オリオンズ・ベルト❸
「むー」
「おい、マルク」
俺とマルクはレナから五歩くらい後ろに下がって、レナの背中を拝みながら歩いてる。
「何?」
「まぁ大体の察しがつくんだけどどうしたの?あれ?」
「僕も宝物山分け後から特に何も無いからアレの事でしょ」
「アレかぁ確かにな…」
「今日なんて、朝からコップ二つ握り潰してたからね?」
「ハァ?どんだけ…?」
「煩い!!聞こえてるわよ!!!」
「「ごめんなさい!!!」」
「こえーよー」
「僕もだよ」
いや、お前も別の意味で怖いからな?
と思いつつギルド前。
カラン♪
いつも思うんだがこれは喫茶店か?
まぁいい、さて三人で依頼板に目を通す。
ハンターに登録以来、依頼板のチェックは三人でやる。
これは、パーティーのルールの一つだ。
じっくり選んだ依頼書を剥がし、各自持ち寄った窓際の中くらいのテーブルにかける。
オリオンズ・ベルトの毎朝の光景だ。
俺とマルクは五等星級の依頼書を二枚づつ持って来たが、レナは四等星級を三枚持ってきた。
「「姉さん」「レナ…」」
「何よ…」
「マルク…お前の姉ちゃん怖いわ…」
「うん、知ってる。
父さんが何回か宙を舞うとこ見たことあるから」
「はぁ?何それ怖い!!?確か…親父さんも…」
「そう力強化系スキルを持ってる」
「何でそれで宙を舞うんだよ…しかも『何回か』」
「姉さん箍が外れると普段のスキル以上の力を発揮するから…」
「何それ!!?もっと怖いぃぃぃ!!!!
なぁ、お前の姉さん魔王なんじゃ無いの?」
「それは無い。けど、魔王です」
「何言ってるのかしら〜?マルクゥ〜!?
後でお尻をペンペンしてあげようかしら〜?」
「嫌です。御免なさい。もう言いません」
ヤベェ…。魔人のスキル持ちが、ランク下の剛力スキル持ちの姉に頭上がらんとかマジでヤベェ…
「でぇ?何か問題でもあるのかしらユーゴさーん?」
「無いです。はい」
「じゃぁ…今日はこの四等星クラスのオーガさんを倒しに行きましょうかぁ?」
「御心のままに…マイプリンセス」
俺はそんな言葉を宣った魔人スキル持ちに目をやった。
しかし、ソイツは目で合図する…合わせろと…。
「ぎょ…御意!」
何だこの独裁政権…!!!
〜・〜・〜・〜・〜
今日僕はレベルアップしたスキルの確認を行ってから、明日以降、四等星級のクエストを受けるつもりだった。
そう、そういうつもりだった。
けれどダメだった。
スキルが何も上がらない事は珍しい事じゃ無い。
恵の雨より澄んだ晴れの方が多いように、スキルアップがない事は多い方だ。
だから何もおかしくない。けど、言えなかった…。
あの目が怖すぎた。
ヤル気だ…。
アレなら四等星クラスの魔物は楽に屠ってしまうだろう。
ダメだ冷や汗が止まらない…。
〜・〜・〜・〜・〜
何でかなぁ…。
何で私だけスキルアップしないのかなぁ?
あー腹たつ!早くレベルアップしなくちゃ!
そしてもっともっと強くならなくちゃ!!
オーガ3体以上の討伐。
大丈夫。私達なら問題ない。
やれるはずだ。
街を出て、街門を抜け、草原に出る。
日はまだ角度があって、魔物も少ない。
目的地、モルト山の風穴は麓だし直ぐに着ける。
もう、あと少しだ。
風穴迄100メートル程に迫った時、前を行くユーゴが左手を水平に上げて静止した。
勿論、私達も静止する。
恐らくユーゴの探知スキルに、『何か』が引っ掛かったのだ。
私はすぐに片膝をついてモーニングスターを置き、ポシェットから一枚のカードを取り出す。
そのカードを胸にあてがいフルプレートメイルを顕現させ、モーニングスターを持ち直した。
この一連の動作に5秒とかかっていない。
そして、直ぐに立ち上がり前衛を交代する。
「気を付けろ。入り口付近にゴブリンが六だ」
言い切った。
探知のスキルが匠の効果を受け、ステータス以上の効果を及ぼしているのだろう。
風穴の入り口付近にゴブリンが六体。
恐らく、オーガによって締め出されたのだろう。
風下に回り、匂いで勘付かれないようにしながら、マルクが木属風単一魔術『消音』と『消臭』でパーティーを包む。
一定時間の無音と消臭。
この魔法の素晴らしいところは、もう一つの魔術でさらなる開花を見せる。
こんな所で怪我や、消耗はなるべく控えたい。
一気に決める。
大股で十歩程の茂みに移動して、緊張の中マルクは厳かに木属風単一魔術『消音』と陰属闇の単一魔術『闇灯』を発動する。
今度は私達ではなく、ゴブリンにむかってだ。
ゴブリン達は急に訪れた静寂に戸惑い、辺りを見渡し声を上げる。
次に訪れる暗闇が、ゴブリンの精神を侵食する。
更にかのものは一瞬の鈍痛、かのものは首筋に走る熱痛。
そしてあっという間に意識は途切れる。
もう戻ってくることはない。
すぐさま木属風単一魔法『消臭』辺りを覆う。
血の匂いを拡散させない為だ。
流石我が弟、抜かりがない。
実際魔法を連発しているが、マルクは魔力をほとんど失ってない。
単にパーソナルスキル『魔人』のなせる『吸魔』により立ち所に回復していること。
そして相性と練度、限定範囲への魔力操作が魔力の余剰使用を許さない。
今の魔術で一番範囲が大きかったのが『消音』と『消臭』。
小さかったのは『闇灯』だ。
前者はゴブリン一体一体を覆うように、後者は目の周りだけを覆うように発動された。
『闇灯』は陽属光単一魔術『灯光』の逆転したような魔法で、夜の空間作り出す。
消費魔力も初歩魔術という事もあって、極端に少なく案外お手軽に使える。
前回使った『眠れる森林』とは桁違いに集中力と魔力の消費が少ない。
さて、ゴブリン達にきちんととどめを刺して奥へ進む。
マルクは常に、『消音』を薄い壁状にして私達の前へ展開させて移動している。
コレで私達の声や音はオーガに届かない。
そして、風穴内に入って十分程。
オーガの存在をユーゴが捉えた。
「いる、四体だ。けど、一体は奥にいる」
「じゃぁ…ちょっと待って」
マルクが魔力操作を行う。
『消音』を展開しながら、無系統魔法『反響』を放つ。
ユーゴのスキル『探知』は、魔物などが『いる』ということを感じるのには有効だが、地形迄は読み取れない。
『反響』は魔力を微細に反射させる事で、洞窟内の複雑な地形を感じ取る。
「マルク、どう?」
「うん。問題ないね。もう一体に続く道はオーガの体からすれば一人分ちょっと。
そこに、『消音』と『消臭』で蓋をすれば気づかれないよ」
「よし、それとオーガの体はどの位だ?」
「うん。前衛の姉さんを基準にすると、姉さんは女の子にしては身長が高い方だけど1.5倍は有りそうだね」
「でかいなぁ…」
何だろう?ちょっと傷ついた」
「取り敢えず僕が『散雷撃』でサポートに回るから感電している間に二体仕留めてくれると助かるよ」
「「わかった」わ」
木属雷単一拡散魔術『散雷撃』。
通常は『集』の性質を持つ雷を分散させる事は難しいが、杖の増幅効果も伴ってマルクには割と簡単な部類になる。
これも初歩魔術ということもあって、魔力の消費は少ない。
マルクは極端に魔力節約をしている傾向がある。
一人で攻撃、回復、補助を担わなければならないので、しようがないといえばしようがないのだけれど…。
数十メートル進むと奥に焚火の揺らぎが見える。
あそこだ。
岩陰に隠れ、交代で折り畳み式の手鏡を使って位置を確認する。
奥の一体は横になっていて、他は座っている。
「私が右をやるわ」
「じゃぁ、俺が左な」
「僕は『散雷撃』の後で『雷撃』を放つから、それでも倒れなかったら早い方がお願い」
うん。と頷く。
直ぐに『消音』と『消臭』が物陰から、奥に通じる通路に放たれる。
魔力に疎いオーガは、着々と進む暗殺者の下準備に全然反応出来ない。
マルクは物陰に隠れたまま、直ぐに『散雷撃』の準備を終え、ユーゴの合図を待っている。
ユーゴが掌を広げる。
5カウントの開始だ。
一定のリズムで折り曲げられる指に注視しながら、タイミングを伺う私とマルク。
4・3・2・1…
ワンテンポ早くマルクが飛び出した。




