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学校一の美少女は、告白されると俺の名前を出して断るらしい  作者: 城野白
三章 その未来に、あなたがいないなら
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49話 人生は常に戦いなんだよ! by小日向ひまり

 パラソルの下に戻って、みんなと合流する。レジャーシートは大きめのもので、円形に並べば全員が入る。

 俺の右側にはエージ。その隣に一輝、名取、氷雨、小日向――戻って俺。という形で、ぐるりと一巡する。


「氷雨先輩がサンドイッチ作ってくれたらしいっすよ!」

「簡単なものだけど」


「こ、小雪ちゃんも!?」


 激しく動揺する小日向。途端におろおろし始める。


「しょ、初心者のあたしが挑んでいい相手じゃないよね……」

「いつからバトルになったんだよ」


「人生は常に戦いなんだよテツくん。うぅ……急に自信がなくなってきた」

「いや。こういうのは味じゃな……ん? あれ? 違うな。今のは絶対違うな。なんて言えばいいんだろ……」


 味じゃなくて気持ちが嬉しい。とか言ってみようとはしたものの、美味しく作ろうとしてくれた人にそれはどうなのだろう。失礼ではないだろうか。

 っていうかフォローとか、上から目線だし。言いたいことはそうじゃない。


「なんにせよ、俺は小日向の作ってくれた料理を食べたい」

「そ、そう……? なら」


「えっ、ひまりも作ってきたの? ……どうしよう、ウチだけ女子力ないみたいじゃん」

「名取先輩は大丈夫っすよ」


「おいこら、ぶっ飛ばされたいのか」

「そーいうところっすぎゃぁあああああ」


 立ち上がった名取によって、エージは頭をぐりぐりやられていた。げんこつをこめかみにやるやつ。痛そうだなー。

 二人のやり取りに、全員の空気が緩む。


「いただこうぜ。もう腹ペコだ」


 一輝が声を掛け、名取はエージを解放。元の形に戻って、二人が持ってきた弁当箱を開く。


「うぉおおおお!」

「「「エージうるさい」」」


 一輝、名取、俺が一緒になってツッコむ。氷雨と小日向は困ったように笑っていた。


「でも、すごいっすよ! 俺、人生でこんなの……こんなの初めてだから」

「そんなに感動されると、ハードルが上がってしまうわ」


 穏やかな声で、氷雨が諭す。

 氷雨が!?


 内心で驚いて、二度見してしまう。間違いない。氷雨が自分からいった。

 エージもびっくりしたようで、咄嗟に頭を下げる。


「うっ、す、すいません!」

「だからエージくんは抜きね」


「ご無体な!」

「ふふっ、冗談よ。でも、あまり期待しないでほしいわ」


 イタズラっぽく笑って、さあ。と促す。サンドイッチの詰まった箱。レタスやチーズ、ハムが挟まっている。シンプルだが、外で食べるなら格別に感じるだろう。

 それにしても。


 あの氷雨が……。

 基本的に男と話すのを嫌がり、ツーンとしていた氷雨が。今日会ったばかりの、エージとちゃんと喋ってる。冗談も言っている。


 エージ、お前、コミュ力最強か?

 それとも氷雨が変わったのか? あるいは両方か。


 とにかく、なんかすごいことが起きているのは間違いない。ビビってるのは俺だけらしいけど。まあ、そうか。なんだかんだ、他のメンバーは氷雨との接点が少ないわけだし。


「どしたのテツくん。鳩が銃撃されたみたいな顔して」

「そんなただならぬ表情はしてねえよ!?」


 普通に死んでんじゃん。


「豆鉄砲ってどんなのだろうねぇ」

「豆を発射するんじゃないのか?」


「なんの豆かな」

「大豆とか?」


「鳩より鬼に効きそうだね」

「確かに」


 いやこれなんの話なんだ? というのは気にしたら負け。いつも小日向との会話は思わぬ方向にいく。

 本題とかないから。


「そしてこれが、小日向ひまり作のお弁当です。どうだ! 煮るなり焼くなり好きにしろ!」

「煮るのも焼くのももう終わってんだよな」


「そうだった!」


 開かれた箱には、おにぎりと、ウインナー、卵焼き。取りやすく、ダメになりにくいおかずが並んでいる。

 全員でいただきますを言って、各々が手を伸ばす。


 これだけの人数でなにかを食べることなんて、そうそうない。


 会話は入り乱れ、「うまっ」「このサンドイッチ、マスタード使ってるの?」「くぅぅ梅おにぎり最高っす!」「いやぁ。企画してよかったなぁ」「お、おかかうまっ」「えへへ。ちょっとお母さんにも手伝ってもらったんだけどね」「名取さん。こっちは違う種類よ」「ほんとだ! 小雪、もしかして天才!?」「練習の結果よ」「やばっ、格好いいんですけど」


 誰がなにを言っているかも、ほとんどわからない。

 空間に話しかけて、それを誰かが拾って。たまに二人で会話が続いて、混ざったり、ほどけたり、ただ、一人じゃない。


「ありがとな、一輝」

「いいってことよ」


 隣で、自称俺の相棒は不敵に笑う。

 いつか今日が思い出になって、俺たちが別々の道を歩むことになっても。ここであったことは消えない。


 それがどれほど尊いことか。

 今の俺には、よくわかる。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 確かに尊いね、これ(^^) ずっと心に残るわ
[良い点] ここであったことは消えない。 それがどれほど尊いことか。 刺さりました。。。。
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