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学校一の美少女は、告白されると俺の名前を出して断るらしい  作者: 城野白
三章 その未来に、あなたがいないなら
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44話 簡単なお仕事

 やることが少ないと、一日が短く感じる。

 スキップボタンでも押したような速度で、カレンダーはめくれていった。


 凛が帰り、今日までの間。何度か氷雨と会い、一輝や小日向とも遊んだ。だが、そのどれもがあっという間で、なにかを感じるよりも早く過ぎ去っていった。

 全部、頭の中がごっちゃになっているせいだ。


「なーにやってんだかな」


 もう二度と会わないはずの、初恋の相手。新島花音と会うことが決まった。

 決めてからも連絡は続いていて、 当たり障りのないやり取りをしている。ただの、仲がいい相手のように。何事もなかったかのように。


 一輝が主催の、宿泊を伴う行事。

 その出発前。鞄を整理した今ですら、頭は整理されていない。


 でもなぁ。

 一人だけ辛気くさい顔してるのは、申し訳ない。


 頬を叩く。笑ってみる。鏡の前じゃないから、どうなってるかわはわからない。けど、気分は少しマシになった……気がする。

 うん。まあ、いいだろ。


 アパートを出て、駅に向かう。

 行き方には何通りかあって、今日は森本珈琲の前を通ってみる。

 午前九時。さすがにまだ、やっていないみたいだ。


 本当は通いたいのだが、最近は金銭的な問題で足が遠くなっている。マスター、元気でやってるだろうか。

 あの人なら、なにかアドバイスをくれるかも。みたいな期待をしてしまう。


 でも、よくないよな。

 これは俺の問題だ。俺が、自分でどうにかできること。


 息を吐いて、しばらく歩いていると、道の向こうに見知った人影を見つけた。

 駅の少し手前。向こうも気がついたらしい。手を振ってくれるので、返す。


「おはよう、阿月くん」

「おはよ。氷雨さん」


 同じ電車だから、似たような時間になったのだろう。この駅から乗るのは俺と氷雨だけなので、一緒に歩いて行く。


 氷雨は淡い色のジーンズに、長袖のシャツ。頭には黒のキャップ。宿泊場所が森の中だから、肌の露出を少なくしてのだろう。

 俺は半袖で来てしまったけど、間違いだったか?


 一泊二日なので、持ち物は最低限。リュックに全部入りきった。

 対して氷雨は、リュックの他にもう一つバッグを持っていた。女子は荷物が多いというが、なにがそんなに違うのだろうか。聞いてみようかと思って、飲み込んだ。


「楽しみね」

「そうだな。つーか、誰が来るんだろ」


「……仲良く出来るかしら」

「氷雨さんにその気があれば」


 冗談交じりに言ってみると、ムッとした顔になる。


「失礼ね。私はいつだって、友好的な態度を取ってるわよ」

「そうか……?」


 俺の前とか、慣れた相手に対してはハードルが低いけど。基本的に表情の変化が少ないし、近寄りがたい部類だと思うんだけど。


「そうよ。今までは運が悪かっただけ……今日は、上手くやってみせるわ…………たぶん」

「すごい勢いで自信なくすじゃん」


 仲良くしたいという意思はあっても、今までの積み重ねが自信を奪うのだろう。


「もしダメだったら……」


 ちらっと俺のことを見てくる。


「阿月くんに隠れて過ごすことになるわ」

「悲しくなるから、頑張っていこうな」


「そうね」

「ま、一輝が大丈夫って言ってるから。なんとかなるだろ。小日向もいるし」


 改札をくぐってホームに降り、電車に乗る。


「佐藤くんのこと、信頼してるのね」


 揺れる車内。ドアにもたれて立つ俺、隣で座った氷雨。荷物を抱きかかえ、上目遣いで言ってくる。


「信頼……か。そうだな。あいつなら、やってくれるだろと思ってる。すごいやつなんだよ」


 運動も出来るし、人を引っ張れるし、頭もキレる。察しが良くて気が回って、人を傷つけない。食えないやつだけど、あいつがいると心強い。


「相棒というものなのかしら」

「やめてくれ。恥ずかしい」


 二人組でやることがあれば、なにかと一輝とペアになる。やりやすいのだ。なぜかは知らないが、お互いに役割の分担ができるというか。

 周りからはテツカズコンビ。なんて呼ばれてるらしいけど……。


「いいわね。そういうの、男子って感じがして」

「ガキっぽいだろ」


「それがいいんじゃない」

「よくわからん」


 そんな会話をしているうちに、電車は進んでいき、停車駅でドアが開く。

 ホームから流れてくる人の中に、見知った顔が二つ。軽く手を挙げると、気がついてこっちに来る。


「おはおは~」

「ういー」

「うーい」


「……ええっと、おはよう?」


 氷雨が混乱したのは、たぶん俺と一輝のせいだな。一輝がういー、で俺がうーい。

 ここまで適当な挨拶も珍しいのだろう。


「小雪ちゃん、久しぶりだねぇ」


 小日向は半袖にスカート、麦わら帽子の爽やかな格好。氷雨の隣にするりと座る。


「ひ、久しぶり……小日向さん」

「元気だった?」


「ええ。そちらは?」

「元気元気!」


 圧倒的なコミュ力に押され気味ながらも、どうにかやっているようだ。安心。

 視線を前に向けると、つり革に捕まった一輝がこっちを見ている。


「なんだよ」

「いやー。保護者みたいだなって」


「老いてるか、俺?」

「まあ確かに、同い年とは思えないフシはある」


 かっかっか、と軽妙に笑う。


「後の二人は?」

「最寄り駅で集合」


「そうじゃなくて、誰を誘ったんだよ」

「まーそう固くなんな。直につくんだから」


「もったいぶるなぁ」


 スペシャルってわけでも、ないだろうに。







 目的の駅に着いて改札を出る。


 小日向と氷雨は、ずっと二人で話している。……いや、小日向から話題を振って、氷雨が答え続けている。という形だが。

 あの二人はあれが一番やりやすいのだろう。


 改札を抜けて、駅舎を出る。


「おっす、これで全員だな」


 一輝が手を挙げた。視線の先を辿っていくと、二人の男女。

 男子のほうは、知らない顔だ。ぱっと見で幼い雰囲気があるから、後輩なのだろうか。

 女子のほうはショートカットで、ややつり目気味。どこかで見覚えのある顔だが――


「ああ、……そういうことか」

「おっす阿月。ウチのこと覚えてる?」


「ギリギリ」

「ギリギリ言うな!」


「…………ナトリン?」

「名取。名取みのり」


「そうだった」

「ちゃんと忘れられてる!」


 これはまた、すごい人選をしてきたな。

 氷雨とカフェでばったり会って、気まずい空気になって、その後どうなったのだろう。俺には知るよしもない。


 ちらっと氷雨のほうを見る。が、彼女はぽかんとしている。


「阿月くんの知り合い?」

「……いや、まあ、うん。そうだな」


 覚えてないのかよ。確かに直接的な絡みがあったわけじゃないけど。


 ――髪、切ったからか?


 名取は前会ったときより、ずっと短い髪をしていた。男子よりは長いが、肩にも届かない位置で切っている。

 だから思い出せないのかもしれない。


 思い出せないなら、別にいいか。


「それで、もう一人は?」


 男子のほうに目を向けると、彼はピシッと背筋を伸ばす。いかにも運動部な声の張り方で、自己紹介。


「自分、伏見英二っす! 一輝先輩にお招き頂きました」

「おおっ。好青年だ!」


 体育会系のノリにつられたか、小日向が前に出てくる。

 伏見くんは、他の面々と軽く言葉を交わしている。氷雨も固い表情ながら、頑張っていた。


 一輝は腕組みをして、静かに見守っている。


「後輩なんだな」

「おう。あいつは面白い男だぞ」


「面白い? ……急に嫌な予感がするんだが、大丈夫なんだよな?」

「なんかあったら、先輩権限で手綱を握れる」


「なんかあるのかよ……」


 なにかしらぶっ込んでくるとは思ったが、そうか。彼がそれか。

 伏見英二。


 少し見ておくか。そうすぐにやらかすことはない、と思うけど……。


「阿月先輩、よろしくっす」


 女子との挨拶が終わったらしい。こっちに来て、礼儀正しく腰を折る。

 俺も会わせて会釈を返す。急に先輩扱いされると、困ってしまうよな。


「よろしく。伏見くん」

「エージでいいっすよ。呼びやすいですし」


「ああ、そう。じゃあエージで」

「はい。ところでなんですけど、阿月先輩……」


 エージは口元に手を当てて、他に聞かれないように、


「誰のこと狙ってるんすか?」

「は?」


「ちなみに自分、氷雨先輩狙いっす。いやでも、小日向先輩も捨てがたい……」

「んん?」


「一輝先輩は誰も狙ってないらしんで、いいんすけど。阿月先輩はどうなのかと思いまして」

「ええっと……」


「はい」

「狙ってるって、どういう?」


「付き合いたい、ってことに決まってるじゃないっすか」

「あー」


 あー。

 こいつ、ヤバいわ。


 一輝のほうを見ると、あいつ、視線を逸らしやがった。

 目的はなんだ? こんな爆弾を持ってきた理由は……でも、氷雨、小日向とお泊まり会。普通の男子としての反応はこうなのかもしれない。口に出さなくても、ワンちゃん狙うのが男なのかもしれない。

 だったら、後輩で、わかりやすいやつのほうが御しやすい? のかもしれない。少なくとも、同学年の男よりはマシだ。


 警戒しておくか。小日向はうまく躱してくれそうだけど、氷雨は困りそうだからな。


「俺はそういうの、ないよ」

「そっすか。なら、安心っすね」


「そうだな。みんなで楽しく、2日間過ごそうな」


 暴走しないよう、上手く立ち回るかね。

 この六人が、変な空気になってしまわないように。なるべく悟られないように。

 なに、こういうのは苦手じゃない。

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― 新着の感想 ―
[一言] 花音と会う前にテツの態度をハッキリさせたいね~ 爆弾で!w
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