49話 人生は常に戦いなんだよ! by小日向ひまり
パラソルの下に戻って、みんなと合流する。レジャーシートは大きめのもので、円形に並べば全員が入る。
俺の右側にはエージ。その隣に一輝、名取、氷雨、小日向――戻って俺。という形で、ぐるりと一巡する。
「氷雨先輩がサンドイッチ作ってくれたらしいっすよ!」
「簡単なものだけど」
「こ、小雪ちゃんも!?」
激しく動揺する小日向。途端におろおろし始める。
「しょ、初心者のあたしが挑んでいい相手じゃないよね……」
「いつからバトルになったんだよ」
「人生は常に戦いなんだよテツくん。うぅ……急に自信がなくなってきた」
「いや。こういうのは味じゃな……ん? あれ? 違うな。今のは絶対違うな。なんて言えばいいんだろ……」
味じゃなくて気持ちが嬉しい。とか言ってみようとはしたものの、美味しく作ろうとしてくれた人にそれはどうなのだろう。失礼ではないだろうか。
っていうかフォローとか、上から目線だし。言いたいことはそうじゃない。
「なんにせよ、俺は小日向の作ってくれた料理を食べたい」
「そ、そう……? なら」
「えっ、ひまりも作ってきたの? ……どうしよう、ウチだけ女子力ないみたいじゃん」
「名取先輩は大丈夫っすよ」
「おいこら、ぶっ飛ばされたいのか」
「そーいうところっすぎゃぁあああああ」
立ち上がった名取によって、エージは頭をぐりぐりやられていた。げんこつをこめかみにやるやつ。痛そうだなー。
二人のやり取りに、全員の空気が緩む。
「いただこうぜ。もう腹ペコだ」
一輝が声を掛け、名取はエージを解放。元の形に戻って、二人が持ってきた弁当箱を開く。
「うぉおおおお!」
「「「エージうるさい」」」
一輝、名取、俺が一緒になってツッコむ。氷雨と小日向は困ったように笑っていた。
「でも、すごいっすよ! 俺、人生でこんなの……こんなの初めてだから」
「そんなに感動されると、ハードルが上がってしまうわ」
穏やかな声で、氷雨が諭す。
氷雨が!?
内心で驚いて、二度見してしまう。間違いない。氷雨が自分からいった。
エージもびっくりしたようで、咄嗟に頭を下げる。
「うっ、す、すいません!」
「だからエージくんは抜きね」
「ご無体な!」
「ふふっ、冗談よ。でも、あまり期待しないでほしいわ」
イタズラっぽく笑って、さあ。と促す。サンドイッチの詰まった箱。レタスやチーズ、ハムが挟まっている。シンプルだが、外で食べるなら格別に感じるだろう。
それにしても。
あの氷雨が……。
基本的に男と話すのを嫌がり、ツーンとしていた氷雨が。今日会ったばかりの、エージとちゃんと喋ってる。冗談も言っている。
エージ、お前、コミュ力最強か?
それとも氷雨が変わったのか? あるいは両方か。
とにかく、なんかすごいことが起きているのは間違いない。ビビってるのは俺だけらしいけど。まあ、そうか。なんだかんだ、他のメンバーは氷雨との接点が少ないわけだし。
「どしたのテツくん。鳩が銃撃されたみたいな顔して」
「そんなただならぬ表情はしてねえよ!?」
普通に死んでんじゃん。
「豆鉄砲ってどんなのだろうねぇ」
「豆を発射するんじゃないのか?」
「なんの豆かな」
「大豆とか?」
「鳩より鬼に効きそうだね」
「確かに」
いやこれなんの話なんだ? というのは気にしたら負け。いつも小日向との会話は思わぬ方向にいく。
本題とかないから。
「そしてこれが、小日向ひまり作のお弁当です。どうだ! 煮るなり焼くなり好きにしろ!」
「煮るのも焼くのももう終わってんだよな」
「そうだった!」
開かれた箱には、おにぎりと、ウインナー、卵焼き。取りやすく、ダメになりにくいおかずが並んでいる。
全員でいただきますを言って、各々が手を伸ばす。
これだけの人数でなにかを食べることなんて、そうそうない。
会話は入り乱れ、「うまっ」「このサンドイッチ、マスタード使ってるの?」「くぅぅ梅おにぎり最高っす!」「いやぁ。企画してよかったなぁ」「お、おかかうまっ」「えへへ。ちょっとお母さんにも手伝ってもらったんだけどね」「名取さん。こっちは違う種類よ」「ほんとだ! 小雪、もしかして天才!?」「練習の結果よ」「やばっ、格好いいんですけど」
誰がなにを言っているかも、ほとんどわからない。
空間に話しかけて、それを誰かが拾って。たまに二人で会話が続いて、混ざったり、ほどけたり、ただ、一人じゃない。
「ありがとな、一輝」
「いいってことよ」
隣で、自称俺の相棒は不敵に笑う。
いつか今日が思い出になって、俺たちが別々の道を歩むことになっても。ここであったことは消えない。
それがどれほど尊いことか。
今の俺には、よくわかる。




