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学校一の美少女は、告白されると俺の名前を出して断るらしい  作者: 城野白
三章 その未来に、あなたがいないなら
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43話 嵐の前の嵐 終

 凛と氷雨の会話は、俺の入る隙がないほどスムーズに進んだ。

 隙がない。比喩でもなんでもなく、ずっと二人で話している。俺の思考が追いつくより前に話題が変わるし、っていうか化粧の話とか知らないし。


 すげー疎外感。

 でもまあ、悪い気はしない。


 凛はいつも通りウキウキしているだけだが、氷雨はそうじゃない。こんなに食いついてくる相手は珍しいのだろう。戸惑いながらも、つられて笑顔になったりする。その笑顔は、俺に見せるものより自然な気がした。


 適当に聞いている格好をしながら、コップの水を飲んで、時間を潰す。

 今日の主役は俺じゃないしな。


 変な話題になったら、すぐに止めよう……。


「小雪さん、この後遊びませんか? 二人で!」

「いいの? せっかく阿月く……お兄さんに会いに来たんでしょう?」


「いいんです。どーせお盆にはまた会えるので」

「そうなの?」


「はい!」


 二人は遊ぶ約束まで立てていた。一気に仲良くなったな。凛は人との距離感を詰めるのが得意ではあるが、ここまでは珍しい。よっぽど氷雨が気に入ったか。


 いや。

 ちょっと待て。

 変な話題に……なってる!?


 凛がちらっとこっちを見て、無害な笑みを浮かべる。


「ということで、あにぃ。午後はお留守番をお願いします」

「お、お前……まさか」


「ん?」


 この場では聞けないことを、俺がいないタイミングで聞くつもりだ。

 やっぱこいつバカのフリしてやがった!


「どうしたの、ヤキモチ?」

「…………」


「男子には聞かれたくない話もあるんだにゃー。妹のお願いを聞いてほしいにゃー」

「…………こいつ」


 まんまと俺が見逃したのをいいことに、全力で煽って来やがる。

 こいつ、ついに本性を現しやがった。無害な天然妹はブラフだったか。


 ちらっと氷雨のほうを見る。


「妹さん、お借りしてもいいかしら?」

「…………相手してやってくれ」


 賽は投げられた。もはや神に祈るしかない。

 まったく、こいつはなにを企んでるんだか。







 彼女たちの取り決め通り、午後からは俺は不参戦。家に戻ってそわそわしながら、凛の帰りを待った。


 夕方、戻ってきた凛は至って普通な様子だった。


「どうだったよ」

「ん? 楽しかったよ~」


「なにを企んでたんだ?」

「あにぃの学校生活について聞いただけだよ」


 それなら、よかったのだろうか。

 まあ、この間の小旅行について聞かれるよりはずっとマシか。


 氷雨、よくぞ伏せておいてくれた。


「晩ご飯までゲームしようよ」

「いいけど、ずっとゲームじゃん」


「ダメ?」

「ダメじゃない」


 カチカチと、格ゲーをやりながら会話をする。


「そういえば、帰りの飛行機、明日の朝ね」

「朝って、何時だよ」


「九時」

「いや早いわ」


 けっこう早起きしないとダメなやつじゃん。今日はさっさと寝るか。それかいっそ、徹夜のほうがいいのか?


「三日間って言ってたから、もうちょっと長いと思ったんだけどな」

「現役JKは忙しいからね。いつまでもあにぃに構ってあげるわけにはいかないのです」


「はいはい」


 適当に流しておく。

 そこからはだいたい、当たり障りのない話だった。父さんと母さんの近況とか、近くに住んでいたおばあさんのこととか、新しくできたお店、つぶれた店。それから、凛のことについて。


「勉強、ついてけてるか?」

「まーねー。あんまり頭のいいとこじゃないし」


「そうか……」

「哲にぃは?」


 懐かしい呼び方に、スティックに触れた指が狂った。キャラクターが高速で場外に落ちていく。


「あ、勝った」


 にやっと口元を緩ませ、凛が呟く。

 小さく舌打ち。こいつ、策士かよ。


「どうしたんだよ、急に。昔が恋しくなったか?」

「恋しいよ。すっごく」


 キャラ選択画面でカーソルを動かしながら、俺たちは互いに探り合う。

 それはどこか、二年前にも似ていた。似ていて、けれど決定的に違った。


 昔のような幼さは、今の俺たちにはない。


「あの頃とは違うもんね。哲にぃは茨城にいて、花音さんは長野にいて、凛だけが札幌に残ってる」


 俺は変わった。変わってしまった。だけどそれはたぶん、凛もだ。

 明るく、無邪気で、真っ直ぐだった妹は、狡猾さを身につけてしまった。そうしないと生きていけないから。俺と同じように。


 戦争があるわけじゃない。事件があるわけじゃない。モンスターだっていない。

 だけど、生きていくのは大変だ。うっかりすると死にそうになる。冗談ではなく。大げさでもなく。


「ねえ、哲にぃ。なにか聞きたいことはないの?」

「……あるよ」


 凛がバカなフリを続けてくれたら、どれほどよかっただろうか。

 だが、無茶をしろとは言えない。妹に無理を強いるなんて、兄失格だ。


 話をしたかったのだろう。父さんも、母さんもいない。札幌から遠く離れた、この場所で。二人きりで。

 ここなら、誰にも聞こえない。誰もなにも知らない。


「花音は、元気か?」

「自分で確かめなよ――って言いたいけど、それは意地悪だから教えたげる。元気だよ」


「そっか」

「いい女になってるって、お父さんも言ってた」


「セクハラ親父め」


 ため息がこぼれる。じゃあ、あいつと縁が切れたのは俺だけか。

 そして、その縁は今、再び結ばれようとしている。閉じたはずの過去は、思い出になってくれない。


「会いたいの?」


 見透かしたように、凛が聞いてくる。

 我ながら弱々しい笑みがこぼれた。


「会いたい、か。……どうなんだろうな」


 そういう時期もあった。会いたくて、会いたくてたまらなくて、どうにかなってしまいそうな時期が。

 だけど、今はどうなんだろう。


 あいつのことを思い出さない日もある。


「哲にぃは意気地なしだからねえ」


 否定できない。


「それとも、もういいの?」

「いいって、なにが」


「花音さんの代わり、見つかったの?」

「――っ」


 当然のように放たれた言葉に、息が詰まる。

 それはあまりに核心を突く一言だった。俺という人間に欠けたもので、だけどその欠落を、ずっと守っている。


 なくしたことを、忘れたくないから。


「私はね、それを確認しに来たんだよ。哲にぃが遠くに行って、ちゃんと立ち直れたのかなって」

「余計なお世話だ」


「うん。でも、それが兄妹でしょ?」

「そうだな」


 凛はなにも間違っていない。俺に否定できることは、なにもない。


「それで、氷雨か」

「うーん。でも、実際どうなの? 好き?」


「ずいぶん切り込んでくるな、お前は」

「切り込み隊長の凛ちゃんですから!」


 スタートボタンを押して、試合開始。

 ぽつぽつと、胸の中にあるものを言葉にしていく。もう、なにかを隠すのはアホらしい。この瞬間くらい、いいだろう。家族の前なんだから。


「こっちに来てからさ、そんなに多くないけど、友達ができたんだ」

「百人?」


「2、3人だよ。知り合いはもっといるけど、友達はそのくらい」

「哲にぃの友達ラインは厳しめなんだね。それで?」


 いろいろ考えた。俺なりに、高校生のガキなりに。身の振る舞い方とか、理想とか、現実とか。考えてやってきた。

 それで一つ、わかったことがある。


「みんな俺より頑張ってるなって、思った」


 一輝も、小日向も、氷雨も。

 それぞれが目標とか、自分の抱える問題と向き合っている。


「だから、尊敬してるんだ。力になりたい。俺にとって、氷雨はそういう相手なんだ。そういう中の、1人なんだ」


 あいつらの輝きを見ると、胸が苦しくなる。

 憧れは呪いだ。心を掴んで放さない。

 けれど、確実に言えることがある。


「恋愛感情はないよ。でも、好ましく思ってる」


 それが一番、誠実な答えだ。


「そっか」


 平坦な声が返ってくる。


「哲にぃは、残酷だね」


 その声は小さかった。本当に小さくて、聞き逃してもおかしくはなくて。

 だけど聞こえたのは、……つまり、そういうことなのだろう。



 凛は、次の日の最初の便で帰っていった。

 あいつがいなくなった部屋。テーブルの上には、花音の連絡先が書いたメモが置いてある。

 俺はそれを、どう扱えばいいか。悩んだ末に、メールを送ることにした。


 他愛ないやり取りが何度か続いて。

 お盆休み。適当なタイミングで、会おうということになった。けれど、それはまだ先のこと。


 一輝が企画してくれたお泊まり会のほうが先にあって。

 ……なんつーかな。

 スッキリしない。



――過去を振り切れずとも、今は進んでいく。

お泊まり会編 始まります。


バチバチのラブコメだ!!

この感想欄では『男女で海でやりたいこと』を募集しています。ラジオみたいだね。

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― 新着の感想 ―
[一言] ・・・ぐるぐる回ってフラグ回収とかスイカ割りとか、ハプニングはありません(ボソッ ・・・いや、あった方g(殴
[一言] 酔っ払って、一つの寝袋に一緒に足突っ込んで寝る!(実話) 酒のんじゃ駄目かw んじゃ、足攣ったビキニっ子をお姫様抱っこ!だなw
[一言] お疲れ様です。 不採用の場合でも作中で不採用にしていただけるとうれしいです。
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