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33話 太陽に咲く花 その6

 翌日の学校で、教室に入るや声を掛けられる。

 そいつはサッカー部の男で、朝練帰りだろう。制汗剤の爽やかな匂いを身に纏っている。


「おはようさん」

「おう」


「その後、どうだった?」

「普通に、普通だよ」


 なにかがあったわけじゃない。俺の知ってることを、知ってる範囲で話しただけだ。


「小日向とは仲良くなれそうか」

「知るかよ」


「俺、阿月とは仲良くやれそうだと思ってるけど。――うっわ露骨に嫌そうな顔」

「はぁ……冗談もほどほどにしろ。サッカー部未来の部長さん」


 席について、授業の準備をする。予鈴が鳴って、佐藤は背を向けた。最後に「覚えてろよ」と捨て台詞を残したけど、まあそれも冗談だろ。







「アヅくんアヅくん」

「阿月阿月」


 なんか増えてる?

 昼休み。まったりサンドイッチでも食べようかとしていたところに、二人やってきた。


 小日向と佐藤。

 っていうか、アヅくんってなに?


「お昼、一緒にいい?」

「一緒に昼飯食おうぜ」


「…………え、は? はぁ?」


 困惑している間に二人は前の席に座って、三人組みたいな形になる。


「一輝ってアヅくんの友達なの?」

「おうよ。バチバチに友達やってる」


「そうなんだ。知らなかった」


 へぇ、と頷く小日向。俺は首を横に振る。

 まともに話したの、一昨日とかだぞ。


「阿月、俺は友達じゃないのかよ!?」

「驚くようなことか。自分の居場所に戻れサッカー野郎」


「えー、それは傷つくぞー。俺はただ、阿月の第一友人になりたいだけなのに」

「ダーツの旅かよ」


 そんなモチベでくるんじゃねえ。


 佐藤を軽く流すと、今度は小日向がじっと見てくる。上目遣い。


「アヅくん、……あたしは、友達を名乗ってもいいんでしょうか」

「え、あ、まあいいんじゃないのか。別にそんな大層なもんじゃないし」


「あー。女子にだけ優しい!」

「うるせえ」


 ここぞとばかりに食いついてくる佐藤。


「男の子にも優しくしてほしいなぁ」

「絶対に嫌だ。特にお前は」


 こいつは、少し勘が良すぎる。近くに置いておくには危険なのだ。


 俺は、俺がどういう人間なのかを知られるわけにはいかない。


 きっと佐藤は、その警戒に気がついているのだろう。だから余計に興味を持つ。


「こいつは長期戦になりそうだな……」

「さっさと諦めてくれ」


 いっそすべて明かしてしまおうか。明かして、終わらせてしまえば――いや。

 それをさせないために、俺は札幌から追い出されたのだ。


 言えば楽になる。

 楽になるのは、好きじゃない。


 俺のため息で、場の空気が重くなる。

 それを察した小日向が、明るい声で切り出した。


「……ええっと、そうだ! アヅくんの趣味ってなに?」

「読書とゲーム」


「そうなんだ。どんなの?」

「ミステリーとRPG」


「へえ。……ちょっとわからないかも」


 そうだろうな。どっちも一人で楽しむものだし、流行じゃない。特に女子には伝わらないだろう。

 申し訳ないけど、俺も上手く繋げない。


「運動、今はしてないの?」

「たまにランニングくらいは」


「走るんだ。いいよね、ランニング」


 頷く小日向はやけに嬉しそうで、俺も一安心する。

 女子相手に空気が重いのは、かなり心苦しい。


「そういや阿月って、妙に怪我に詳しいよな」

「経験と、あとは周りにも多かったからな。自然と調べるようになったんだよ」


「ふうん。じゃあ、疲労回復にも詳しげ?」

「まあ、ある程度は……」


「マジ!? ちょっと最近、やたらトレーニングがきつくてさ。腰にきてるんだよな」

「前屈やっとけ。裏股が硬いと後ろ側に負担でかいから。トレーニングの形も崩れて良くない」


「なるほどなー」

「ためになるねえ」


 素直に感心されるとやりづらい。

 しかも二人いるから、逃げ場がない。


 逃げられないから、善意は苦手だ。


「また話そうぜ」

「アヅくん、今晩もいいかな?」


「……問題ない」


 あまりに温かいから、振り払うのも躊躇われる。


 すべてはなし崩し的に進んでいった。

 宣言通り、佐藤は何度でも俺に話しかけてくるし、小日向とは怪我の関係でこまめに話す。


 結果として三人でいることが増えた。


 大した意味がなくとも、当たり前のように一緒にいる。

 それを友人と呼ぶのだろう。


 避けようとしても避けられないから、人と人は、繋がらざるを得ないのだ。


 なら、次はもっと上手くやれ。

 次はもっと上手くやれ。

 次はもっと……。


「次はもっと、上手く……か」


 上手くやることの意味も、目的もわからないままだ。

 だけどもうすぐ、なにかが掴める気がした。


言い忘れていました。

温泉の頃に募集していたものから、どれか選んでSSを作る予定です。

待ってて。

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― 新着の感想 ―
[一言] あまり、なろうの事をわかってなかったので メッセージ機能の事も知らず、 まさか作者様からメッセージがもらえるとは 考えてもいませんでした。 嬉しかったです。 ガガガの方もがんばってくださいね…
[一言] この二人がいなかったら、鬱とか引きこもりとか世捨て人とか…になってたんじゃ…? なんだかんだ救われてますね^^ あー、温泉の…追いつけてなくて応募しなかったやつだw 今更ながら…哲が眠れな…
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