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偽友  作者: 志乃勢 詩輝
1/1

第二章 事件の広がり

1

 よく寝た。部屋に戻った後、夕食まで爆睡。食後は簡単にシャワーを浴び、また寝た。合計で十時間は寝たと思われる。

「おはよう、今日は早いのね」

 母が朝食を作りながら言う。

「お!昨日言ったことが響いたのかな」

 父はまだ新聞を読んでおらず、僕の顔を見て嬉しそうに言う。

 昨夜、両親が帰ってきたときにはマスコミの連中は皆帰っていたため、二人は何も知らない。

 朝食をとり、働かない頭で身支度を終えた僕は普段より少し早めに家を出た。家を出て周囲を確認したが、マスコミはいなかった。良かった。安堵し、自転車にまたがる。約束を思い出し、急いで学校へ向かった。


 学校へ着き、自転車を止め、きつい階段を駆け上る。誰にも聞かれたくない話をしたい。そのため、六階にある屋上で話をすることにした。一階から六階、想像以上にきつい。運動部は毎日こんなことをしているのか。ついついそんなことを考えてしまう。

 なんとか六階に辿り着き、屋上に続くドアを開ける。

「お!来た来た。朝早くどうしたんだよ」

 佑哉はあくびをしながら手を挙げる。

「悪いな、急に呼び出してしまって」

 マスコミから取材を受けた直後、このことを佑哉に伝えることに決めた。自慢したかった訳ではない。ただ、相談したかったのだ。相談といっても特に何を相談するのかは決まっていない。相談というより話したかったのかもしれない。

「実は昨日、マスコミが家に来たんだ」

 僕は単刀直入に昨日の出来事を話した。事の経緯を説明する僕の話に佑哉は黙って頷く。人の話を聞くとき、それが終わるまで彼は黙って聞く。だから、話が脱線することがない。こういうところも佑哉の長所の一つである。

 僕が言い終わると、黙って聞いていた佑哉は顔を上げて言った。

「一つ聞きたいんだけど、なんでマスコミは俊にたどり辿り着いたのか思い当たる節はないのか?」

 あまり聞かれたくなかった質問だ。しかし、佑哉は親友。素直に言うべきだと思った。

「俺は影浦と小学校から一緒なんだよ」

「なるほど、そうだったのか」

 意外にも佑哉は薄い反応を示した。そして、ぼそっと呟いた。

「妙だな」

「なにが?」

「マスコミだよ。俊に辿り着くのが早すぎる」

 驚いた。僕はそんな風には考えていなかったからだ。

「そんなに早いのか?マスコミなんて縁がないから知らないよ」

「俺も縁なんかないよ。だけど明らかに妙だ。影浦が死んだのは二日前だ。そして昨日、マスコミが俊の家に来た」

 たしかに、時系列をまとめるとその通りだ。

「マスコミは基本的に面白そうなネタにしか首を突っ込まない。こう言っては申し訳ないけど、高校生の自殺程度では動かないんだよ。警察もまだこの時期は捜査中だろうから、表に情報が出回ることは有り得ないんだよ」

 なるほど。たしかに賢い佑哉に言われると妙な気がする。

「じゃあ、なんでマスコミは俺の家に来たんだろ」

 さらに疑問が浮かんだ俺に佑哉は言った。

「決まってるだろ。何者かがマスコミに情報を売ったんだ」


2

「佐伯さん、どういうことですか?」

 若狭が尋ねてきた。安土俊の近所の住人がマスコミが騒がしいと警察に通報を入れたようで、その情報が今朝になってようやく捜査本部に届いたのだ。

 捜査本部は早速、会議を開くことになったが、みんな何が起こったのか整理できていないのが現状だ。それもそのはず。警察の捜査と同じスピードで事件を追うマスコミなど異例だからだ。

「とりあえず会議に向かうぞ」

 確かなことを言えない今、これしか言えることはなかった。

 会議室には会議が始まる五分前ということもあり、かなりの人数が席についていた。真ん中の端の二席を見つけると、腰を下ろした。もう何十回と受けてきた捜査会議ではあるが、若狭はほとんど経験がないため、そわそわした様子であった。

 しばらくすると、捜査一課長の佐古田純一、管理官の高嶺博、そして室井警部の三人が入室した。そして、起立をして礼をする。

「まず、概要を説明してくれ」

 佐古田一課長の指令で俺は席を立った。

「はい、昨日の午後四時頃、事件の重要参考人である安土俊の家にマスコミが押しかけました。そのマスコミが騒がしいという件で近所の住民が通報。今朝、捜査本部にその情報が届いた次第です」

「なるほど、マスコミが重要参考人に辿り着くのが早いな」

 落ち着いた態度で佐古田一課長は言う。

「佐伯、お前はこれについてどう思ってる?」

 今度は高嶺管理官からの質問。俺はこの情報が入ってきたとき、考えられる原因は、この二つしかないと考えた。

「事件を知る何者かがマスコミに情報をリークした。あるいは、警察内部に内通者がいると考えています」

 前に座る佐古田一課長、高嶺管理官、室井警部、三人の目を見てはっきり言うと、同時に会議室はがやがやと騒がしくなった。

「分かった。引き続き事件の捜査を進めてほしい。それから佐伯、お前は安土俊の家をマスコミとして来た週刊誌をあたってくれ」

 佐古田一課長の指令で全員が返事をすると、捜査会議は終了した。


「どこの週刊誌なんですかね」

 若狭は捜査会議が終了した後、口を開いた。

「さあな」

「さあなって、どうするんですか?」

 若狭はたまに刑事の基本を忘れる。これから教育していかないとな、と思いつつ返答をした。

「聞き込みだ。安土俊の家の周辺から回るぞ」


3

 一体誰がマスコミに。考えても当然答えは出ない。今朝、信じられない話を佑哉から聞いたためか、いつも以上に授業に集中できなかった。佑哉も上の空でまったく授業に集中できていなかったが、これはいつも通りである。

「なにあれ、影浦のこと調べに来たのかな」

「あーあ、注目の的になっちゃったね」

 前の座席に座っている女子二人がこそこそ窓の外を見ながら話している。二人と同じように窓の外に目を向けると、そこには昨日家の前にいたマスコミがたかっていた。

 始めは写真を撮るだけだったが、中継を始めるものが現れ徐々に騒がしくなってきた。それは教室内にも聞こえてきたため、クラスメイトの大半が窓の外に目を向けていた。

「いいから席に戻りなさい」

 高山先生の声で生徒はとりあえず席に戻ったが、みんな視線は黒板に向けつつも意識は窓の外に向いていた。

 その後も楽しくない授業が二十分ほど続き、チャイムとともに授業は終了した。

「ちょっといいか?」

 席をたったとき佑哉に声をかけられた。

「どうした?」

 僕の問いかけに佑哉は黙って教室の隅まで歩いて行った。それに続いて歩いて行くと掃除用具入れの前で佑哉は振り向いた。

「さっきの見たか?」

「もちろん」

「何か感じなかったか?」

 佑哉の問いかけに先ほどの光景を思い出してみる。考え込んでいる僕に続けて佑哉は問いかけてきた。

「昨日家の前にいたマスコミと比べて違う点はないか?」

 言われるがままに今度は昨日家の前にいたマスコミを思い出す。

「あ」

 思わず声が出た。確かに先ほどのマスコミとは明らかに異なる点を見つけた。

「どうだ?」

 佑哉は僕の顔を見ながら尋ねた。

「カメラを回して中継している人がいた。昨日はそんな人いなかったのに」

「そういうことだ」

 佑哉は笑顔で頷いた。

 しかし、僕の頭の中には疑問が残ったままだった。

「どういうこと?」

 僕の問いかけに今度は佑哉が困った表情を見せる。

「嘘だろ、わかんないのか?」

「うん」

「おい、まじか」

 佑哉は深くため息をつくと言った。

「マスコミはカメラ回して中継なんかしないだろ?あいつらは記者だから映像を残す必要はないんだ。じゃあ、映像で社会に伝える機関はなんだ?」

 そういうことか。僕はようやく理解した。

「テレビか」

「そう、ニュース番組が取り上げ始めたな」

 佑哉は深く頷きながらそう言った。

 一体なぜ?このことを知っているのは自分たち学校関係者と警察のみのはず。佐伯さんは秘密裏に捜査していると話していた。僕の頭の中でぐるぐると謎が駆け巡る。そして、佑哉の発言が蘇ってきた。

「何者かがマスコミに情報を売ったんだ」

 まさかと思い佑哉の顔を見たが、その地点には佑哉はすでにたどり着いていたようだ。僕の顔を見た佑哉はニヤリと笑って言った。

「テレビ局にも情報を売ったか」


4

「そもそも、なんで安土俊に絞って捜査しているんですか?確かに安土俊は被害者とは一番密接な関係にはありますけど、それだけで重要参考人になるものですかね」

 ちょうど昼時、屋上のベンチで若狭はコンビニのおにぎりを頬張りながら尋ねてきた。

「捜査資料読んでいないのか?」

「軽く目は通しましたけど」

 若狭は捜査一課初の事件で気合いは入っているものの、どこか抜けている。その性格に救われるときもあれば、落胆させられるときもある。今は後者だ。

「被害者の部屋から安土俊とのツーショット写真がたくさん出てきた。人と写っている写真は、どれも安土俊との写真で交友関係は狭かったんじゃないかと考えられている」

「それで安土俊なのか」

 若狭は納得したように頷く。

「だが、少し妙なんだ。安土俊は被害者についてあまり親しくなさそうな態度を取っていた」

「たしかに、それは感じました」

 若狭は思い出してきたのか、興奮気味に話す。

「安土俊は何か隠しているのかもしれないな」

「俺もそう思います」

 若狭はおにぎりを完食すると、すぐさま立ち上がりそう言った。

 正直、不安も大きいが若狭のおかげでモチベーションが上がっているのは事実だ。

「まずはじっくりと捜査資料を読め」

 スーツのしわを伸ばし、気合いを入れている若狭に俺は言った。

「字読むの苦手なんですけどー」

 文句を言う若狭を背に、俺は屋上を後にした。


 捜査本部に戻ると、部屋は慌ただしくなっていた。

「なんの騒ぎですかね」

 混乱している若狭と俺の前に室井警部がやってきた。彼は真剣な表情で口を開く。

「テレビ局にタレコミがあったらしい」

「タレコミ?」

 後ろで聞いていた若狭が驚いた声を出した。

「ああ、影浦悟の件が表に流出している」

「なんで」

 若狭は室井警部が話す度に反応を示す。

「しかもそれだけじゃない。安土俊の名前までテレビ局に漏れてる」

「え?」

 さすがに俺も声が漏れた。早い。情報が出回るのが早すぎる。影浦悟の死に関しては謎が多いため、外部に漏れないよう慎重に捜査していたはずだ。

 そこに佐古田一課長が入ってくる。

「一体何がどうなってる?なぜ情報漏洩が起きたんだ?」

「それは現在調査中です」

 佐古田一課長の質問に室井警部が冷静に答える。

 佐古田一課長は俺に目を向けると、眉間にしわを寄せて尋ねた。

「週刊誌は当たったのか?」

「いえ、まだです」

 佐古田一課長の顔が近づく。この顔は正直かなり苦手だ。常に不機嫌なため、苦手としている警察官は多い。実際に問い詰められ、泣かされた警察官もいたと噂されている。

「だったら最優先でやれ。今日中に俺まで報告だ。いいな?」

 とんでもない威圧だ。こんな風に言われたら、絶対に無理だとわかっていても了承せざるをえない。はい、と小さく返事をした。

「いいか、どこから情報が漏れたのか徹底的に洗い出せ。これは警察の威信に関わる問題だ。早急に対処しろ」

 佐古田一課長は室井警部に向き直ると、また同じような威圧で告げ、部屋を出ていった。

「すげぇ」

 若狭は呆然としていた。

「よろしく頼むぞ」

 室井警部は俺にそれだけ言うと、別の刑事に指示を出すため去っていった。

「行くぞ」

 なおも呆然としている若狭に言い、俺も部屋を後にした。


 車に乗り込んだ若狭は息を大きく吐いた。ようやく安堵したようだ。

「なんなんすか、あの威圧。こっちだっていろいろ忙しいのに」

 一言目が文句か。あの場では絶対言えないくせに、と思うと少し可笑しかった。

「ああいう人なんだ。どんなベテラン刑事でも逆らえないぞ」

「こっわ、ああいう人が真犯人だったりしますよね」

 エンジンをかけながらも若狭の愚痴は止まらない。

「やめろ、ドラマの見すぎだ」

 文句を言いつつも若狭は、丁寧な運転で車を走らせた。


 やがて車は閑静な住宅街に出た。安土俊の家に来たマスコミを調べに来たのだ。辺りはあまり人通りは多くなかった。ときおり、おばさんが自転車を走らせていたり、幼稚園児が散歩をしていたりとのどかな雰囲気が漂っていた。

「この辺で止めますね」

 若狭は車を止めるとエンジンを切った。それに合わせて俺も車から降りる。

「さっそく聞き込みするぞ」

 先ほどまでの怒りは収まったのか、若狭ははい、と威勢よく返事をすると着いてきた。

 俺たちは二分ほど歩いた後、一軒の家の前で足を止める。

「山本さん。マスコミが騒がしいと通報した方ですね」

 若狭の声に黙って頷くと、俺はインターホンを押した。古びたインターホンの音が鳴った後、がらがらと扉が開き、中から五十代くらいのおばさんが出てきた。

「はい、どちら様?」

 聞き込みは常に笑顔で。こうすることで相手の信頼を得ることができる。これを若狭に伝え忘れたなと今思い出した。

「こんにちは、山本さんでいらっしゃいますね。私たちはこういう者です」

 警察手帳を出すと若狭も続く。山本さんの表情が少し強張った。

「警察の方が何の用?」

「昨日、マスコミが騒がしいと警察に通報されましたよね。その件で参りました」

 用件を聞くと山本さんは納得したようで、表情が明るくなった。

「そうなのよ、すごくうるさくて」

 思い出したように言う山本さんにさらに尋ねる。

「そのマスコミ、どこの週刊誌の記者だったか覚えていませんかね」

 山本さんは必死に思い出そうとしているようで、目玉を上に動かしたり首をかしげたりしている。

「どこの週刊誌か聞いたのよね。シャ・・・。シャ・・・なんとかって週刊誌だったと思うけど思い出せないわね」

 シャ・・・?そんな週刊誌あっただろうか。あまり週刊誌は読まないため詳しくない。すると隣に立っていた若狭が口を開く。

「もしかして週刊シャインじゃないですか?」

 若狭の発言に山本さんは首をかしげる。

「シャイン?そうだわ、そうそう。週刊シャインよ」

 まさかの若狭のファインプレーで週刊誌が判明。

「週刊シャインですね。ご協力ありがとうございました」

 俺は山本さんに感謝し、若狭を引き連れて家を後にした。

「よくやったな若狭。これで真相に一歩近づけた」

「ありがとうございます。いやあ、僕にも聞き込みの素質があったんですね」

 案の定、すぐ調子に乗るが今回はお手柄だった。素直に褒めたいと思う。

「捜査本部に戻るぞ。運転頼むな」

 若狭は相当嬉しかったようで、うきうきと車に乗り込んだ。

 俺が車に乗り込んだのを確認するとシートベルトを着け、エンジンをかける。そしてまた緩やかに車は走り出した。

 運転は若狭に任せ、俺は佐古田一課長に電話をかけた。

「そうか、週刊シャインか。わかった、ご苦労だったな」

 用件を聞いた佐古田一課長は、意外にも優しそうな声でそう言い電話を切った。

 電話を切ると若狭が尋ねてきた。

「これからどうするんです?」

 俺は今後の仕事を思い浮かべる。特にない。しかし、いつ何が起こるかわからない。

「捜査本部に戻って指示を待つ」

 若狭はニヤリと笑った。

「了解です」

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