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学校一の美少女は、告白されると俺の名前を出して断るらしい  作者: 城野白
三章 その未来に、あなたがいないなら
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50話 なんでもない。そう言い聞かせたときは、だいたい手後れ。

ケビン→キャビンへ修正しました。

 昼食の後、腹ごなしにそのへんの砂で、エージのことを埋める。

 最初はお城を作りたい! と小日向が言っていたのだが、「さすがにそれは無理だろう」との冷静な意見によって中止。


 代わりにエージが「あれやりたいっす、砂で人魚作るやつ!」と提案し、自らが埋まる役を買って出た。


「いやぁ、これ、やろうって言っといてなんですけど。暇っすね」

「羊でも数えればいいんじゃないか?」


「あはは。寝ちゃいますって」


 眠気を飛ばすように笑って、エージは俺を見てくる。


「あの、テツ先輩。今日はありがとうございます」

「なにが?」


「俺みたいな部外者、入れてくれて?」

「質問に質問で返すな。……それに、部外者じゃないだろ。一輝の後輩だ」


「おおっ。ジーンとくる!」

「こねーよ。当たり前のことだ。それに、俺からも礼は言わなきゃだし」


「お礼? なんでっすか」

「なんとなくだよ」


 詳しく説明するのは、面倒臭いからしたくない。それでも、氷雨が初対面の相手と楽しそうに話せる。それを見ることができたから、ありがとう。


 名取も、なんだかんだ上手くやれているみたいだ。昼ご飯のときから、よく話している。小日向は言わずもがな。

 …………あれ。


「そういや、一輝どこ行った?」

「収穫してくるって言ってましたよ」


「収穫?」

「よくわかんないっすけど」


「ふうん」

「なので今、俺の下半身を作ってるのは女性陣ということになります。ぐへへ」


「恐ろしく気持ち悪いな。顔も埋めとくか?」

「勘弁願いたいっすね」


 まあ、実害はないからいいや。


 エージの喜びを邪魔するのも悪いし、俺は話し相手を続けよう。アートの才能もないし。女子に任せていれば、きっと無難に人魚を作ってくれるはずだ。

 そう思って、ちらっと現状をチェック。


 …………ん? あれ? 人魚ってこんな感じだっけ。


「俺、今どんな感じっすか?」

「あー。いい感じに進んでるっぽいぞ」


 名取が主導で進めている作業は、確かに順調だった。あっという間にそれっぽくはなっていて、今は形を整えているところだ。


 けど。

 人魚って足8本もあったっけ……。


「すっげー今更なんすけど。男の人魚って、どこに需要あるんすかね」

「その悩みなら、たぶん問題ない」


「どういうことっすか?」


 ネタ路線に走っているから。とは、まだ言うまい。

 名取がぐへへ、と口元を歪めて楽しそうにしているからな。小日向もイタズラっ子みたいにしているし、氷雨はシンプルに目を輝かせている。砂遊び自体が初めてなのかも知れない。


「戻ったぞ~。どんな調子だ?」


 しれっと帰ってきた一輝が、一瞬で状況を把握。名取とアイコンタクト。全体を軽く俯瞰して、


「ここのカーブ、もうちょっと強めでよくないか? たとえばこんな感じで」


 みたいに手を加えていく。


「おおっ、俺の体に曲線美が! ワクワクっす」

「そういう捉え方もあるな」


 確実にタコとして仕上がっている。むしろ曲線しかない。

 ちなみに俺が参加しないのは、美術が苦手だから。昔っから手先が不器用なのだ。絵だって、モアイ像くらいしか上手く描けない。


「うん。こんなもんでいいっしょ」

「結構上手くできたね!」

「…………ふふっ」

「よかったな、エージ」


「ちょっと待ってください、氷雨先輩、なんか笑ってないっすか!?」

「わらっ、わらっ……ないわよ」


「怪しい!」


「いいからいいから。写真撮ろうぜ。全員で」


 訝しむ後輩を抑えて、一輝がスマホを内カメラに。


「じゃ、エージの周りに集合な」


 角度の関係で、一輝は立ったまま。俺は立ち膝で、女子三人は砂の上に寝転ぶ。

 思わぬ形で囲まれたエージは「おっ、おう……」と言葉を失っていた。顔が真っ赤だ。純心かよ。


「じゃあ、笑って――はい、ちーず」


 カシャッ、と音が鳴って、記憶が形に刻まれる。

 三枚撮って、こんなもんでいいだろ。と解散。


「どうなってるんすか。見たいっす!」

「ほれ」


「なんですかこの気色悪い生き物……ま、まさか名取先輩!」

「てへっ」


「ぐっ、む、ムカつく……」

「先輩にそんなこと言っていいのかなー?」


「パワハラっすよ!」

「うっさいわセクハラ野郎」


「どりゃあ!」

「ちょっ、なに立ってんのよ! 壊れちゃったじゃない!」


 名取とエージは仲がいいらしい。一輝も温かい笑みで見守っている。


 しかし気持ちよくぶっ壊したなぁ。

 ぶっ壊した――すっと視線を氷雨のほうへ。小日向は大丈夫だと思うけど、氷雨はめちゃくちゃショックを受けているかもしれない。


「ねえ阿月くん。イタズラって楽しいのね」


 全然そんなことなかった。


「なにに目覚めてんだよ」

「…………」


 じーっと俺のことを見てくる。


「なにを企んでる」

「阿月くんは、イタズラされたら怒る?」


「お菓子あげるから許してくれ」

「なら、私は仮装しないといけないわね」


「ウサミミでもつけるか?」

「それは……ちょっと恥ずかしいわ」


 なにを想像したのか、氷雨は頬を赤くしてそっぽを向いてしまう。上に服を着ているとはいえ、水着姿でそういう表情をされると困る。

 視線を逸らして、小さくため息。


「んで、一輝はさっきどこ行ってたんだ?」

「収穫してきた」


「伝わる言葉で頼む」

「スイカ受け取ってきた」


「「「「「す、スイカっ!?」」」」」


 ダイソ〇並の吸引力に引き寄せられ、全員が目を見開く。

 一輝はにいっ、と笑みを浮かべ、レジャーシート上のクーラーボックスを指さす。あの中で冷やしているらしい。


「キャビン貸してくれる親戚がさ、差し入れてくれたんだぜ」

「至れり尽くせりだな」


「んだな。自分たちじゃ、持ってくるのキツいし。ありがてえ」

「割るのか?」


「割るけど。他にやりたいこととか、あるか?」

「はいっ! はいっ! 自分、二人三脚がやりたいっす!」


 ここぞとばかりに主張するエージ。

 その目は純粋な欲望で輝いていた。こいつ、女子と一緒に走りたいだけだ。

 どれ。ここは俺がでるか。


「二人三脚? 別に、海じゃなくてもいいだろ」

「でも、どうしても譲れないんすよ。自分、先輩たちとは学年も違うんで……体育祭でも、接点少ないじゃないっすか」


「なるほど」

「青春は一瞬でフォーエバーなんすよ! だから、どうしてもやりたいんすよ!」


 拳を握って、力強く宣言するエージ。もはや清々しいよ。


「お前の熱意はよく伝わってきた。一輝、適当なタオル持ってきてくれ」

「合点」


 持ってきてもらったタオルを紐代わりに、俺とエージの足を結ぶ。

 途中でほどけないよう、しっかりと。


「よし、行くぞ」

「うっす」


「せーの」

「ってちがぁああああああう!」


 その場に崩れ落ちるエージ。なんだこいつ、面白いな。


「違うんすよ! 致命的に、決定的に、根本的に!」

「じゃあ却下で」


「くっ……テツ先輩の壁は高かった…………」


 だてに一年長く生きてない。肩をすくめて笑うと、しゅんとして諦めたように「じゃあ、スイカ割りましょう」と言った。




◇ ◆ ◇




 氷雨小雪から見て、阿月哲は不思議な人間だった。


 普通の人は、誰といるかによって態度を変える。いろんな形の自分を使い分けて、上手く世渡りをしていく。


 なのに。阿月哲は、ずっと阿月哲のままだ。

 誰と話していても、どこにいても、彼の人物像が揺らいだことはない。


 優しくて、軽い冗談が好きで、面倒事には自分から首を突っ込んできて――どこかちぐはぐで。簡単な言葉にまとめられない。


 彼のことを考えると、時々、息が苦しくなる。

 だからだろうか。他の人と話す方が、楽に感じるのは。

 目を合わせて、言葉を交わす。それは自然にできて、いつも通りで。けれど、声を掛けるのは前より難しく感じる。


「あー、掠りもしなかったか。次、氷雨さんだよな」


 自覚があるのか、ないのか。哲は小雪にだけ「さん」をつける。当然のように。いつまで経っても。

 最近、名前を呼ばれるたびにちくりと胸が痛いのだ。


「……遠いのね」

「ん? スイカまでの距離か?」


「なんでもないわ」


 なんでもない。

 そう言い聞かせれば、まだ、変わらずにいられる。

 だから彼女は、蓋をする。偽物の笑顔は、得意なほうだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] お?「なんでもない」ならぁ~その手に持とうとしている棒(という名の欲望)はなんだぁ? と内心思ったw
[一言] もっと近づきたいという欲求が出てきたか。無自覚みたいだけど… 「テツくん」って呼べばいいと思うよ。 テツが花音と会ったあとにねw
[良い点] 二人三脚、あざーっす! これで心置き無く異世界に旅立てます(違 自然な感じで入って良かったです。
感想一覧
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