八章 ❼
「フッ!フハハハハハ!流石は聖戦士候補だ!!」
「レ、レン様!大変申し訳御座いません!!」
「アルフレッド、お前が頭を下げる事じゃない。俺がやらかした事だ」
巨漢が俺の方を真っ直ぐに見て、真面目な顔をする。
俺は手を引く。
巨漢は剣を納める。
「申し訳なかった、聖戦士候補がどれほどのものか試してみたくなったのだ。どうか許して頂きたい」
巨漢が頭を下げる。
「はい。謝罪は受け取りました」
◆◇◆◇◆
「私がこのドーマの領主であるゴードン=ダクレリア=ドーマだ。今後よろしく頼む」
大きな手をずいっと出される。
握手をすると、硬い剣だこが感じられた。
「初めてお目にかかります。私は…「知っているぞ有名人。レン=ミングルだな」
「はい。有難うございます」
「座ってくれ、そしてそっちは薬師ギルドのギルドマスターフィリップだな?」
「はい。今日話をする中に、いて頂くと都合の良い話があるので、お願いして同伴して頂きました」
「ふむ…」
「早速ですが始めても?」
「あぁ構わん」
「すみません、その前にお皿を一枚持ってきていただけますか?」
「ん。分かった。用意しよう。アルフレッド」
「畏まりました旦那様」
「では本題ですが、あした早速ドーマの周辺に岩壁を立ち上げようと思います」
「おぉ!そうか、これで我が街のさらなる発展が見込めるな!外壁の外の家々のものは、警備をしているとはいえ毎夜の如く安心もできなかったであろうしな!陛下から承っておったがこんなに早いとは…で?一月程で終わるのか?魔術師はどれ程必要なのだ?」
「工期は半日、魔術師は私の弟子がおりますので、それで事足ります」
「何!半日だと!?しかも魔術師は一人だと?」
かなり面食らっている。
「いや、疑うわけではないのだがな?余りにも…」
「それは明日、お昼頃に街の外においでになっていただければ」
「分かった。…他にもあるのだろう?」
「はい」
カチャ
ドアが開き、ちょうど良くアルフレッドさんがお皿を持ってきてくれた。
「レン様、どうぞこちらを」
「使ってくれ」
中位の皿を二枚渡される。
「ではコレを…」
黄色の果実と、橙色の果実を一枚の皿に置く。
「ふむ?何処かで見たような気がするが…?」
「はい。これはこの領内に自生していたものです」
「ぬ?」
ゴードンは手に取って匂いを嗅いでみる。
「この黄色い果実は香りが良いな。こっちのは無臭だが…」
「では…」
黄色い果実と、橙色の果実を食べれるように切ったり剥いたりする。
すると、黄色い果実からより高い爽やかな香りが立ち込める。
「ん〜良い匂いだ」
「実はこちらの黄色い果実は、酸味が強すぎて生食には向きません。しかし、こちらの橙色の果実は大丈夫です。どうぞ橙色の果実から召し上がってください」
「これは甘いな。少し種が大きいか。そして…ん!これは…確かにキツイな…」
「はい」
「これでは売り物もならんぞ?」
「じゃぁ…ここからはフィリップさんに変わります」
「あ、はい。確かにこの黄色い果実は生色としては難しいかもしれません」
「そうすると…成る程、薬…と言うことか」
オレがフィリップさんに変わった意図を察してくれたみたいだ。
「はい、こちらの果実は風邪など簡単な病の防止に繋がりますが酸味が強いので、果汁は水で割ったり、果汁と外皮をすり潰したものを食事の香り付などに使えばよろしいのではないかと思います」
「他には?」
「風呂やサウナなどに入れるとより効能も上がるかと…」
「ふむ…面白そうだな」
「因みに、こちらを…」
小瓶を取り出しテーブルに置く。
中には鮮やかな黄色いペースト状のものが入っている。
「これが…」
「はい。香り付け用のものです」
「宜しければお昼、又は夕食の時に、香りの強い肉類やスープなどにごく少量加えて頂くと香りが臭みを消してくれます。どうぞ、お試しください」
「ふむ…良い香りだ。早速試してみよう」
「そしてこちらですが、新たな果実としてドーマの名物となると思いますが、葉の方に薬効があります」
「それは?」
「化膿などを防ぐことが出来ます」
「ほぅ…」
「それに家畜にも効き目があり、牛の乳房炎にも一定の効果があります」
「成る程!」
「このドーマは酪農が盛んであると、先日ドレファン宰相から伺っております。ならば、名産のチーズなどの生産を脅かしかねない乳房炎を早期に治すことが出来ます」
オレがちょっとだけ口を挟む。
「成る程…で、これらを栽培しろと言うのか?」
「栽培というか最初は管理で宜しいかと。20本ずつ原木を用意しております」
「成る程…植樹して管理するものを用意しろと言うのだな?」
「はい。収穫した果実を我が薬師ギルドに納めて頂ければ、ギルド職員が早急に商品化の目処をつけます」
「ふむ…こっちの橙色の果実は全然問題ないが、黄色い果実は少し考えるな…」
「あぁ、もしお気に召さなければ、レン様がムンティスかルーノに持っていく事にするという事になっておりますのでどうぞお構いなく」
「ぬぅ…そう言われると…」
「取り敢えず、黄色い方の果実は使って見て判断して下さい」
「分かった、そうしよう。他には何かあるか?」
ゴードンさんは、オレの方に向き直る
「はい。墓地の件です」
オレが真面目な顔をして切り出す」
「ふむ?」
「あれに手を打って置きたいのですが…」
「ルーノの墓地の一件か?」
「はい」
どうやら話は伝わっているみたいだな。
「具体的にどうする?今でも日に数体は起き上がって来ていると報告を受けているぞ?」
「先ずは私の作った白丸を、固める前の粉状にしたものを散布して様子を見ます。あれは基本的に浄化の力を持っていますので、多少なりとも効果を発揮するのではないかと思っています」
「ふむ…」
「ただ、最終的には火葬を行うのが最善だと思っています」
「待て…どれだけの火を使わねばならないと思っているんだ?」
「そうですね。白丸についても予算の兼ね合いから直ぐには難しいかもしれませんが…先に手を打っておけば市民が命を落とさずに済みますし、今でもあれの維持には相応の金が掛かっているはずですよね」
「んん…極め付けは、教会が黙っておらんぞ?」
「その時は簡単ですよ。『ならばお前達が浄化せよ』と言えば良いのです」
「ッフ…フハハハハハ!!!この事は陛下には?」
「まだ話しておりません」
「そうか…そうかそうか!!お前は私から陛下に奏上せよと言っているのだな?」
「その通りです」
「クックックッ」
「旦那様?」
「レンよ!お前は楽しい…楽しい漢だな!!」
「有難う御座います」
「久々に冷や汗が出たぞ…だが…楽しいな。こんなにも胸が踊るのはハンターをやめて以来だ…」
「陛下に意見するなどいつ以来だろうか…。理由は何か考えておるのか?」
「魔王です」
「魔っ…!!」
「魔王を盾にすると良いです。ルーノで現れた魔王は死の国の女王と言っていたので」
「死の国の女王…成る程、それで早急にか…」
「襲って来たのは事実ですし、今後無いとは言い切れません。心中の虫を飼っておく必要はないと思います」
「ポーションの一件もある…教会に反抗できると言うわけか…」
「面白い…流石は弟弟子か…」
「えっ…まさか……」
「私は勇者の直系、セリア様の弟子だ。体格があるからヴェール様の弟子と間違われるがな」
「セリア義姉さんか〜」
「フッ、聞いているぞ?聖戦士様達の寵愛を受けているとな…私は遠慮するが…」
「知っているんですね?」
「あぁ…私は元々ドーマ家の次男でね?騎士学校から冒険者へ転向し、その時、セリア様にドーマ家からの依頼が出され、手解きを受けたのだ」
「成る程…」
「半年程扱かれたが、あの地獄のような日々があったから私は今も生きていられると思っているよ」
「ハンターランクは幾つなんですか?」
「二等星だ。いざとなれば、俺も剣をとって戦う」
「旦那様!」
「フゥ〜…分かってるよ、アルフレッド。無茶はせん。まだ、長男坊が王都の王立学院を卒業しておらんしな…早く押し付けて自由になりたいものだ」
「駄目です。あと二十年は頑張って頂かないと…」
「あはは!ではゴードン様、出来れば私がこの街を出る前に一報頂ければ」
「分かった。早急に決断しよう」
◆◇◆◇◆
「ふぅ…あれでよかったのですか?」
「どうでしょうね?でも、やれば目の前が晴れます。やらなければ闇の中です」
「そう…ですね。そうですよね!」
「ドーマ邸に来る前に薬効などは選別しているので、後は効率的な精製のやり方を発見するだけです。やるやらないは別として、先に準備だけしておいて下さい」
「はい!」
「それに…もし許可が得られれば、また薬師ギルドの名前も売れます。はっきり言って…帰れない日々が続くかもしれませんよ?」
「い…今まで、私達は…私達薬師は教会に虐げられて来ました…。そのくらいなんの問題もありません!」
オレは手を差し出した。
「宜しくお願いします」
オレの手を包み込むように両手で握り返される。
「喜んで」




