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第5話 オン・ザ・ジョブ・トレーニング

前回のお話


走る。走る。冒険者研修の基本は逃げ足だ。

倉庫係のチェストさんはおじいさん。

見本の『冒険者の心得』の裏表紙によだれが付いていた。




今日は昨日帰りがけに言われた通り一番カウンターの前で集合だ。


「グッド・モーニング・エブリバデイ」

親指を立てて僕らの前に現れたのはモンクレール。通称もっくんだ。

僕らより三歳年上で三年前までは一緒に遊んでいた元気が取り柄の優しい兄貴分だ。

つまり先輩冒険者見習いだな。


「おはようございます。」

僕らが真面目な顔をして挨拶するとあわてて


「いやぁ。お前らの教育係りを頼まれてな。副ギルド長からの指定依頼だよ。初めての指定依頼。マジ嬉しい。」


「いくらで受けたんですか?」


「1日500リルだ。が、金ではない。お前らの教育のために受けることにした。」

どうもこの指定依頼を完了すると晴れてC2クラスの冒険者になるらしい。

依頼完了ポイントは充分なのに指定依頼がこなせなかったらしい。アケミさんの恩情だな。


「お前たち、二日目なのにもうこのパーティー研修なのな。チェストさんに体力は十分あるって言われたらしいな。今日のパーティー研修は実際の依頼を受けて完了する必要がある。体力まかせでは完了しない。が、俺の指導があれば大丈夫。俺のオン・ザ・ジョブ・トレーニングが凄いからな。」

ちょっと何を言っているのか分からない。


「オン・ザ・ジョブ・トレーニング。言ってみたかったのね。」

ミリー。突っ込みが容赦ないな。


「ん。アケミさんがオン・ザ・ジョブ・トレーニングって言っていた。」

素直だな。


「受ける依頼は決まっている。新人研修にぴったりな依頼を受けることになっている。『マリリンさんの行方不明のミケランジェロを保護せよ。』だ。」


「たばこ屋さんのミケ猫を探すのですね。」


「毎年春になると放浪の旅に出るって言っていたよね。」


「それ以前に僕らが手伝いませんでしたか?」


「俺が頼んだのは一昨年だな。ちなみに一昨年も昨年も失敗だった。だから大丈夫だ。失敗してもいい。どうせ10日もすれば帰ってくる。」


「え?依頼完了するための研修でしょ?」


「帰ってくれば完了だ。だから数日かかる。帰ってくるからと言って真剣に探さないとサインは貰えないぞ。」

うん。成功体験を積ませるのかな?依頼人のマリリンおばあさんに気に入ってもらうのが目標なのか?


「じゃあ最初は依頼人のマリリンばあさんの話を聴きにいくぞ!」


「おー!」

四人でそろって拳をあげるとギルドの中では先輩冒険者達が暖かい目で僕らを見ていた。


「ちょっと!依頼を受ける手続きしてから出かけてよね。」

一番カウンターのお姉さんに言われた。


冒険者の暖かい目は生暖かい目になった。





「いないわねー。」

ミリーは町の入口付近にある定期馬車の待合室を探した。さらに屋根の上をミケランジェロが居ないか上って探して見た。


「このあたりで見かけたって情報があった。」

マッシュはキョロキョロ見回しながら馭者長屋の屋根裏から出てきた。つまり自分ちだ。


「いた!」

僕がミケランジェロを見つけたのは町の外周を巡る塀の上を歩いていたときだ。塀は町を魔物から守るために高いけれども上に上がれるようになっている。


「いたわね。でも町の外じゃないの。」

町の外は僕らだけじゃ出られない。もっくんもこの依頼が完了するまではC2クラス入りしてないから僕らを引率して外に出るわけに行かない。


「オル。リーダーでしょ。どうするの?」


「リーダーっていつ決めたんだよ。」


「今。私が決めたわ。マッシュも良いでしょ。」


「ん?いいよ。」

マッシュは僕の顔を見て(今!ミリーが決めた!)って口パクしゃがった。


「もっくん。出ちゃダメかな?」


「モンクレールと呼べよ。ダメだな。ギルドのルールを守らなかったのがバレたら依頼失敗だからな。」


「そっか。冒険者の心得 その三だっけ? 『ルールを守って安心安全』 だな。」

さて、どうしたものか。町の中に戻るのを待つしかないか。


「いかし、ミケランジェロのやつ何処から出たんだ?町の入口は門番さんがいるから違うよね。」


「町の入口以外にミケランジェロが出たところがあるんじゃない?だとしたらそこで待ってようよ。」


「たぶん、水車小屋に続く川のところだな?ここから近いし川のところは塀がないし。」


「川のところか。俺たちも潜って出て怒られたな。行こう。」


「ダメよ。みんなで行ってどうするの。マッシュは川のところで待ち伏せして。オルは罠を運んでくるのよ。私はここでミケランジェロが動き出すのを確認してから向かうわ。」


「了解。」

「だな。」

リーダーって誰だったんだ?




僕が竹籠の罠をマリアばあさんから借りて水車小屋に続く川が塀をくぐっている所に向かうとちょうどミリーがこそこそと歩いてきた。


(早く早く)

急かされてマッシュの所に行くと罠をセットして息を殺して待つ。


(あららら、反対側の岸に行っちゃった!)

ミケランジェロのやつはどうしたものか反対側の岸に出て僕らの目の前をゆっくりと町に入ってしまった。


「ニャニャ」


「笑われた?」

「笑われたわね。」

「笑われたな。」


「まだ依頼は終わってないぞ」

もっくんもいいこと言うね。

「『諦めたらそこで依頼失敗だ』 心得の7だっけ。」


ところが、まだあきらめてない僕らの目の前で、突然依頼は完了なった。

僕の後をついてきたマリリンおばあさんにミケランジェロが飛びついたんだ。


「ミケランジェロが戻ってきたわ。元気よ!みなさんのおかげよ。ありがとうね。」

ミケを抱いたマリアばあさんはその場で依頼書にサインをくれた。


めでたし。めでたし。

僕らのパーティー研修『ミケランジェロを保護せよ』は依頼完了で終わった。


もっくんは500リルとC2クラス入りを受け取り、僕らは3人で100リルを手に入れた。



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