第6話 お金は大切に
前回のお話
冒険者の生暖かい目
高いところを歩いてミケを見つけた。
100リルをゲット
「で、100リルをどう分ける?」
僕はリーダーとして昨日預かった100リル硬貨をマッシュとミリーの前に出した。
「100リル硬貨一枚なのな。両替するか?」
「まあ依頼を受ける人数は決まってないから、わざわざ細かくはしてくれないわよね。マッシュ両替はダメよ。両替料を取られるし、細かくしても三では割り切れないわ。」
朝イチのギルドの隅で100 リルについてこそこそ話しているともっくんがやって来た。
「グッド・モーニング・エブリバデイ。みんなには悪いが今日から俺は研修に付き合えない。昨日みんなのお陰でC2 クラスになったから、いよいよ俺は冒険者として魔物を狩るために町の外に行くことにするよ。」
僕らのお陰なのに僕らの研修に付き合わないとは?
「それに研修指導の依頼は昨日は500リルの指名依頼だったが今日からは300リルの普通依頼になった。だから受けないことにした。」
副ギルド長のアケミさんのシビアな金額設定がもっくんの行動を決めたな。
いや、C2 クラスに上げられるように指名依頼を用意してくれたのだからシビアどころか優しいよね。
「で、今日のお前らは自分たちで受けられる依頼を選んでいい。ただしボードにあるのはほとんどC2 クラス以上だからボードの前のテーブルにある常時依頼のファイルから選んで一番カウンターに申込みしろ。オススメは解体の手伝だな。解体は覚えておいて損はない。」
もっくんは言うだけ言って満足そうにギルドを出ていった。町の外に行くのだろう。
「ふーん。解体の手伝ね。解体を覚えるためにやる?」
「ミリーはいいのか?僕らは冒険者になるから解体は覚えるけど、ミリーはそこまでじゃないだろ。」
「何言ってんのよ。私も冒険者になって魔物を倒すのよ。それに、あんたたちだけじゃ直ぐに死んじゃうじゃない?」
ミリーの中では僕とマッシュは死んじゃうらしい。
「まあ、そうかもな。」
え?そうなのマッシュ?
「それに今日200稼いで300にすれば100づつ分ければOK でしょ。」
「おお、一人100貰えるのはいいな!」
『採らぬ狸の皮算用』は冒険者の心得 第8だったかな。
ファイルを見ると解体は1日500 リルだが、解体の手伝は1日250リル。
ただし未経験者・研修中は100リルと安く設定されていた。一人当たり100リルだから昨日の依頼よりいい。というか昨日の3人で100リルはお小遣いの金額だな。
「100リルか。どうする?僕は一度やってみたいかな。」
「そうね。今日1日やってみましょう。」
そうして僕らは解体の手伝をすることにした。
ギルド併設の解体場に行くとマクガンさんが迎えてくれた。ポンチョと手袋、長靴を身に付けて集合した。
「まずは鶏の解体だ。俺がやって見せるから見て覚えるんだぞ。いいな。」
鶏は羽をむしってから、腹を割き内臓を取り出す。内臓は部所毎に別けてそれぞれの入れ物に入れる。頭と足とは切り取ってそれも入れ物に、あとはきれいに洗って終わりだ。
意外に簡単そうだな。別にグロくもない。どちらかと言うと旨そうだ。
「簡単だろ?やってみろ。」
3人がやって、正しくできるのを確認したマクガンさんは
「あとはスピードを意識してやればいい。樽の中にあるやつをみんな捌いてくれ。」
「はい。」
僕らは樽の中の30羽を捌いてマクガンさんに終わったことを伝えた。
「おお。うまいじゃないか。次は魚だ。鱗を取って、内臓をだして、この魚の内臓は棄てるぞ、卵や白子は取っておくが今の時期のこの魚にはないからな。で後は三枚に卸す。」
三枚に卸すのがなかなか上手く出来ない。でもスピード重視でいいらしい。魚も樽一つを捌くと次は豚肉だ。
豚じゃなくて豚肉だった。一抱えの大きさの豚肉を指示されたとおりのブロックに切り別けて行く。
「よしよし。なかなか筋がいいぞ。じゃあ午前中残りはこの扉の中の樽を片付けてくれ。」
そこには鶏、魚、豚肉の樽が50ほどあった。
僕らは午前中いっぱいを鶏、魚、豚肉の解体に勤しんだ。
「う腕が上がらない。結構大変だな。」
僕はやっぱり最初にへばりだした。
「思った以上に大変だわ。握力が弱くなってきて危ないわ。」
「そうか?僕はまだまた平気だね。」
マッシュは僕らの中では一番数をこなしているし凄く楽しそうだ。僕も楽しいけど力がないなぁ。
マクガンさんがやって来てもう一度見本にやって見せてくれた。確かに早くてきれいだ。あれ?内臓を取るのにナイフをもったままだ。へー。
「力じゃないぞ。むしろ力を入れないで捌くと早くてきれいにできるようになるぞ。」
「力を入れない。力を入れない。」
マッシュが呪文を唱えだした。
「でもマクガンさんは凄い筋肉質で力ありそうですよね。」
ミリー。持ち上げるのが上手いね。ちょっとかわいい顔つくっているよね。
「ああ、そりゃそうだ。ギルドに魔物が来たら、この解体場まで運ぶのは俺達解体係りの仕事だからな。牛ぐらいまでの大きさなら一人で運ぶぞ。」
えー、マジか。僕には解体係りは勤まらないなぁ。
「今日は魔物の解体しないんですか?」
マッシュやる気だなぁ。
「今日はないな。普段はだいたい鶏、魚、豚肉たぞ。魔物はほとんどない。ただ大きな食用動物は午後になれば入ってくるから午後には大型動物の解体をみせられると思うぞ。」
大型動物か、楽しみだな。しかし魔物はほとんどないのか?もっくんは魔物狩りに行くといっていたけどな。
「あの、魔物ってほとんどいないのですか?冒険者は魔物を狩るのが仕事だと思っていたのですが。」
「魔物はいるぞ。ただ毎日持ち込まれるようなことはない。というか魔物が増えないように冒険者が頑張っている。じゃなきゃ危なくて馬車も町の外に行けないだろ。マッシュの父さんも困るよな。」
ふーん。そうなのか。それにしてもギルドに冒険者はいっぱいいて魔物はあまり狩れないのか。
「僕の父さんは毎日魔物を狩りに出ていますが魔物はそんなにもいないんですか?」
「オルスレンの父さんのように魔物メインの冒険者は少ないんだぞ。普通は魔物を避けて収穫や動物の狩りが中心だな。そもそも街道や橋を作るのも冒険者がいないと作れないしな。」
成る程。そう言えば父さんも算術屋兼冒険者だし、隣のおじさんも農家兼冒険者だ。工事作業者兼冒険者もいるんだな。
「お昼にしろ。冒険者の心得『手洗いが命を守る』だ。昼飯の前に手と顔をよく洗え。それと手袋とポンチョは午後には新しいのを使ってくれ。ああタオルも一度使ったのは取り替えてくれ。」
僕らはギルドの中庭ですっかり寛いで昼御飯にした。
天気が良くてぽかぽか陽気。鳴いているのは何て言う鳥だろうか。
結局魔物どころか大型動物も少ない1日だったので豚の解体を最初からやるのを見せてもらう他はひたすら鶏、魚、豚肉を捌いた。
お陰で見習いは卒業だと言ってくれた。
解体の手伝いが終わって完了報告カウンターで一人100リル合計300リルを受け取った。
「一人100リルだ。これで400リル。」
僕は掌に硬貨を載せてみんなに見せた。100リル硬貨が4枚だ。
「今日の300リルは分けましょうよ。100リルはチームの記念に取っときましょうよ。」
さすがにミリーはお嬢さんだ。記念に取っておくとか、ないな。僕はマッシュを見ると。
マッシュはないなと言う顔をするだけで何も言わなかった。
「そうだな。記念に取っておくか。明日から見習いじゃなくなったからな。」
なんとなく心に余裕が生まれる気もするからいいか。