリビング。

 ダイニングテーブルにどっしり座った父さんが、無言の圧をかけてくる。お前も座れと。母さんに助けを求めたが、座りなさい。と麦茶を差し出された。


 親と正面から向かい合うのは、少しぎこちなく感じる。

 うちの親は、かなり話しやすいほうだと思うのだが。それでも。


「元気そうだな」

「うん。おかげさまで」


「学校はどうだ?」

「それなりにやってるよ。友達もいるし」


「そうか」


 ずいぶんと事務的なやり取りだった。それでも、実家に戻ると毎回繰り返される。だから俺も、毎回同じように返す。

 父さんは頷いて、役目は終わったとばかりに発泡酒を飲み干す。


「凛が寂しがっているから、相手をしてあげなさい」


 それだけ言い残して、リビングから出ていく。もう寝るのだろう。父さんは明日も仕事だ。

 残ったのは、俺と母さん。


「哲、ちょっと痩せた?」

「そうかな。体重は変わってないと思うけど」


「ちゃんと食べてる? コンビニ弁当ばっかりになってない?」

「なってないよ。割と自炊できてる」


「そう。ならいいけど。食費に困ったら、ちゃんと言いなさいね」

「わかった。……ありがとう」


 本当に。父さんと母さんには感謝してもしたりない。

 だから全身をペタペタ触るのはやめてほしい。別に痩せてないから。俺、減ってないから。


 なんてことをしばらくやっていると、


「たのもー!」


 風呂から上がってきた凛が、手を上に突き上げてリビングに入ってくる。


「父さん寝てるから静かにしろ」

「はっ、ミュート」


 慌てて口を押さえる凛。

 頭にタオルを載せているせいで、いつもよりアホっぽく見える。


「凛。髪の毛乾かしてきなさい」

「だって。哲にぃ、乾かして」


「らしいわよ哲。乾かしてあげなさい」


「母さん!?」


 当然のように命じられたから、驚いてしまう。なんで平然としてんのこの人。

 凛の母親だから?


 ……すげー納得。


「あっ、ドライヤー忘れた」


 パタパタとスリッパを鳴らして、洗面所に戻っていく。


「それじゃ、あとはよろしくね。哲」

「おやすみ」


「ここは任せて先に行くわ」

「最低なセリフだな」


 ちょっと立場を変えただけで、名言がクズのセリフだ。

 静かに笑いながら、リビングを出ていく母さん。うちの女性陣は、どうやらボケないといけない病気らしい。だが不思議なことに、ツッコミは俺一人しかいない。


 廊下から、凛が「おやすみー」と言う声がする。そしてドアが開き、


「さあ、髪の毛を乾かしてもらおうか」


 と威勢よく近づいてくる。


「お前、仮にも女子高生だろ? 兄貴に対してもっと抵抗を持てよ」

「ないものはない」


「潔いな……」

「さあフェチにぃ、妹の髪の毛を乾かすんだよ」


「とんでもない風評被害を押しつけるな」


 誰が髪フェチだ。


「ったく。わかったから、さっさと座れ」

「ほーい」


 コンセントを刺して、準備の整ったドライヤーを渡してくる。

 いつもこんな感じだ。わりと小さい頃から。


 父さんにおんぶされ、母さんに耳かきをしてもらい、俺に髪を乾かされる。

 この甘やかされトライアングル、卒業したのは父さんのおんぶだけである。父さん、ちょっとショックそうだったな。


 ため息を一つ。

 ドライヤーの温度を指で確かめて、凛の髪の毛を梳く。


「このブラコンめ」

「にひひ。じゃあ哲にぃはシスコンだ」


「誰がだよ」

「だって、いつもお願い聞いてくれるじゃん?」


「お願いっていうか脅迫だろ」


 なんの前触れもなく茨城に突撃してきたり、急にショッピングに連れ回したり。


「でも、なんだかんだ叶えてくれるからさ。凛ちゃんは哲にぃにべったりなわけですよ」

「将来が心配だ」


「哲にぃも同じじゃない? ちゃんと妹離れできる?」

「お前が生まれた瞬間に終わらせた」


「早すぎない!? もうちょっと可愛がってよー」


 なんだかんだと話しながら、髪は乾いていく。

 こうやって甘やかすから、よくないんだろうな。


「凛。お前、彼氏とかいないの?」

「いてもおかしくはないと思うんだけどね――」


「いや、わかった。灰色の高校生活へようこそ」

「まだなにも言ってないよ?」


「ろくなこと言わないだろ」

「そんなことないよ。凛ちゃんの魅力に、男子が奥手になっちゃってるだけだって言おうとしただけだよ」


「くっだらねえ」

「ひどい!」


 終わったぞと背中を叩くと、こくんと頷いて片付けをする。くるくるとドライヤーのコードを巻いて、机に置く。


「ありがとー」

「おう。じゃあ、俺も風呂入って寝るから」


「明日早いの?」

「まあまあな」


「そかそか。じゃあ妹ちゃんは撮りだめしたアニメを観てるにょ」

「あんま遅くなるなよ」


「ほーい」


 コップを片付けて、リビングを出る。廊下に出て、立ち止まって、少しだけ考え、再びリビングの扉を開ける。


「あのさ、凛」

「んー?」


「ありがとな」


 にへっ、とだらしなく笑う凛。

 世間一般の兄妹がどういうものか、俺は詳しく知らない。だけど、俺たちはきっと特殊なのだろう。

 凛が俺を頼ってくれるように、俺もあいつのことを信じている。


 だから二年前のあの日も、俺は凛にだけ言ったのだ。俺が犯す罪を、彼女だけは知っていた。


 一つ、大きな過ちを犯した。

 俺の人生において、一番大きな罪はなんだと問われれば、それだと断言できることを。


 目を逸らすことはできない。

 花音と向き合うとは、つまり、そういうことなのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] コンセントを刺す→差す では?
[一言] ここまでは凛ちゃんのおかげで、俺にダメージはないが… 問題は次か…
[一言] 罪、かあ… あまり聞きたくはないものだな、きっと。 本当に辛いのは次か。 でも、妹も知っていたなら、思って引きずっていても不思議はないなあ。色々気を使っているのは、彼女も何かけりをつけたいか…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ