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学校一の美少女は、告白されると俺の名前を出して断るらしい  作者: 城野白
三章 その未来に、あなたがいないなら
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45話 海! 水着! ナンパ!?

 バスで20分ほど揺られると、白い砂浜と、たくさんの人が見える。

 夏休みだからか、平日だというのに海水浴場は賑わっている。


 太陽の光が乱反射する青と、眩しいほどの活気。色とりどりのパラソル。


「わっはっは! 海だぞテツ!」

「海だー! テツくん盛り上がってる?」

「海よ、阿月くん」

「海っすよテツ先輩!」


 見ればわかるのに、なぜか全員が俺に報告してくるんだけど。


「ええっと……ウチもやったの方がいいの?」


 残った名取が、困惑して首を傾げる。首を横に振って、


「いや、やらんでいい」


 っていうか、エージ。この短時間で俺の呼び方変わってるし。

 まあいいけど。いいんだけどさ。こいつも距離感バグってるな。凛タイプか? ちょっと似てるかもしれない。


「人気なのね。阿月って」

「さあな」


 肩をすくめ、適当に返す。名取はふーん、と流した。どうでもいいよな。

 砂浜に降り立って、一輝が仕切り始める。


「じゃあ、女子は更衣室に行ってくれ。男子はパラソル借りて休憩所の設置、その後に着替えなー」

「「「「はーい」」」」


 一度解散して、男三人になる。女子たちは荷物を持って、海の家の奥に入っていく。

 残った俺たちは、レンタル用のパラソルを手に入れ、ビーチの空いたスペースに陣取る。


 尖った先端を地面に埋めながら、一輝とエージが話している。俺はレジャーシートを敷いて、端に荷物を置く係。


「一輝先輩、俺にモテ技術を教えてくださいっ!」

「モテるやつはなにしてもモテるし、モテないやつはなにやってもモテない」


「真理っ!」

「モテないやつが頑張ると、キモがられるからな。なにもせず、神に祈り、ダメなら諦めろ」


「ううっ……一輝先輩は勝ち組っすからね」

「んなこたねーよ」


 わっはっは、と笑って、一輝が会話を終わりにした。パラソルの設置が終わったからだ。

 足で周りの砂を踏んで、動かないように固定する。


「ほい、じゃあ俺らも着替えの準備して、女子と入れ替わりな」

「先輩方の水着!」


「俺たちのに興味あるのか……さすがに引くぞ」

「一輝先輩たちじゃないですよ。女性陣です!」


 見たところ、一輝はしっかり手綱を握っているようだった。

 狙っているとは言ったものの、エージだって暴走しているふうには見えないし。


 大丈夫っぽい?


「テツ先輩、楽しみですよね」

「え、あーっと、……なにが?」


「水着ですよ水着。いくらなんでも楽しみでしょう?」


 水着。

 女子たちの水着。


「まあ、そこそこかな」

「薄いっ! 本当に薄いっ! もしかしてテツ先輩、女性を好きにならないタイプなんですか?」


「いや、なるけど」

「そうですか。でも一応、自分、身の安全に気をつけます」


 物凄い警戒された。

 俺のほうがヤベー奴だと思われてるじゃん。女子のが可愛いし、綺麗だと思うよ。普通に。芸能人もキャラクターも、ちゃんと魅力的だと思うし。


 いろいろこじれてるのは、事実だけどさ……。

 なんてことを話していると、海の家のほうから三人がやってくる。


「お待たせー」


 先頭の小日向が手をヒラヒラと振って、その横に名取。氷雨は二人の後ろに少し隠れるように、ついてくる。


 オレンジのパーカーを羽織った小日向と、半袖シャツを上から着た名取。

 なぜか氷雨だけが、水着のまま。フリルのついた、そんなに際どくないものだが……いつもより肌の露出が多いのは明らかだ。目のやり場に困るのは、俺が経験不足だからか?


「び、ビキニじゃない……っ」

「甘いなエージ。世の中、そう上手くは回ってないんだぜ」


 けっけっけ、と一輝が笑う。


「でも生足が拝めたのでオッケーです」

「タフだなぁ。我が後輩ながら」


 すらっと伸びた、しなやかな小日向の足。陸上部で鍛えているからだろう。無駄なものがなくて、素直に綺麗だと思う。

 氷雨は壊れそうなほど細くて――いやいやいや。なにを飲み込まれてるんだ。


 悪影響を受け始めている気がする。いつもなら、こんなこと考えないはずだ。


「三人とも準備ありがとね」

「ウチらで荷物番やってくから、行ってきなよ」


 俺たちの前まで来ても、氷雨は二人の後ろに隠れたままだった。彼女よりやや小柄な小日向の背中にいるので、あんまり意味がないのだが。

 ちらっと目が合うと、さっと逸らされた。もっと小さくなってしまう。


 ……大方の事情はわかった。


「行くぞ、テツ」

「あー、先行っててくれ。すぐ追いかけるから」


「ほいほい。んじゃ、エージ。カモン」

「おっす!」


 着替えに行った二人とは別で、俺は自分の鞄を漁る。

 奥の方にあったはずだ。カシャカシャした手触り。よし。これこれ。


「氷雨さん、これ着るか?」


 薄手のウィンドブレーカー。夜は森の中で過ごすと聞いたから、用意しておいたのだ。蛍光グリーンで、控えめなデザイン。海で着ても違和感は少ないはず。


「え?」

「上に着るの準備してなかったんだろ。これなら濡れてもすぐ乾くし、寒くないし」


「でも、これは阿月くんの……」

「男物が嫌なら、無理はしないけどさ」


「着させていただくわ」

「おう。じゃ、俺も行くから」


 立ち上がって、荷物を手にする。

 海の家で二百円払って更衣室を借り、海パンに着替え、外で二人と合流。


「テツ先輩、なにしてたんすか?」


 当然のようにエージが聞いてくる。ほんの少し伏せようかと思ったが、どうせ名取と小日向にも見られている。隠すようなことでもない。


「氷雨に服貸してた」

「彼シャツ!?」


「そんなんじゃない。ただ、上に着るものがなさそうだったから」

「なんてことをするんですか! 唯一、フル水着だった人を!」


「風邪引いたら元も子もないだろ」

「うっ――」


 エージは言葉を詰まらせると、険しい表情で地面を睨む。どんだけ水着が見たかったんだよ。

 唇を噛みしめるエージの肩を、ぽんと一輝が叩く。


「わかったか。これが〝格”の違いってやつだ」

「テツ先輩……手強いっすね」


「見て学べ。お前はまだ成長できる」

「ういっす! テツ先輩から学ばせて頂くっす!」


 サッカー部どもが、揃って俺を見てくる。


「はぁ?」


 ちょっと見ない間に、わけがわからんことになってないか?

 エージは俺に真剣な目を向けてくる。


「よろしくお願いします。〝先輩”!」

「お、おう……?」


 なぜだろう。その〝先輩”という言葉には、今までにはなかった重みが加わっていたような。

 一輝に対して発せられるのと、同じようなニュアンスを含んでいた気がした。







 海に来た。俺たちは高校生。

 だが、海にいるのは高校生だけじゃない。家族連れもいるが、それはあまり関係ない。


 経験の浅さが招いたことだ。

 俺たちのパラソルのところに、四人。氷雨、小日向、名取ではない人影がある。遠目からもわかる、男で体格がいい。間違いなく年上だろう。


 ナンパ……。

 ナンパされてる!?


 彼らは三人になにかを言っていて、それに立ち向かうような姿勢で立っているのは――

 ――氷雨!?


 咄嗟にフラッシュバックする、あいつの毒舌っぷり。

 俺の前では完全に封印されているが、基本的にあいつは男が苦手だ。苦手がゆえに、過剰に防衛しようとする。


「荷物頼む!」

「エージ任せた!」


 持っていたものを放り投げて、俺と一輝が全力ダッシュ。


「えっ、あっ、はい!」


 足場の悪い砂浜を「うぉおおおしくじったぁあああ」「あんなの実在すんのかよぉおおお」「茨城だぞここ!」「そーいうのは神奈川でやれ!」などとわめき散らかしながら突っ込んでいく。


 相手はおそらく、大学生以上。まともに話し合いをスタートすれば不利になる。

 俺も一輝もそれがわかっているから、ダッシュのスピードを止めずに到着。


「「ちょっと待ったぁああああ!」」


 スライディング気味に、氷雨と男の前に割り込む。後ろから一輝が止まりきれずぶつかってきて、倒れ込んだ。「ぶへっ」だっせえ。


 俺を犠牲にストップできた一輝が、


「あの、彼女たち。俺らのツレなんですけど」


 と牽制する。

 男――一番先頭で、氷雨たちをナンパしにかかっていた金髪。色黒、筋肉質、ピアスの役満野郎は「へえ」と軽く笑う。


「じゃあ、ちょっと貸してくんない? いいよね?」

「戻ってくれないですかね。変な騒ぎになるのもダルいんで」


 明らかに上からの態度に、一輝は口元をひくつかせていた。辛うじて笑顔は保っているが、こいつ、煽りに弱いのか……?


「俺らは男じゃなくて、奥の女の子に言ってるんだけど? わかんない?」

「彼女たちも嫌だって言ってますけど――」


 一輝の言葉に合わせて、ちらっと後ろを向く。小日向と名取は、怯えながら小さく頷いた。だが、さっきまで抵抗していたであろう氷雨は、少しだけ様子が違っていて、


「頭がおかし――」

「よぉおおおし! 三人とも嫌だって言ってるんで、帰ってもらっていいですかね!?」


 とんでもないことを口走りそうだったので、叫んでかき消す。

 俺が叫んだことで、周りの海水浴客もこっちを見てくる。よし。向こうもやりづらくなったはずだ。俺も恥ずかしいけど。


 金髪の男は、明らかにイラついている。


「高校生なのに、大学生に逆らっていいわけ? ネンコージョレツって知ってる?」


 引く気はないらしい。後ろの三人も、とりあえずオラついている。他にやることはないのか。ないか。脳みそがないから。


 …………こいつらっっ。

 奥歯を噛みしめ、拳を握る。

 一輝と目が合った。考えることは同じ。


『ぶっころしてえ!』


 湧き上がるのはシンプルな殺意だった。どうして見知らぬクズに、俺たちの楽しい時間を邪魔されなきゃいけない?

 このまま追い返しても、モヤモヤは残るだろう。


 目だけで会話する。


『やるか?』

『やるぞ』


 俺が聞いて、一輝が答えた。やる。

 なにがあっても大丈夫なよう、安全を確保しつつ、目の前の害虫を叩き潰す。


 後ろに下がって、比較的冷静な小日向に言っておく。


「ちょっと面倒事になる。ごめんな」


 氷雨は反省してほしい。前も大変な目にあったのに、学習しないのか。


 さて。

 一輝の隣に立つと、端的な質問が飛んでくる。


「バレー、できるか?」

「苦手じゃない」


「十分」


 じゃあ、やりますか。普段あんまりこういうのはしないし、好きじゃないけど――


「いやー。俺って帰宅部なんで、先輩後輩とか、よくわかんないんっすよね」


 声を張って、周りからの注目を引き続き集める。誰も関わってこようとはしない。怖いもんな。大人の男。それが普通だ。だけど気にする。面白そうだと、注目してしまう。なら、それを利用しろ。


「なんで、教えてもらっていいっすか? 先輩のほうが優れてるなら、俺たちに負けちゃったりしないですよね?」

「みのりん、ボール」


 後ろから名取が投げた、遊び用のバレーボール。

 それだけで、意味は十分伝わるだろう。


 せっかくの海だ。こういうくだらないことは、娯楽で終わらせるに限る。


「まさか、逃げたりしませんよね?」


 俺たちが勝ったら、消え失せろ。

 ただし俺たちが負けても、試合の間に人が集まればいい。こっちに手を出せない状況が作れる。


 男たちは狼狽えていた。怯えるだけだったガキが、急に攻めてきたからか。


 こういうのを見ていると、思い出してしまう。

 腹のそこにある、俺の真っ黒な感情。まだ消えていないらしい。きっと生涯消えない。残り続ける。


 ――立場に甘えんなよ。クソ共が。


 胸の中で吐き捨てた言葉は、目の前にいる彼らへの言葉ではなかった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] テツくん、紳士(^^) [一言] おっと、闇が出てきた… いったい、テツの過去に何が?
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