八章 ❹
ドーマの街の北東に三等星クラスの魔獣が発生しやすい沼地が存在する。
そこへオレとマリー、オリオンズベルトの面々で討伐に向かっている。
ギルドからの依頼はこうだ。
ギルドの中で若手のホープであり、伸び盛りの三人の成長を助けてほしい。
これだった。
なんか…ある意味難しいものを請け負ったなぁ…。
「ところでさ、マルク」
「何ですか?レンさん」
「そろそろさん付けやめようぜ?敬称略でいいよ」
オレはオリオンズ・ベルトのリーダーという事で、殆どマルクと話している。
「でも…二等星の人に…」
「いや、全部が全部オレの手柄じゃないし、それに…歳一緒だろ?」
「まぁ…」
「なっ?マリーも歳は一緒なんだしさ」
「でも師匠には師匠と呼びます!」
「それはダメなのか…」
「当たり前です」
マリーはフンスと言いながら、腕組みをする。
「あと、核心から行かせてもらうけど…なんかのスキル持ちか?」
「えっと…」
「因みにオレは剣技、薬、魔術関連の複合スキルAランクだ」
「あ、ボクは魔素許容量増加のスキルですよ」
マリーもつられてカミングアウトする。まぁ、オレのはかなりぼやかした言い回しだったけど。
「うっ…」
「ま、言いたくなければそれでいいさ」
まぁ…スキルをカミングアウトするのは自分の手札をバラすのと同じだからなぁ…。礼儀としてこっちからカミングアウトして相手の出方を見るしかない。
「わ、私は…」
「姉さん?」
「か…『怪力』のスキルを…」
「あーだから前衛なのか…そりゃ強そうだ。で?」
他の二人に目をやる。
「俺は『匠』のスキルだ」
「…僕は『魔人』のスキルです」
ふむふむ…三人とも話してくれた。レナとユーゴはちょっと珍しいスキルだけど、マルクは聞いたことないスキルだ。
「レナやユーゴのスキルは何かのスキルからのランクアップなのか?」
「私の『怪力』は『剛力』から」
「俺のは『器用』からのランクアップだ」
「成る程…最後に、マルクの『魔人』だっけ?どんなスキルなんだ?因みにランクは?」
「魔術に関するスキルの複合です。ランクはSです」
「はぁっ?すごいな!!」
「いや、レンさんの方が…」
「でもランクとしてはそっちが上だしな?それなら…これやるよ」
オレはマリーと同じ特性品の符一式セットを渡した。
「そしてユーゴにはこれだ」
一応カードっぽく似せてはいるが、中に入っている罠とかを現出する符だ。
「そして、レナだっけ。レナには…取り敢えず戦うところを見てからでいいかな?」
「これは…?」
マルクが口を開く。
「あぁ、これから道々使い方教えるよ。後はマルク達次第かな」
◆◇◆◇◆
「ところでマルク」
「はい?」
「魔人って言うスキルは魔術全般なんだよな?」
「はい」
「じゃぁさ、マリーに魔素操作とか一通り教えてくれないか?」
「ぼっ、ボクは師匠が良いです!」
「って言ってますけど?」
こいつは…。
「マリー。オレはどっちかと言えば前衛職。後衛、特に魔術の知識に関してはマルクに及ばないと思う。オレのはちょっとマイナーだからな。そこは分かってくれ」
「…はい」
「良いんですか?」
「こればっかりはな〜」
どうしようもない。あと、一応簡単に符術の使用法を話した。
「で、ユーゴ。得意武器は?」
「双剣と短剣、弓です」
「ん〜多分オレに一番近いスタイルなのかもな」
「えっ?」
「オレは駆け出しの頃、薬草採取で生計立ててたし…。ただ、うちの義姉さん達の特訓やスキルがあったから、だんだん一発の攻撃力が秀でてきたんだ」
「そうなんですか?」
「そうそう。あとはギルドマスターに目をつけられて特訓させられたり…」
今思えばアレはそう言う事なんだろうな。
「そして、一人で戦うにはどうしても手数を増やしたり、足止めをしたりしなきゃならないからトラップカードを良く使ってたんだ。そしてさっき渡したそれがトラップカードだ」
「ん〜見たことの無い文字だな」
ユーゴがまじまじと見つめる。
「ユーゴ、それは恐らく古代文字だよ」
「えっ?そうなのかマルク」
「ん〜確か師匠の家で見た事がある」
「流石だな。この古代文字は力ある言葉として既に世界に認められていて、言葉にしたり符として現した方がより現象を発現しやすい」
マルクのスキルが、魔術に関する直感を与えている様だ。
「成る程…」
マルクが何やら考え込んでいる。
「それなら、詠唱を古代語にすれば…」
「発現力が高まるから、結果威力高まったり、発現スピードが早まるよ」
飲み込みが早いな。流石はこのパーティーのリーダーだ。
「そうか…」
「そして今、ユーゴに渡したものは厳密にいうと具現化魔術の符だ」
「えっ?具現化…」
「ある場所に、ある物を具現化させて敵の行動を疎外させたり、撹乱を狙ったりする魔術をカードに封じてある」
「それって…」
「まぁ簡単なトラップとして、落とし穴と土壁だな。他にも数種類」
「すげー…」
目がキラキラしている。差し詰め玩具を貰った小さな子供みたいな目だ。
「気付いたな。これはある種の楽しさがある。反面、武器や防具を纏うのと違って、そこそこ魔素を持っていかれるから…これを使うと良い」
石を全員に3個ずつ手渡す。
「これは…?普通の魔石?」
「いや、呼吸石と言う」
「見たことないな…」
「魔石ってのは魔素を多量に含んでる。そのようなモノなんだろう。
だから、これに呼魔と吸魔の力を付与したのさ」
「?????」
「成る程…。そんなことができるなら…」
「マルクわかるのか?」
「つまり…魔素切れしにくくなる…」
「まぁ…そんな簡単にはいかないけど大体そうなる。それに、調律しないといけないし…」
「「調律?」」
「それを話す前に、魔素っていうのは大きく二種類ある。一つは体内で生成されるもの、もう一つは体外に存在しているものの二つだ。この対外に存在している魔素はイメージとして無色だと考えてくれ。そして、体内で生成される魔素は生成時点で何らかの色が付いている」
「ん…そうすると調律というのは…」
「この魔石の吸気を使って、大気中の魔素を魔石が取り込んだ時に、ユーゴの色に合う様に自動で変換出来る様にするのが調律さ」
「成る程…そうする事で、ユーゴが呼気を使ってこの魔石から魔素を体内に取り込む際、スムーズに体内に浸透させる事ができるという事ですか…」
「これも、道々やって行こう」
◆◇◆◇◆
「あとは魔素を取り込む量を間違えない様にしてくれ。そうしないと動けなくなるから」
ユーゴが手渡された呼吸石を見つめている。
「あっ…まぁ使っていけば自分の中の魔素許容量は分かってくるだろうから、それまでは取り込む量を絞ることが大切かな」
「ちょっと良いですか?」
「ん?なんだマルク」
「これが発達すれば、魔術師なんていらなくなるのでは?」
「いや、結局得手不得手があるからそれはないと思う。ただ、境目があやふやになってくるとは思うけど」
「あと…大気中の魔素が枯渇するのでは?」
「ん〜それは無いんじゃないかな?」
「何故そう言えるんですか?」
「……それは秘密かな」
「……何かあるんですね?」
「ある。けど…今教えるわけにはいかない」
「はぁ…で、何でここまでしてもらえるのですか?」
「えっと…陛下からの勅命だし…」
「何か弱みでもあるんですか?」
「ん〜あると言えば…ある」
(制限武具の代金立て替えてもらってるしな〜)
「分かりました。使わせてもらいます。さて、難しい話はこれくらいにしないと三人が付いて来ていません」
「ん?」
途中まで辛うじて話についてきたユーゴも、もうさっぱりと言う顔で、他二人についてはただニコニコしているだけだった。
◆◇◆◇◆
「ところで話は変わるんだけど…」
「何ですか?」
「ここに来るまでに、森で黄色い果実をつけた木が相当あったんだけど、あれは街で管理しているのかな?」
「いえ、特には…」
「あれを使う飲み物などは無いのかい?」
「はい」
「食べ物に使うなどは?」
「それも無いのかい?」
「はい。まぁ、森の中であるので誰も寄り付かないんです」
「そんな勿体無い…」
「あれはそんなにいいものなんですか?」
「あぁ、ムンティスでも、ルーノでも見たことがなかったからね。オレのスキルがそう言ってる」
「へぇ…」
「取り敢えず、このクエストが終わってから、4〜5本を根から綺麗に抜いて、町の周辺に植えよう」
「それは領主様から何か言われませんか?」
「岩壁を作る時にお会いするから、その時にでも売り込んでみるよ」
「はい」
「オレのスキルからの情報だと…この世界ではかなり重宝するものらしい」
「そ…そうなんですか?そんな事がスキルでわかるんですか?」
「えっ?」
「えっ?」
「それは、得意とする分野だからなぁ。マルクの魔人だって、魔術に関する事は直感で『分かる』んだろ?」
「…はい」
「それと同じ事だと思うけど?勿論、マリーの様にそもそも大元が大きかったりする場合もあるけど、スキルは師匠の様なものだと思ってる」
「……」
「例えばレナだけど、怪力のスキルは力の出し方をレナに伝えているんだ。あとは結びつきに応じて、体の潜在能力の引き出し方を教えているんだろう」
みんな黙って聞いている。
「その分でいけば、この中で一番潜在能力が高いのはユーゴだろうな」
「えっ?オレ?」
「でも…『匠』ですよ?ランクB相当だし…」
「そうかな?そのスキル、使おうとする技能を誰よりも速く習得しやすくするスキルだと思ってる。そして、方向性を絞ってない分、何でも教えれる師匠と《スキル》いう事は、上手くすればユーゴは何にでもなれるんじゃないかなぁ?」
「そう…なのか?」
「だから、ユーゴはもっと貪欲に技能を求めるといいと思う。恐らく、スキルは理解が深まる程に、スキルとの繋がりが強くなる程に、するとスキルは名前を変えてより強くサポートする様にできている。それがスキルのランクアップだ。そして、もっとスキルとよりよく付き合う事で、スキルは手を貸してくれるし、スキルが自分を裏切らなくなる」
「なんか…俺のスキル…凄かった?」
「凄いさ。ユーゴのスキルは、体の隅々まで意識を配らせる事ができるのが根っこなんだと思う」
「意識を?」
「『速く動く』と言う結果に対して、どう言う風に動けば速く動けるか?と言う無意識を身体の各所に配らせ統一する事で、期待通りの結果を生む事ができるんだろう」
「……どうやったら、スキルの力を引き出せる?」
「今のユーゴは無意識にスキルを使っているはずだから、スキルとの対話を意識すると、もっと結果を上手く引き寄せる事ができる様になるだろう。まぁ、これは全てのスキル持ちに言える事だと思うけど」
「わ、私は?」
「レナの『怪力』は力の発現率を異常な程に高めるんだろう?
「うんうん」
「オレは『怪力』というスキルの本質は、筋力の強化と保護だと思うんだよ」
「えっと…?」
「でも、俺達人族は獣人族の様にしなやかじゃなかったり、ドワーフの様に筋肉質ではないから、発揮しようとする力に筋肉が負けてしまうだろう。なのに、剛力や、怪力といったスキル持ちは筋肉を痛めない。それは、筋肉の耐久力を上げているんだと思う」
「ん…」
「『怪力』は純粋に力が上がるだけだと思うけど、筋力はその方向性で使い道が変わる。例えば、脚力を引き上げる事ができるなら、それは早く走ったり、ジャンプする事ができたりするための原動力になると思う」
「な…成る程?」
「そこをイメージする事で、恐らくこれからの戦い方も変わるだろうし、単純な受け専門のガーダーから、突撃もできるガーダーになれば、やれる事が増えるガーダーになれば、戦術を考えるマルクも幅広い戦術でパーティーをサポート出来ると思うよ」
「マルク…お姉ちゃん頑張るよ!」
「う…うん……でも、姉さん今の話理解出来たの?」
「えっと…もっと筋肉を使えって事かな?」
「……まぁ、レナとユーゴはこっちで面倒見るし?」
「はい。よろしくお願いします」




