弟佑樹君、どうしたんだ、そして俺は叫ぶ、おかあさーん!たすけてくれーと!
ゲームばっかりしない!お母さんの常套句である。
しかしそれは……それにより訪れる、子供達を襲う過酷な運命を、阻止する為に母なる愛が未来を予知をした故の……『言葉』なのかもしれない……
☆☆☆☆☆
いっけぇぇぇぇ!俺は勇者の武器である、セーバーで、青白い炎のそれを切り裂く。
ときめきの効果音!気合いが入るぜ!
パーティー仲間の、魔法使いの美少女キャラのユウキちゃんと、同じく女剣士のエレンちゃんがサポートしてくれる。
三人で立ち向かう敵は、凶悪なドラゴンだ!これをヤればレベルが上がる!気合いが入るぜ!
「いっけぇぇぇぇ!エレンちゃん、ユウキちゃん、もう、一息!」
「了解!」
思わず雄叫びが上がる。隣の部屋の弟もゲームをしているのか、タイミングよく声が重なった。
そして当然ながら、一階リビングから、うるさい!そろそろ止めなさい!大声出してゲームばかりしない!との母さんからの大声が、響いてくる。
それに関しては、毎度のスルー、ご協力迷惑なのは母さんの張り上げる声もかわらなーい。お互い様ってもんだしな。
ジリジリとした緊張感溢れる画面……どうするか、ユウキちゃんが動くか!と考えてたその時、このゲームで聞いたことの無い声と、展開が俺に訪れた。
『おめでとうございますー、今日この時、この時間ダケノチャーンス!貴方達は選ばれたのですー』
はい?何が起こった……ラノベの世界、なろうの世界か?まさか現実に有るのか?
ちゃらりらりらりらー、おバカな効果音と共に突然画面から放たれた、まばゆく白い光に包まれて、俺はふわりと意識を失った。
☆☆☆☆
ぱんぱかぱーん!素晴らしきチームなので、試しにゲームの世界に丸々転移をしてみましょう!頑張ってクリアしてください。全てのミッションクリアで、貴方の望みを叶えましょう!
☆☆☆☆☆
頭の中を流れる、能天気な声……俺は気がついて目を覚ました。
なんだまさかの『異世界転移』ゲームの世界にようこそーってか?
ならば俺は勇者だよなぁ、と立ち上がる。そして辺りを見渡たす。
紛れもなく、そこはゲーム世界の森の中、そして俺は実体の姿のままに、コスプレイヤー勇者で立っている。
視覚から入ってくる映像はそのままだな、超特大の画面を眺めてるって感じがする。臨場感満載にゾクゾクしてくる。
「素晴らしきチームって、聞いたけど…… ユウキちゃんとエレンちゃんも一緒なのか?そして完全クリアで、望みが叶う?」
俺は少し期待をして、わくわくと盛り上がってきた。同じパーティーのユウキちゃんとエレンちゃんは、レベル高いんだよな。
まぁ、俺もそこそこに、やりこんでるので、スティタスは高位だ。そうか……望み!これは手に出来るな、と脳内ほくそ笑みながら、何にしようかと考えていると……
「に!お兄ちゃん!勇者イッキって、やっぱり兄ちゃんだったのー!参加してて良かったー!もしやとおもって、網張ってて、ラッキー」
はい?聞き覚えがある声に振り返る。
「おま!何で佑樹がここに!まっ、まさかの魔法使いキャラお前かー!何で美少女キャラやってんだよ!て、良かったとは?」
何でって!ゲームのキャラぐらい、夢叶えていいじゃんかー!と何故か堂々と、とんでもない事をカミングアウトしてきやがった『弟 佑樹』
顔が可愛いだけあって、美少女キャラのミニスカコスプレ……似合うな。お前、危ないぞ!兄ちゃん心配になってきた。
ちなみに俺と佑樹には血のつながりはない。両親は、お互い子供連れての再婚夫婦なのだ。
「な!なんだ?その夢って?お前……まさかの女の子になりたいのか?」
俺は少しドギマギしながら、テンパって問いかけると、奴も妙にもじもじと、顔を真っ赤にしながら、上目遣いで俺を見つめてくる、
か、可愛いじゃないかよ、兄ちゃん困っちまうぞ!とあわてふためいていたら、爆弾発言を投下した『弟 佑樹』
「……う、うん、もう言っちゃう!きっと、神様がチャンスをくれたのよね!ずうっと!お兄ちゃんが好きなの!小さな時から、何時も一人で遊んでて、お父さんが再婚して、樹お兄ちゃんが出来て……それからずうっと一緒にいたいなぁって!ずぅっと!好きなの」
はい!何だと?どういう事だ、一才年下『弟佑樹』よ!お前は俺と違い女子に、モテるアイドル顔負けのイケメン、可愛くカッコいいキャラだろうが!
俺が好きになる女子を、片っぱしから横からかっさらって来た、歴史はどうなるのだー?
「それは!いつき兄ちゃんに集まる『虫』を寄せ付け無いために、頑張ってたのよ!兄ちゃん何気にモテるから、もう一生懸命に追い払っていたんだからね!」
俺の過去歴に対する質問に、最早何時ものオンライン内で話す『女の子の口調』で、お兄ちゃんの脳内を破壊する発言を、続々投下し続ける弟……
「でね、でね、クリアしたら、何でも願いが叶うのよね!ね!ね!」
おいその先言うのは、やめてくれ。お兄ちゃん想像したら、クリアしたくなくなるから……頭が痛くなるような気分で、キラキラ瞳の『魔法使い ユウキ』をどうするかと考えていたら……
☆☆☆☆☆
はーい、もう少ししたらエレンちゃんも、来ますよー、少し早いですが、簡単に説明させてもらおまいまーす!
皆さんは肉体、精神、全ての転移ですよー!クリア出来なくては帰れませーん。
ちなみに時間制限ありますよー!年内!除夜の鐘が鳴り終わると、クリア出来てない時は『消滅』出来てたら『望みは何でも叶えましょう!』
しかーし!変えれるのは未来ですよー!そして、貢献度と、思いの強さで、それぞれの夢が叶いまーす!
時はわかるように、お知らせしますからねー!ではでは!頑張ってクリアしてくださーい!
貴方の望みを何でも!御一人おひとつ限り!叶えましょう!神様には不可能はありませーん!お、わ、り
☆☆☆☆☆
はい?何という、一方通行なのだ?消滅ってなんだよ!死ぬのかー?イヤイヤイヤイヤ!俺は現世で、彼女も欲しいし、未練たらたらなんだよ!
で!望みは何でも叶えましょう?何だか約一名不安なのだが……恐ろしいが、確認しとこうか。
「おい、弟佑樹、お前の望みはなんだよ」
俺の不躾な質問に、顔を再び真っ赤にして、もじもじとしながら見つめてくる俺の弟君……
やはり、そうかよ、いや!言うな!言わなくていいぞ!と俺はあわてて口を開こうとした奴を止めに入る。
はぁ、どうしたらいいのか?クリアするのも問題、しないと消滅……あー!どうしたら!そう!もう一人!女剣士のエレンちゃんがいる!これは、彼女に相談してみるか!
うん、おそらくエレンちゃんは、女子だと思う!あまり会話してこないんだよなぁ。
佑樹は…思えば、奴の声だったような気もするけど……女の子喋りだったんだよお!それに俺は、あんまプライベート聞かなかいし。
まさかの弟が、女子を装い?参戦していると、夢にも思わん!それに終わったら『声』なんて忘れるしな……
俺は、そう思い付き少し希望が開けた!と思ったその時……
「おい!まさかの樹に佑樹か!」
……何やらイヤーな声が、背後から聞こえてきた。その声に、ユウキが応える。
「あー!やっぱり、エレンってお父さんの事だったのね!」
おーい、振り向くなー!振り向くなー!何やらダメダメな展開がー!
「おう、気にするな!お父さん、コスプレ好きでな、ゲームのキャラは、好きなの選ぶんだ!ほおー!可愛いなぁ佑樹!女装も気にしないぞ!ハッハッハッ!お母さんとも、あるハロウィンパーティーで、出会ったのさー!うんうん!認めてくれてるんだよ、前の奥さんとはコレが原因で、ダメだったんだ、はっはっは!」
そこには、こちらも年の頃にしてはスリムな父親の姿、女剣士ってお父さんかよー!父はゲーマーなコスプレイヤーだった。
でお母さんも、コスプレイヤーか……好きだしな、アニメや映画。俺も好きだけどな。
そういえば、趣味は洋裁だった。あれって『衣装』作ってたのかよ……
まあ、良いけどさぁ、良いけどさぁ、良いけどさぁー!俺が頭を抱えて悩んでいると、あざとい弟がお父さんこと、エレンにすり寄る。
「ねぇ、お父さん、願いって何にするの?」
ほほう、流石佑樹だ!可愛いなぁ、まんざらではないお父さん……おい、止めてくれ、消滅してもいいと考えてしまうぞぉー!
しまうぞぉー!はっ!そうか!クリアしても、弟をそのままに男っての願えばいけるか!クリアに対しての貢献度ならば勇者がデカイ!
あのね、あのね、と俺の思考を察した弟が女剣士のお父さんに甘く耳打ちをしている。
おい、何を言ってる?何を?そして二人しての、そのニヤニヤ笑いは何だ?何だ?
「うんうん!お父さん女の子欲しかったから、いいよー!お母さんも大丈夫だよ、オソロのドレス着たいっていってるしねー!」
お父さんの、トドめの一言が、ピュアな俺の心に突き刺さる。やめーい!それは無しだよ!
「お!お父さん。女の子になっても、い、妹だし!妹だしー!」
俺は必死に阻止をかける。しかしそれには動じない父親と弟佑樹君。そして、爆弾再び投下!
「いいのー!籍なんていらなーい!事実婚でいい」
あキャー!やめろぉー!俺は平凡な人生を送りたいのだー!
俺は何とかしようと、無い知恵を振り絞り考える。どうする?佑樹君にどう言えば……
弟佑樹君!お兄ちゃんは、女の子がいい!いや!ダメダメ!その説明では、ダメダメ!
弟佑樹君!お兄ちゃんは、男の子がいい!はっ!もっとダメダメ!ダメダメー!
「お兄ちゃん、早くミッションクリアしようよ、消えちゃうよ」
可愛いく小首を傾げて、俺を見つめてくる弟 佑樹君、弟 佑樹君!君は!おとうとだぁー!
そして、佑樹ちゃんになっても!妹 妹 いもうとなんだよー!ダメダメ!ダメダメー!
そして、俺は消滅か!はてまたクリアをして、彼方に戻り、その後の恐ろしい展開をどうするか?
人生において過酷な選択を求められた。そして、全力で後悔を空へと叫ぶ。
ああー!あの時、お母さんに言われたあの時に!なぜ!ゲームをやめとかなかったー!また明日すればいいことなのにぃ、
うっ!お母さん、おかあさーん!
ああ!おかあさーん!たすけてくれー!
何時までもゲームしないって!
大声で叫んでー!そして、そして!
ゲーマーなあの時の俺をとめてくれー!
『完』