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学校一の美少女は、告白されると俺の名前を出して断るらしい  作者: 城野白
三章 その未来に、あなたがいないなら
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47話 ちゃぷちゃぷちゃぷちゃぷ

「よーし、じゃあいこっか!」


 元気溌剌。小日向がパーカーを脱ぐ。健康的な向日葵柄の水着。下も短いスカートみたいな形で、ちょっと安心する。


 氷雨も水着になって、先陣を切った小日向についていく。てくてくと。やや不安そうで、どこか姉妹のようにも見える。


 その後を追随するように、サッカー部男子二人もかけ出した。


「いくぞエージうぉおおお!」

「うぉおおお!」


 雄叫びを上げながら、物凄い勢いで。そのまま海に突っ込んでいった。あいつらにはブレーキが搭載されていないらしい。

 残された……わけではないが、俺と名取が少し後ろを歩く。


「はぁ……」

「どうした?」


「どう考えてもウチだけレベルが……ねえ」

「それ、いっつも一輝といる俺に言うか?」


 顔とカリスマの格差をひしひしと感じているのだ。素のポテンシャルであいつに勝るやつなんて、そうはいない。


「フォローになってないんだけど」

「いや、そういうわけじゃ……ええっと、名取も水着、いいと思うぞ」


「いいって?」

「似合ってる」


「ふうん。それってつまり、可愛いってことよね?」


 やや挑発的に聞いてくる。つり目の名取がやると、どこかキツネみたいだ。


「……引け目を感じることはないだろ」

「阿月ぃいい、フォローするなら最後までちゃんとしなさいよ」


「いや、ほんと、どっちかって言うと名取は美人タイプだから、可愛いとかじゃないってだけで」

「美人?」


 きょとん、と首を傾ける。

 名取は自分のことを指さして、


「ウチ、美人、マジ?」

「どちらかと言えば」


 渋々頷く。すると、名取は急に胸を張って偉そうに笑う。


「はーん。阿月から見て美人ねー。はーん。ちょっとは見る目があるじゃない」

「やっぱ嘘。性格が下の下だ」


「性格だったらあんたも人のこと言えないでしょーが」


 眉間にしわを寄せて睨んでくる。俺も自然と口がへの字に曲がり、対抗するようににらみ返す。


「「ぎぎぎぎ……っ」」


 しばらく睨み合って、どちらともなくため息がもれる。


「ふぅ」


 アホらし。


「さっさと行くぞ。海が逃げる」

「海は逃げないでしょ! ちょっと、待ってよ阿月」


「待たん」


 砂浜をつかつか歩いて、波打ち際まで。

 さっきまで全員いたはずなのに、なぜか男二人がいない。小日向と氷雨が、揃って遠くを見ているだけだ。


「あれ? 一輝とエージは?」

「あそこだよ」


 指さすのは、視線の方向と同じ。

 波しぶきを立ててクロールする人間が二人。観光目的で来た人が多い中で、まさかのガチ泳ぎだ。かなり目立っている。正直、一緒に来たと思われたくない。


「さっき一輝がね『エージ、モテる男は水泳が速い!』って言って。そしたらエージくんも『これからは海の時代なんすね!』って」

「小学生か?」


 それで騙されるエージ……お前、その先輩を信じるのはやめたほうがいいって。

 わははは、と聞き慣れた高笑いが聞こえる。


「テツもこいよ! 泳ごうぜ!」


 まさかの勧誘。俺、さっきのビーチバレーがかなりきてるんだけど。一緒にやってたあいつは、ウォーミングアップ程度にしかならなかったらしい。

 体力バカめ。


 というかそもそも、俺は泳ぎが得意じゃない。

 頭上で腕をクロスし、バツ印。


 すると一輝は、エージを連れてこっちに泳いできた。大人しく撤収してくれるとは、意外だ。


「なんだよテツ、泳ぎは苦手か?」

「苦手だ」


「そんなこと言って、平均よりはできるだろ?」

「いや、苦手なんだな。これが」


「おいおい。でも、体育の授業……あれ。水泳の時間、お前、どこにいた?」

「苦手グループに紛れてたんだよ」


「うぉおおおマジか! そういえば水泳だけテツがいなかったような記憶が」


 その時間はペアワークが少ないからな。気がつかなかったのも無理はない。

 あと、俺も頑張って気配を消してたし。


「苦手って、どのくらい?」


 横からすっと入ってきて、氷雨が聞いてくる。


「25メートルがなんとか泳げるくらい」

「うらぎりもの」


 すーっと引いていく氷雨。そのまま小日向のところに隠れてしまう。気に入ったみたいだな、そのポジション。

 そんでもって、心を開かないネコみたいな目を向けるな。やめろ。


「小雪ちゃん、泳ぐの苦手みたいなんだ」

「水も苦手よ」


「ネコか」

「ヒトよ」


「知ってるけども」


「ということで、なにかあったら助け合いだからね。海は危ないから、お互いに気をつけていこー」


 普段からクラスのまとめ役もやる小日向。明るい笑顔で、全員に注意を促す。

 小柄なおねーさんみたいな、それでいて天真爛漫な妹のような。そりゃ、モテるわな。とか、ぼんやり考えながら。


 波際で、冷たい水に足を伸ばす。

 つめた……いや、思ったよりぬるい?


 海に来ること自体、ほとんど初めてのことだ。砂がにゅるにゅる指の間を通るのも、波が引く力が思ったよりも強いことも。全部、新しい。


「テツくんも怖い?」


 隣から、小日向がのぞき込んでくる。


「いや、怖いとかじゃないけど。……やっぱちょっとビビってるかも」

「仲間ね」


 不敵に笑った氷雨が、波の届かない場所で立っていた。


「来いよ」

「足が動かないわ。ぴくりともね」


「堂々と倒置法を使うな」

「おいで。浅いところなら安全だから」


 小日向の手招きで、やっと最初の一歩。ちゃぷ、っと足を水に浸す。


「あっ」


 引いていく波を追いかけるように、もう一歩。寄せる波が、さっきよりも高く足首まで包む。

 氷雨は目をぱちぱちさせて、確かめるように水の中を歩く。


「楽しい……かもしれないわね」

「でしょでしょ!」


 どれ。俺ももうちょい奥まで行ってみようかね。

 とりあえず、膝くらいまで。ここまで来ると、かなり波に引っ張られる。


「くらえテツ!」


 不意打ち。


「しょっぱっ!」


 ばしゃん、と水をぶっかけられる。


「ふはははっ、洗礼だ」

「お前っ、くらえ!」


 お返しに水を掛け返す。ちょっと力みすぎたせいで、横にいた名取にもヒットしてしまう。


「ちょっと阿月ぃい! やったなあ」

「いや違う、狙ってない!」


「問答無用! とりゃあっ!」


 全身を使って、ありったっけの水をかけてくる。だが、今度は俺の後ろにいた小日向が巻き込まれたらしい。


「あ、ひまりごめんっ、そんなつもりじゃ――」

「ふふっ。海の中で待ったはないんだよ!」


 小日向も乱入。


「俺も混ざるっす!」


 勢いでエージも参戦。


「おうエージ、無礼講だ。全力で来い!」

「ちょっと一輝、なに焚きつけてんのよ!」

「恨みはないけど、テツくんにえいっ!」

「なっ――じゃあ俺はエージに!」


 ノリよく、水の掛け合いが始まる。

 知性を止めてしまえば楽しいもんで、珍しく思いっきり笑っていた。俺。こんなに笑えたっけ。まあいいや。


「えいっ」


 控えめな声と、弱い水。斜め後ろからだ。

 振り返ると、躊躇いがちに首を傾げる氷雨がいる。


「これで、いいのかしら?」


 みんなのノリについていけなかったらしい。しまった。誘っておいて、俺が忘れるのはミスだ。


「もうちょっと強くてもいいんじゃないか?」

「こう?」


 ぱしゃん。

 さっきよりは強いけど、お腹くらいまでしか届かない。


「いやもっとこう、しゃがんで、膝の力をつか――ぶっ」


 やり方を見せようと姿勢を低くしたところ。顔面に潮水が飛んできた。

 完全に無抵抗な状態で、鼻に入った。


「ご、ごめんなさい! そういうつもりじゃ」


 おろおろする氷雨。


「テツがダウンしたぞ!」


 大丈夫。大丈夫なんだけど、すごいむせる。喉の奥が辛い。

 息はできるけど、喉痛いし。や、大丈夫なんだけどね。


「ごめんなさい。……」


 だから心配しなくていいんだけど。マジで。ただの事故だし。

 手を横に振って、無事をアピール。

 どうにか声を絞り出す。


「俺、一回休み……っ。大丈夫だから……続けてくれ」

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― 新着の感想 ―
[一言] 『心を開かないネコみたいな目を向けるな』 すごくクスッときました&すごく場面が想像できました あとこんなに笑えたっけにも共感。 これからもバリバリ書いていってもらえると嬉しいです
[良い点] 青春っぽい… 夕日に向かって叫んだりするのかな?(イメージが変?)(笑)
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