八章 ❺
「今日は慣らしだから、イメージしながら一つ一つの行動を確認する様に行う事。じゃぁマルク、マリーの事は頼んだ」
「はい」
確かに沼地には魔穴がちらほらと存在している。
その魔穴から、沼地に適した魔獣達が這い出てきている様だ。
リザードマンのウォーリアタイプとシールダータイプが、こちらの動きを察知して2体ずつ別々の方向から迫って来ている。
「先に、ウォーリアの方をやって行こう」
「そうですね」
「じゃぁ…ユーゴ、シールダーの方の足止めをお願いするよ」
「俺?」
「そう。例のやつを使って足止めをするだけでいい。欲張って倒そうとしなくていいから」
「そう言う事なら…分かった!」
ユーゴは目を線のように細め集中し、意識して気配を消す。
すると、身体の輪郭は見えるのに存在感が薄れていく。
早速実践をしている様だ。
「こっちはオレが突っ掛けるから、レナはその後にシールドバッシュでも何でもいいから突っ込んで攻撃を仕掛けてくれ。トドメはマリーで頼む。マルクはサポートをお願いする」
「了解です」「はい!」「わかりました!」
何時も常備しているカードから、愛用のグレイブを取り出しギュッと握りしめる。
「ハッ!」
一歩で十メートル程を稼ぎ、脇構えに持ったグレイブを叩きつける。
今回はあくまで引率。俺が倒してしまっては元も子もない。
叩きつけられたリザードマンは、盾で受けるも、予想以上の叩きつけに吹っ飛ばされ、隣のリザードマンにぶち当たる。
◆◇◆◇◆
一方、既に俺は沼を囲う森の木陰に隠れながら接敵していた。
使い方は教えてもらっている。
大楯のせいで、走っても歩く速度と対して変わらないシールダーは、それでもフンフンと言いながら移動している。
俺は次々とジャンプして木の枝を飛び移り、動きを伺いつつ右手に持ったカードを構える。
イメージは頭から指先、そしてカードまでの道筋。
ヒュッ!!
二枚のカードは空を切る。
それはシュッシュッと地面に刺さる。
ん?っと気付いたシールダーの二体は俯く。
バチッ!
瞬間。
一人当たり二人分ほどの大穴が口を開ける。
「「ゲェッ!」」
一人は大穴に落ちた。どうなかったはまだわからない。
もう一人は大楯が偶々縁に残り、それを離していなかった為、拠り所にしてよじ登って来る。
(もう一人も落としたかったんだけどなぁ〜。そんなに上手くはいかないか)
登り切ったリザードマンは、シールドを構えてこっちを向く。
先制攻撃は成功したが、居処は知られたみたいだ。
こうなると、レンジャーとして正攻法に戦うのは分が悪い。
(拙いな〜…、でもまぁ足止めだしな)
もう既に木の根本に飛び降り、糸を使ってカードを一気に手繰り寄せる。
まぁ、同じ手は食わないだろうけど…。
「フン!」
カードを投擲する。
すぐ様、盾を構えるリザードマン。
っと思いきや、きっちりこちらの投げたものを確認して避けた。
ファーストアタックは間違いなく油断だったみたいだ。
「チッ!」
カードを引き戻す。
そのタイミングでリザードマンは、シールドバッシュを仕掛けて来る。
後ろに飛びのきつつ、今俺がいた場所に一枚のカードを投げる。
バチッ
岩壁が迫り上がる。
ガァンッ!
岩壁に打ち当たり、予想外の衝撃を喰らったリザードマンが足を止めた。
◆◇◆◇◆
隣のリザードマンに、派手に体当たりしたリザードマンは縺れて二体とも転がったが、痺れた腕を振りながら即座に立つ。
そこへ追撃のシールドバッシュが飛び込んでくる。
「こっのー!」
さらに吹き飛ばされ、またも転げ回る二匹。
手加減していたとはいえ、オレの叩きつけより盾の一撃が重かったようで、かなりの距離を吹き飛ばす。
こんな弩のような破壊力を持ったシールドバッシュは見たことが無い。
「でっ、やーーーーー!!」
「!?」
レナが大きく振り被った槌斧を地面に叩きつける。
オレはこの訓練中、『凝視』を使ってレナの体内の魄の流れを追っていた。
そして、その時の魄の流れが明かに異常だった。
ドッドドドドドドドドド!!!
叩きつけた槌の部分から、二体のリザードマンに向かってボコボコと地面が盛り上がりながら駆けていく。
まるで地中に生き物がいるかのような光景だ。
地中を駆けるエネルギーは真直ぐに突き進み、呻きながら立ち上がろうとするリザードマンの足元で弾ける。
ドォォオオン!!
二体は六、七メートルの高さまで吹き飛ばさる。
「ぅわ〜」
あいつら今日吹き飛ばされまくってんな…。
「っえーーーい!!」
(!!)
後方で声が聞こえた。
振り向くと、オレの頭の数メートル頭上を、筒状の分厚い風が道を作り、まるで風の洞窟を駆け抜けるかのように、風の道を爆炎が走っていく。
その大元にマリーがいる。
これは、業火の旋風。
風が周りの大気を吸い込みながら道を作り、炎の直進性と燃焼度を高めて叩き付ける二重の符術だ。
『魔人』というS級のスキルを持つマルクも、突発的に起こった魔力の膨張と大火力に目を見張っている。
勿論、この焔風は二体を喰らい、あっさりと炭に変える
ボトッボトッ
真っ黒に炭化したそれは、形が残っているだけでなんであったのか今では分からない。
おっと、こうしてはいられない。
◆◇◆◇◆
(もう一つ!)
足元に壁を作り、壁に乗って数センチ先の壁と同じ高さに上がっていく。
上がっていくにつれ広がっていく視界で、視覚が相手の位置と状況を確認した直後には、先に出した壁の縁に足を掛け、前に倒れ込みながら、身体を縮める。
シールドバッシュは自分の体重を乗せて、全力で体当たりして吹き飛ばす。
じゃぁ、当たる一歩手前で、下から迫り上がる壁に弾かれたら?
(ん)
言葉に出さない。
出せば見つかる。
心を動かさない。
敵に気取られる。
そしてーーー
大の字になった、その喉笛に体重を載せて突き立てる。
そんな当たり前の過程を意識して、足の裏から伝わる反発力を膝で増幅。
剣は一本。
膝で爆発するエネルギーを肘に伝え、一気に伸ばして行く。
利き腕の右腕で剣をくっと握り、左腕は添えるだけ。
そして到達するエネルギーは。俺の剣の鋒だ。
放たれる一本の矢をイメージした突進攻撃の力は、足元から頭の方へと降って来る。
瞬間、周りのスピードが遅くなる。
心臓の音が聴こえる。
ドッ…クゥ…、ドッ…クゥ…、
心臓の音でさえもゆっくりだ。
リザードマンは軽い脳震盪を起こしていて、「ぅあ」、っと声に出しそうな感じだ。
それでも、時間はかなりゆっくりにしか進まない。
けれど、俺の時間は普通に進む。
2/3を過ぎた頃、漸く顔を顰める動作を見せる。
ツゥ…
鋒が喉笛の皮膚に触れる。
少しづつ、少しづつ刃が埋まって行く。
目が瞬く動きを普通の速さに感じ取れる。
もう、
遅い。
刃が、喉を全て貫通して地面迄差し込まれる。
そこで、初めて気が付いた。
勢いが過剰だった。
(ぅわっ!)
俺は、勢い余って前に転がる。
ゴロゴロと転がり、しかし、前回り受け身の要領でで直ぐに体勢を整える。
恐る恐る近付くと、首と胴は離れていて絶命していた。
よほどのことがない限り、刃を寝せて突き立てる。
刃が喉のを貫通した後に来る、鍔の部分が首を寸断したのだろう。
剣がこれでもかと言うくらい地面に突き刺さっていた。
◆◇◆◇◆
「あっ!」
「ユーゴ!気付いてない!!」
ここからユーゴまではまだ数十メートルあり、レンジャーであるユーゴが気づいていない。
剣を振り上げているリザードマンが背後にいる事を。
恐らく油断したのだろう。
それともリザードマンが、気配を断つ何らかのスキルを使っているのかもしれない。
何にせよ、命の危機だ。
ここからでは魔法では追いつけないし、巻き込んでしまう。
(雷気)
レンさん!
(ギア)
師匠!
(セカンド)
レン!
バチッ!!
◆◇◆◇◆
ゾクッ!
(しまっ…)
その影を感じた。
(こんなに、近く!)
確か、リザードマンには『隠密』の技能があった。
(くっ)
前に一歩踏み出しつつ前転して逃れようとするが、もう恐らくこいつの間合い。
(リザードマンのスキル…いや、俺の油断かっ!)
ジャリッ
俺の真後ろに、大きく踏み込んだ足音が聞こえた。
執行人の大斧の一閃を待つ罪人の気持ちだ。
フォッ
風を切る音。軽いな…。
◆◇◆◇◆
リザードマンは大きく振り上げた剣を、勢い良く叩きつけた。
はずだった。右腕前腕から先は振り上げた直後にオレが斬った。
斬られた腕は宙に舞い…
ガランッ
遥か後方の児面に転がった。
◆◇◆◇◆
「えっ!?」
「今、ここに?」
「師匠は速いんですよ!」
「あ…あれが紫電のゼノのギア…はっ!と、取り敢えず行こう!」
三人は駆け出した。




