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学校一の美少女は、告白されると俺の名前を出して断るらしい  作者: 城野白
三章 その未来に、あなたがいないなら
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52話 火起こしのできる男はモテる。これはガチ。

 キャビン。それはキャンプ場に建ち並ぶ、木造二階建ての宿泊施設のことである。

 外観は剥き出しの木! 丸太を組み上げました! 木! みたいな感じで、やたら主張が激しい。日本全国、どこに行っても変わらない気がする。

 けど、それがいいんだよな。

 だから妙に、テンションが上がる。


「阿月くん阿月くん」


 後ろから袖を引っ張る氷雨が、目だけで感情の昂ぶりを伝えてくる。


「ワクワクしてんなー。初めてか?」

「キャンプ場自体は、二回目よ」


「じゃあ、テントは経験済みか」

「ええ。大量の虫に刺され、体温管理もままならず、夜のお手洗いが遠すぎる劣悪環境なら経験済みよ」


「…………確かに、女子は辛いよな」


 男はそういうの、気合いで押し切れるけど。


「どうしてテントで寝たいと思うのかしら。文明に対する冒涜だと思わない?」

「思わない」


「そう……あなたは、私とは違うのね」


 単純に男女の違いというか。いわゆる、男のロマンってやつだと思う。

 女子からすると、本当に意味がわからないらしいからな。


「そんな深刻な問題か?」

「深刻よ」


 真面目な顔で言ってはいるが、ちっとも意味がわからない。冗談を言うようになっただけ、嘘か本当かわかりづらくなっている。

 今回は天然……か? たぶん。そうだと思う。


 一輝が鍵を開けて、中に入る。


「ひろっ!」


 玄関に入って、名取が一歩後ずさる。靴を置く場所を見ただけでもわかる。圧倒的だ。普通の家の二倍まではいかないが、広いことに変わりはない。

 このキャビン、十人以上でも使えるらしいからな……。六人だと、かなり大きく感じるのだろう。

 リビングに移動しても、驚きは続いた。


「ソファでっか! テレビでか!」


 エージはビビって壁に張り付いている。


「か、一輝先輩。自分たちをこんなところに招待して、どうするつもりっすか」

「せっかくだからいつもの礼をしようと思ってな。みんなには、世話になってるし」


 ぽりぽり頬をかきながら、曖昧な笑みを浮かべる一輝。そんな表情をしても爽やかなのは、生まれ持ったものか。あるいは人徳か。


「あんまり引け目を感じるなよー。いろいろしてくれてるのは親戚で、俺じゃないんだから」

「後で挨拶に行かないとな」


「あー。じゃあ、晩飯のついでに管理棟に寄るかね」


 おそらく全員が感じていた、内心の申し訳なさを見抜き、解消しようと動く辺り。

 こいつは人を引っ張っていく側の人間で。俺はこいつに引っ張られることに、満足している。


「じゃ、一旦荷物を部屋に置いて。各自準備して一階集合な」







「晩飯はバーベキューなわけだが」


 男三人。寝る部屋に集まって、荷物を置き、顔を突き合わせる。一輝もエージも、やけに真剣な顔をしていた。


「……おう。バーベキューが、どうした?」

「肉を焼くために、火を起こす必要がある」


 重々しい口調で宣言する一輝。その横で、エージがごくりと喉を鳴らす。

 ……いや、どういうテンションだよ。


「テツ。お前はまだ、火起こしの重要性を理解していないようだな」

「いや、言ってることはわかるぞ。火がちゃんと点かないと、なにも焼けないからな」


「そうじゃない。お前はなにもわかってない」

「テツ先輩、本当はわかってるんすよね?」


「全然わかんないんだけど……」


 ぎょっとした目をするエージ。

 その横で一輝が首を横に振る。そしてカッと目を見開き、


「バーベキューの役割で、一番モテるのは火起こしだろうが!」

「どうでもいいなおい!」


 物凄くどうでもよかった。そんな気はしていたけど。想像の十倍ほどくだらない。

 バーベキューの役割にモテるモテないなどあるか。


「バーベキューの役割にモテるモテないなどあるか……そう思っているな、テツよ」

「なっ、心を読んだ!?」


「甘い。甘すぎる。炭火で熱したマシュマロよりも甘い! ――確かに、一般的にモテるとされる肉を焼く係は、実は大したことがない。そんなヒマがあったら女子と話すのが大切だ。モテるやつはそうする。優しい非モテは、皆のために使い潰されるだけだ。だが、火起こしは違う!」

「なにがお前を、そこまで……」


「黙って聞けい!

 いいか、火起こしは全体工程の最初だ。そこで頑張るぶんには、その後のコミュニケーションに支障を来すことはない。そしてなにより、火を扱うということは危険を伴う! そして地味に難しい! たとえばどうだ、そんな難関をさらっとやってのけたら。モテるだろう? モテるしかないだろう? なあ、エージ」


「サーイエッサー!」


「痺れるほど浅はかな理屈だな」


 俺の声は届いていないらしい。

 二人は来たるバーベキューに向けて、激しく闘志を燃やしている。


「ええっと、じゃあ、頑張ってやろうな」


 めんどくさいから同調しておく。


 どうせ苦労するだろうと思って、準備してきたものはあるけど。二人のこの熱量なら、いらないかもしれない。

 でもいちおう、念のために持っておくか。







 バーベキューの食材は、事前に予約しておけばキャンプ場で準備してもらえる。管理棟で受け取る際に、全員でお礼を言って、ついでに施設利用の説明を受ける。

 戻ってきて、いよいよ夕飯の準備だ。


 炊事場はあるのだが、大型のキャビンにはベランダにバーベキューできる空間がある。

 仕組みとしては、焼き肉屋みたいな。焼くスペースがあって、その周りにベンチ。なんだこれ。セレブかよ。


 女子が食材を近くのテーブルに並べ、その間に男で炭を並べる。小さく、燃えやすそうなものを選別して、大きいのは後から。


 一輝がチャッカマンを持って、エージが金ばさみ、俺がうちわを構える。鉄壁の三人体制。

 そこからの地獄は、おおよそこんな感じだった。


 カチャッ、カチャッ、と虚しい音を立てるチャッカマン。


「点かねえ!」

「一輝、ロック外したか?」


「外れてねえ!」


 火を近づけて、


「燃え移らないっす!」

「そのへんの落ち葉持ってこい!」


 あっという間に燃え尽きる落ち葉。ちっとも赤くならない炭。カチャカチャと、おもちゃみたいな音を立てるチャッカマン。退屈そうな女子陣。


 ……これは、もう仕方がないか。


「終わりにしよう。チャッカマンじゃ、火は点かない」


 ベンチ下のレジ袋から、薄い茶色のブツを取り出す。一見すれば、ウエハースか、段ボールのどちらかに見える。


「そ、それは……やめろテツ!」

「もう諦めろ一輝。俺たちは無力だ」


 軽く千切って、炭の中に投入。小さな炎がすぐに移って、ぼうっと燃え上がる。

 奥義・着火剤


「うっわぁ。簡単につきましたね」

「科学の力ってすげーな」


 一輝は遠い目で、赤くなった炭をぼんやり見ている。


「悪いとは思ってるけど、あのままだったら永遠に点かないだろ」

「あるなら先に言えよー」


「そういう空気じゃなかっただろ」


 やる気に満ちあふれた二人に、どうしてそんなことが切り出せよう? 俺には無理だった。


「炭火、あったかいっすね。自分、なんかもう十分っす」


 エージはとろんとした目で、手をかざしている。

 煩悩とか、丸ごと吹き飛んでそうだ。


 まあ確かに、炭火。いいよな。俺も手をかざしてみる。夏だから、涼しいくらいだけど。気持ちいいな。ぬくいし、匂いも好きだし。ほっとする。

 一輝も真似して、老人みたいな顔になる。


「あー。いいなこれ」


「ちょっと男子。肉焼くわよ」

「「「あ」」」


 完全にやりきった気分だった。







 ベンチは金網を挟むようになっていて、片側に三人ずつ座る。こっち側は、エージを中心にして、俺と一輝がその脇に。反対側は、左から順番に、氷雨、小日向、名取。

 席の並び的に、氷雨が正面にいる。


 北海道人は、バーベキューを非常に好む。札幌の住宅街を休日に歩けば、そこかしこで普通に煙がのぼっている。大学では新入生歓迎会にジンギスカンを用いたバーベキューが行われるし、一大文化として認定されてもいいだろう。


 だから俺にとってもなじみ深いもので、なんとなく余裕がある。網の上の空いたスペースに食材を置いたり、焦げそうなものを脇に寄せたり。バーベキュー奉行まではいかないけど、静かに上手くいくように動いてみる。


 こういうのがちょうどいい。

 誰かのためになっている。なんて大層なものではなくて、あくまで自己満足の域で振る舞えるのが。それで楽しい空間を保つことができれば、この上ない。


「阿月くん、ちゃんと食べてる?」

「食べてるよ」


「たくさん食べないと、大きくなれないわよ」

「別に俺、小さくはないと思うんだけど」


「横に」

「太れと!?」


「大きいことはいいことよ」

「理屈が昭和すぎる」


 くすくす笑いながら、俺の皿に肉を載せてくる。拒否権はないらしい。

 仕方がないので、受け取っておく。


「テツ先輩」

「どうした?」


「テツ先輩」


 じいっと、俺の顔をのぞき込んでくるエージ。


「……なに?」

「俺も肉が食いたいっす」


「え、じゃあ取れば?」

「違うんすよ。取ってほしいんすよ」


 よくわからないけど、真剣だ。トングを使って、食べ頃のものを渡す。


「じゃあ、ほら。これとか焼けてるぞ」

「ちっがぁあああああう!」


「エージうっさい。しばき倒すわよ」

「名取先輩は黙っててもらえますか!? 今、大事な話をしてるんで!」


「へぇー。大事な話」


 すっと立ち上がって、名取が近づいてくる。それに合わせて、エージの顔が引きつっていく。


「いや、あの、自分、ちょっと人には言えない秘密を隠してるっていうか……」

「ふーん」


「だからちょっと、さっきのは口が滑ったというかぎゃああああああぁぁぁぁ……」


 冷えた目をした名取に連行されるエージ。

 二人は夜の闇の中に消えていった。遠のくエージの悲鳴は、やがて聞こえなくなる。


「あの二人って仲良しだよねえ」


 はむっとピーマンを食べる小日向。もぐもぐと噛んで、飲み込むのと同時に思いついたらしい。ピン、と背筋を伸ばす。


「もしかして、付き合ってるとか!」

「そ、そういう関係なの!?」


 やけに大きな反応をする氷雨。咄嗟に割り箸を落としかけ、慌てて握りなおす。


「どうなのさ一輝」

「いや、全然そんなんじゃないぞ」


「本当は?」

「本当に」


「あっ、そうなんだ。楽しそうだと思ったのに」

「ないない。あの二人は」


 へえ、と軽く流す小日向。


 なぜかその隣で氷雨は、妙にしゅんとしていた。普通に見ればわからないだろうけど、目が下を向いている。でもって、一点をじっと見ている。そういうとき、彼女のテンションは低い。


 なにを考えているんだろう。

 予想しようとしてみて、やめた。

 答え合わせのないクイズは、クソゲーだ。







 その後、すぐに戻ってきた二人。何事もないまま、バーベキューは終わる。


「だが、本当の夜はここからだ。これまでは全て前座にすぎん」


 再び男部屋。

 部屋の真ん中にあぐらを組み、どんと座った一輝。エージはその正面に正座している。俺は? 壁にもたれかかってスマホを見ている。

 またなにかアホなことを言い出すのだろう。


 適当に聞き流していればいいか――


「これより、肝試しを行う!」


 ガタッ――!


 鈍い音が響く。

 俺の右手が、虚空をフリックしていた。スマホを落としてしまったからだ。すぐに拾って、何事もなかったふうを装う。


 そう。何事もなかった。俺は動揺なんてしていない。


「男女ペア三グループ、本気の肝試しだ!」

「一輝先輩。自分、一生ついていきます!」


 大丈夫。まだ決まったわけじゃない。大丈夫大丈夫。大丈夫大丈夫大丈夫。

 右手がブルブル震えてるけど、いや、寒いだけだし。っていうか筋肉痛? ビーチバレーの後遺症であって、ビビってるとかじゃないし。


 でもそうだな。肝試しは、なんとしても阻止しないと。







「肝試し!? やりたい!」

「興味あるわ」

「さっすが副部長。センスあるぅ!」


 女子三人、大賛成。


 恐ろしいほどスムーズに進んでいく。俺が阻止しようとする暇もない。っていうか、六人中五人が賛成で、覆せるはずもない。


 …………。


 外に出て、虫除けスプレーをして、少し歩いて。森の入り口。

 やばい。マジでなんにもできなかった。流されるままについてきたら、もうペア決めまで進んでる。


「ほれ、テツも引け」

「お、おう」


 催促されるまま、なにも考えずにドロー。この瞬間に参加が決定した。俺のターン終了!


 くじには数字が書いてある。1から3まであって、同じ数字の女子とペアを組む。

 俺は2番だ。

 2番は――


「2番の人はあたしとだよ! さあ、どんとこい!」


 小日向だった。この暗い中でも、元気はちっとも衰えない。むしろ対比で、いつもより眩しく見える。

 ある意味この中では、最高のペアかもしれない。


 普通に喋ってたら終わりそうだ。別に、怖いとかじゃないけど。


「俺、2番」

「て、テツくん!?」


「哲です。こんばんは」

「こ、こんばんはだね。じゃなくて、よろしく」


 流れで握手をする。


「なんだこれ」

「いや、テツくんがちょっと変だから」


「変じゃないぞ」

「そうかな?」


「そうだ」

「じゃあ、そういうことにしよう」


「ははっ、なんだそれ」


 いつも通りな小日向を見ていたら、笑えてきた。やっぱり、彼女と話しているのは楽しいし、気が楽だ。

 他のペアは、一輝・名取とエージ・氷雨。


 今日が始まったときは、どうなることかと思ったけど。

 ま、なんとかなるだろ。

テツ、それでええんか?

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― 新着の感想 ―
[気になる点] IF:着火剤がなかったらどうなっていたのだろうか・・・
[良い点] ピーマン、いいっすね あと、タマネギ [気になる点] 雲行きが怪しくなってきた感じですね。 [一言] そっかー、こっちの世界じゃ火は魔法で着けるんじゃないんだー(棒)
[気になる点] テツ、それじゃ駄目やんw [一言] そうだね~、年に2回くらいは炭起こすね~ ドラム缶半分に切ったやつでw
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