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学校一の美少女は、告白されると俺の名前を出して断るらしい  作者: 城野白
三章 その未来に、あなたがいないなら
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38話 不利相性

 氷雨とぶらぶらする時間は、本当にそれだけで終わった。夕方までそこらへんをうろうろして、いろんな店に入って、別れた。

 お互いにヒマすぎると、ああいうのでも楽しく感じるんだろうな。


 家に帰った後、一輝に電話を掛ける。サッカー部は基本的に午前練習なので、簡単に繋がる。


『おうおう、おうおうおうおう。どうしたおうおう』

「圧が凄い」


『テツから電話きたら、おうおうってなるだろ』

「どういうことだよ」


『何かが起こる気がするっつうことよ』

「…………」


 あながち間違ってはいないから、返答に困る。


『で、なに用だい』

「今度の泊まりなんだけどさ。……メンバー、どうなってる?」


『男女の人数は同じにしたいよな~。不健全な意味で』

「お前な」


『テツがいるから、俺はバッチリ欲望に生きるぜ! 任せたぞ、理性担当』

「まず一輝を除外するか」


『ひどいこと言うなぁ』


 電話の向こう、ケラケラ笑うあいつは妖怪みたいだ。つかみ所がなく、ふわふわしていて、憎めない。振り払おうとしても、するりするりと躱される。

 気がつけば、当然のように相棒扱いだ。


『テツ、一つ頼まれてくれないか?』

「内容による」


『氷雨小雪を誘ってくれ』

「…………」


『ここだけの話、可愛い女子は多い方がいい』

「ほんとにお前は……」


 思ってもいないことを、軽々と言いやがる。

 どうせ一輝のことだ。俺が自分から、氷雨を誘う提案をするのは嫌だろうとわかっている。だから、自分が泥を被って、促してくる。


「わかったよ。誘ってみる。だけど、他の女子はどうなんだ? 小日向くらいだろ。仲良くやれるの」

『それに関しては心配しなくていい』


『候補がいるんだな?』

『サッカー部のマネさんに、氷雨と話してみたいって言ってるやつがいる』


「へえ。じゃあ、あとは男子を追加か」

『それに関しても問題ない』


 この男、仕事が早すぎる。

 俺が口を挟む余地など、どこにもない。


 まあ、俺には深い間柄の友人なんてそういないし。結局は任せるしかないのだが。


「じゃ、そんなもんか」

『つーわけよ。詳しい日程も決まったから。あとで送っとく』


「サンキュー」


 まとまったところで、電話を切ろうとする。

 だが、一輝はもう一つだけ加えてきた。


『後悔のないようにしようぜ』


 楽しもうぜ。ではなく、後悔しないように。

 その言葉が、やけに重くて。ずっしりと身にしみる。


 ため息がこぼれた。


「当然だろ」

『おう。じゃあな』


 電話を切って、ベッドに倒れ込む。

 あいつは――佐藤一輝は、察しが良すぎる。話したことはなくとも、俺の抱えているものは見透かされている。


 俺には、一輝のことがわからない。

 あいつはなにを考えている? なにを経て、今のあいつは出来上がった?


 ……やめよう。むさ苦しい男のことなんて、こんな暑い日には考えたくもない。


 ぼんやりと天井を見ていると、次第に眠気が襲ってくる。

 氷雨に連絡しなきゃな。

 そんなことを思いながら、誘惑に負けて意識を手放した。







「なあ、凛。これからお前の兄貴は、最悪の人間になるよ。お前にも、母さんと父さんにも迷惑をかける」


 自分の声が、途切れ途切れの記憶になって蘇る。

 それは俺が、なにもかもを手放したときのことだ。

 初恋を、失った日に。


「俺はこれから、全部を壊す」


 阿月哲は、変わってしまった。







 着信の音で目が覚めた。

 チャラチャラしたポップミュージックが、脳の奥にがんがん響く。鬱陶しくて体を起こすと、外は真っ暗だ。午後八時。仮眠のつもりが、ずいぶんと長くなってしまった。


「このうるっせえ音楽……凛か」


 愛すべき?我が妹である。

 あいつから電話なんて、珍しいこともあるな。


 寝起きだけど。いいか。どうせ家族だ。適当でも大丈夫だろ。


「あい、もしもし」

『愛!? いきなり重すぎるよ!』


「うるせえうるせえ。蝉よりうるせえ」

『蝉!? どこにいるの?』


「札幌にはいねーよ」

『茨城にはいるんだよね! 見るのワクワクするなぁ』


 開幕からフルスロットルだ。このハイテンション、若さ故なのか? 一歳しか違わないのに?


 ……………………。

 …………。

 ん?


 っていうか、こいつさっきなんて言った?


『あにぃあにぃ』

「……お、おう」


 なんだろう。すごく、……すごく嫌な予感がする。


 まず第一に、こいつは自分が溺愛されていると思っている。両親に関しては確かにその通りなのだが、凛の計算には俺も入っている。

 どんな無茶な要求でも、聞き入れられると信じている。


『明日、そっち行くから!』

「行くからじゃねーよ!」


『でももう、飛行機のチケット取っちゃったよ?』

「取ってから相談すんな!」


『相談じゃないよ。宣言だよ。もしかしてあにぃ、バカになった?』

「てめぇっ……」


 冷静になれ。冷静になれ。

 そうだ。どうせ母さんと父さんも一緒に決まっている。事前に連絡がないのはおかしいけど、うっかり抜けていただけに決まっている。


『いやぁ。久しぶりの兄妹水入らずだね』

「ガッデム!」


 一人で来るらしい。バカか? バカだった。

 俺の妹……バカだったんだよ。


 阿月家の天然物。阿月凛。

 阿月家の養殖物。俺。


 そういうふうに言われたことが、何度かある。養殖ってなんだよ。人間の技術舐めてんのか?


『十一時に茨城の空港待ち合わせね。滞在期間は三日。じゃっ!』

「おいっ!」


『続きは会ってからね! バイビー!』


 本能的に、ダメだと言われるのを悟ったらしい。切断された。かけ直しても繋がらない。電源まで落としやがったな。


「ぐぎぎぎっ……」


 予定は空いているから、断るのに正当な理由はない。

 よほど強い理由じゃない限り、母さんと父さんは凛の味方だからな……打つ手がない。


 頼むから誰か、俺の夏休みを平和にしてくれ。

10万文字超えましたわよ。

たくさん読んでくれてありがとうだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 自分だったら・・・迎えに行かず通話にも応答せず相手が謝ってくるまで放置する。
[気になる点] そういやアブラゼミって見たこと無いや…多分w [一言] テツは小雪勧誘係…一輝に読まれちゃってるしw 妹ちゃん、来るのかぁ…道民が本州の夏に耐えられるのか心配だわw
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