八章 ❷
翌朝、俺はマリーとルーノを出た。
朝早くではあったけれど、狩人やトルトレーノさん、街の人総出で見送ってくれた。
朝日を受けながら、オレとマリーは一路王都へと向かった。
道中、二つの村に立ち寄り、ウルフ、ゴブリン、コボルトの掃討などを行った。
ルーノでは思ったより滞在していなかった事もあり、少しゆっくり行く事にした。
勿論、旅に慣れていないマリーにも配慮もしている。
ルーノから三日後、オレとマリーは王都へ到着した。
謁見に際してはオレだけが拝謁し、その間マリーは控えの間で待機となった。
◆◇◆◇◆
「また…」
「えっ…?」
「何故お前はこう毎回毎回…」
あれれ?王様が頭を抱えている。
オレがデュランとトルトレーノさんの書簡を渡して、王様がそれを一読し、ドレファンさんにそれを回したところだ。
「ドレファン…」
陛下は溜息をついてドレファンさんの方を向く。
「はっ。今回レン君が…まぁ善かれと思ってやった行為だけど、あれを建設するのにどれ位の年月と費用が必要かわかるかい?」
「分かりません」
オレはキッパリと答える。
「今の街の形でさえ、作り上げるのに相応の時間がかかっているんだ。これ程のことだ。隠すことはできないだろうし、今後、君が行く街々では『壁作り』を強請られるだろう」
「あーまぁあの位ならマリーがいれば…」
「それにね?街々が勝手にそんなことをし出したら、王国としても大変困るんだよ。確かに今の時代、魔獣や魔族の襲来があり、これに備えなければならないけれど、勇者による魔王討伐で事が済めば魔獣よりも人同士での争いが起こる可能性が増すんだ。その時、今の備えが王都に牙を剥く可能性がある」
「トルトレーノさんが?」
「んー、陛下」
国王様は頷く。
「ルーノ伯爵やムンティス侯爵、ドーマ伯爵は問題無いけれどね、コルネット公爵は注視しているんだ」
「えっ?」
「私の調べるところ、街周辺の魔獣討伐に力を貸さず、しかし、軍備を増強している」
「それは…」
「そこにして君の…いや、マリア君の街壁建設能力。コルネットに行けば十中八九捕らえられてか、要請されるかだろう。我が街にも強固な壁を作って欲しいとね」
「………」
これは…早まった事をしてしまったかもしれない。
「自分の仕出かした事の大きさが分かったか?しかし世に出てしまった事はもうどうしようもない。後でドレファンと一計を案じるしかあるまいな」
「レン君。君の成す事は少しづつ巨大化していっている。自重して欲しい」
「はい」
前歴があるのでなんとも言えない。
「しかし…お前の功績はそれを帳消しにして余りある。魔王の複製隊と言えど、撃退なぞ聖戦士と聖戦士候補だけで成せる業ではない」
「はっ」
「そして、ここに来て魔王の複製隊や、ムンティスの鬼神などの巨魔が現れているという事は…」
「やはり何処かの街の結界に綻びが生じているという事ですね」
「結界?」
「そうだ、世界の全ての国々は魔穴の発生を抑える為、各々結界を敷いておる。我が国では四つの街と王都に大晶石、他の中規模の街に中晶石を祀って抑えておるのだ。だがな、このところ魔穴の出現とそれに伴った大量発生が顕著となっておる。
レンよ。お前に各街々を周る指令を出したのは、お前が表を抑えているうちに、ドレファンやその配下、そして聖戦士達とで結界の綻びを発見・修復するのが目的なのだ」
「…そんな事を今ここで私に話されても良いのですか?」
「お前の為した事や人柄は既に調べ終わっておるし、何より、勇者やその直系、闘神、精霊砲が後ろ盾になっておるからな…。
ただ、彼奴らは全て仕舞をこちらに全部投げて来おったが…」
「そうですね〜尻拭いは丸投げですものね〜」
陛下とドレファンさんが回想に浸っている。
「まぁお前の場合、生産的な分だけアレらより随分マシだがな」
何してんの義姉さん達は…。
「ふぅ〜…と、言うわけでな。今回の魔王撃退の一件よりも外壁の方が厄介ではあるのだ」
「しかし陛下、恐れながら申し上げます」
「ん?ドレファン?」
「逆にこの一件で、一手が打てるやもしれません」
「ほぅ…?」
「その為にレン君にはまずドーマへ向かってもらいましょう。そこからはまたこちらから指示を出すと言うという事で宜しいのではないでしょうか?」
「ふーむ。どちらにせよ周ってもらう街であるからな。良いのではないか?」
「その時に、ドーマの街も壁で囲ってもらいましょう」
「ぬっ?しかし…」
「陛下、レーノの街には数日前に壁が出来上がっております。全ての街…とまではいかずとも、王都や主要の街を壁で囲いましょう。そうしなければ他の街々から不満が噴出します」
「まぁ…そうなるな」
「ただし、順番はドーマ、ムンティス、王都、コルネットの順としましょう」
「コルネットが最後か…ふむ…そういう事か…。良かろう」
「あっ陛下、一つお願いしたいのですが…」
「ふむ?」
「レーテの村も、街と同様とまではいかなくとも小規模の壁で囲いたいのでが…」
「……。そこは薬草の生産拠点であったな…。そこは特別に認めるべきであろうな?ドレファン」
「左様でございますね。今後の王国の行く末を担う街なれば…」
「許す、作るが良い。順番はムンティスと王都の間に挟むと良かろう」
「王都の前で宜しいのですか?」
「地理的に不自然にはらなんし、重要度、そして危険度からして、なるべく早く抑えておきたい場所ではあるからな」
「しかしコルネットは…」
「その先は聖国だしね?危険度もそれほど高くないんだよ」
「成る程…」
「言い訳は幾らでも用意出来るからね。何も問題ないんだよ」
「それで、他には話すべき事柄はあるか?」
「…あ、そう言えば今日は姫様をお見掛けしませんね?」
何時もは大体同席しているはずなのに。
「あれは、コルネットに行かせておる」
「それと…姫様以外の王族の方を拝見したことが無いのですが…」
「ふむ、余り大事な話ではないが、お前には知識をつけておいた方が良かろう。ドレファン、後で教えておいてやると良い。今後、顔を合わせることもあろう」
「はっ」
「それでは今日はここまでとする。レンよ今後もブルガルド王国の為に一層の努力を期待する」
「はい!」
「ただし…一言断って動くように…」
「は…はい」
◆◇◆◇◆
オレは王の間を出て控室に行き、マリーを伴ってポーラとレーナの研究室へ訪れた。
場所は知らなかったので、ドレファンさんに話すと、手ずから案内してくれた。
成果を聞くと、気石と符術の解析はかなり進んでいるみたいだ。
特に、気石の方はほぼ解析を完了して試作しているそうで、符術の方も古代語の解析と同時進行して進められているようだ。
そこで、マリーに渡していた岩壁作成の符や、新作を何枚か見せると、すぐに書き写し作成していた。
この時、ドレファンさんの目が一瞬光った用にも思えたが気のせいだろうか?
この分で行くと、そう遠くない未来には気石も符術も流行りだしそうだ。
ただ符術を扱うようになる為には、一定の魔素制御が出来なければ暴発を招く為、最低限の魔素制御訓練を受ける必要があるのと、人に向けての符術を避ける為、一定の制限をかけるなど、何個かアドバイスした。
そう言えば『解析』のスキルを持ってたんだっけな?
これなら、分からない遺物なんかを持ちこんでも良さそうだ。
◆◇◆◇◆
それから、ドレファンさんから他の王族の話を聞くことになった。
順番に第一王女は研究機関に入っているそうで、第二王女がファティナで、第一王子は学舎の上位学校に入っているとのこと。ただ、第二王子は跡目争いなどを面倒だと思ったのか、中位学舎を出た後、直ぐに出奔したそうだ。
「なんか…凄いですね…。王族なのに出奔とか…」
「勿論、足取りはこっちで追ってるよ?っというか、どこで何をしているのかも把握してる」
「えっと…?」
それって出奔の意味なくないか?
「何故なら、我が国の王位継承権は男子優位に置かれているからね。いざというときの為に、居所は抑えておかないといけないのさ」
「でも、それだけしかいらっしゃらないのですか?」
「いや、他にも何人かいるけれど、年齢が王位継承権に達していない」
「そうなんですか?年齢で決まるんですか?」
「判断能力もない子供に任せたところで治世は出来ないさ。最低限の学問を修め、年齢に達していなければこの国の王位継承権は得られない」
「でもそれじゃ…」
「だからこそ、王位に付いたものは早急に子を作らないといけない。または、王位に就く前に数人の子供を作ることを推奨されていて、一人も子供がいない高位継承者は、継承権が数段落ちたり、素行が悪ければ剥奪される」
「そこまで…」
「ブルガルド王国は繁栄と安定を第一に考える。その為に王位継承権についてきっちりと法律で定めている。そうしないと国が傾くからね。それに人は力だ。人がいなければ国力は維持できない。だからレン君。君も早いうちに沢山のお子さんを作って欲しいねぇ…」
「えっ?オレまだ17何ですけど…」
何やら風向きが変わってきた。
「王族なら一人か二人いてもおかしくないよ?」
「いや、それ王族ですから…」
「それに理由があるんだよ」
「それは?」
「単純明快さ。君は若くして狩人ランク二等星だ。その優秀な血統を次代に残していかなければならない」
「おーぅ…」
「ドレファンさんは?」
「私かい?今3人いるよ?」
「えっ?」
こんなに忙しいのに三人…。
「この国の貴族は、街貴族以外は免許制でね。子供には試験が課され、貴族としての力と教養がなければそこで代は終わる。だから、ある程度子供を作り、育て、爵位を維持できるようにしなければならないのさ」
「シビアですね」
「まぁね、でもそれは仕方のない事なんだ。貴族は国民の税によって生かされているからね。我々貴族は何らかの方法で力を示し、その力を持って国王を支え、民を守らなければならない」
「確かに今までの街貴族の方々は、街に住む人々の為に頑張っておられたような…」
「そうだね。全てがそうあれば良いんだけどね…」




