七章 13
3ヶ月も放置して御免なさい。
「『鬼力解放』」
俺の周囲を覆っていた気が押し出され、下から別の力が迫り上がる感覚。
「レン…お前面白いことやってんな?」
ヴェール義姉さんは、面白そうにこっちを見ている。
(『凝視』)
義姉さんとデュランさんを見ると、二人とも違う魔力を周囲に纏っている。
義姉さんは火属炎、デュランさんは土属岩の魔力、更にその魔力は濃密だ。
あれなら大抵の属性攻撃は打ち消せるんじゃないだろうか?
そしてあれは恐らく、俺がやっていることと似たようなものなんだろう。
装備している超位モンスターの魔力が、装備者の闘気に呼応して滲み出ているのだ。
ただ、闘気という魄よりも扱いやすいものであるゆえに、あちらの方が簡単な気がする。
むぅ…鬼神さん。もっと簡単に発現して頂けると助かります。
命の危機に直面したり、魄を揺り起こさなければ発動できないなんてなんてなんて不便な…。
(ドックゥ…)
なんか…この…鬼力解放ってヤバいやつかな?
(ドックゥ…)
早目に仕留めないとなんかヤバイ気がする。
「ヴェール義姉さん!デュランさん!お先に行きます!
『シャイニング・ギア・ファースト』」
光気を体内に巡らし、ギアの地力を格上げする。そしてグレイブの刃先に光が迸る。
◆◇◆◇◆
「ハッ…。速いねぇ…」
笑ってるあたしの頰に水滴の軌跡が歩く。
「ヴェ…ヴェールさん…アレは…光気じゃぁ?」
デュランの視点は定まらない。相当動揺しているな。
まぁ…わからないでもないが…。
「そうだ。何か問題でもあるのかい?」
「た…確か資料には雷気持ちだと…」
デュランは数日前に目を通した資料を思い出しているんだろうな。
まぁ、その資料はある意味間違いじゃない。
しかも、光気なんて属性は『勇者がその身に宿す属性』だ。
問題があり過ぎて、何処から突っ込んでいいのか分からないようだ。
「あぁ…そうだ。光気持ちだとさぁ、なんやかんやで色々目立っちまうだろ?だから、ゼオの小僧が気を利かせたんだよ」
「じゃ…じゃぁ…レン君は『勇者』?」
「さぁてね?勇者は世界に一人だけなんだろう?ならレンは勇者じゃないねぇ」
「し、しかし…」
「ぐちゃぐちゃいうな!呆けてる暇はないよ?アタシらのお客さんはギガンテスだぞ?」
闘神ヴェールは、その手に携えた大剣に業火を迸らせて大地を蹴った。
◆◇◆◇◆
光気化した技は、最低でも三倍の効果と、魔物に特攻の光気を武器に宿らせる。
効果にばらつきがあるのは習熟度の関係だ。
世界で一人しか扱えないはずの光気を、一体誰が教えてくれるのか?
つまり、独力で研鑽するしかないわけだ。
そして、魔物に特攻の光気。
それは元々、闇の属性を魔物が宿しているからで有り、逆に光気を纏うという事は、闇の属性を持っているものからすれば、反転して特攻が狙えると言うことになる。
しかも、そんな魔物や魔族がうようよしている本拠地へ乗り込むのだ。
だから、『勇気ある者』と呼ばれる。
ただ、そんな刺し違える事を覚悟で突っ込むなんて、俺からすれば狂人だ。
正気の沙汰じゃない。
勿論、光の属性を持つ者…勇者がこれまで一〇〇%という驚異的な確率で事を成し遂げて来れたのには、光気の性質が深く関わってくる。
光気は恐らく世界でも一、二を争う程の『速さ』を兼ね備えている。
そして、光気に選ばれた者の神経伝達、そして、能力の全てを向上させる。
その向上の割合が、五属性と比べて半端でないのがキモだ。
それは、超越者や混血さえ凌駕する。
その光気をギアに上乗せする事で、速さ一点に重きを置いて正しく閃光の斬撃を生む。
それは凶悪な硬さの皮膚で知られるブロサイクロプスや、ギガンテスの皮膚をも断つ。
この硬さは巨人族の持つボーンドスキルだ。あの体格を維持するために必要だったのだろう。
しかし俺は速さと体格差を活かし、ブロサイクロプスの足を次々と切断していく。
これ程の巨体を支える足は間違いなく生命線だ。
その生命線を一瞬の元に薙ぎ、事を有利に進めつつギガンテスにもダメージを与える為だ。
ただ…。
…予想外の事態が起きた。
以前ブロサイクロプスを倒した時に発生していた『再生』が発生しない。
これはもう、御都合主義としか言いようがないが、俺の中の光気は光気化する事で、巨人族のもう一つの畏怖すべきスキルを封殺したのだ。
以前ブロサイクロプスと交戦したし時は、ルーとスーのお陰で『再生』を無力化した。
しかし、今回は光気のみで封殺している。
成る程、これが光の殺戮者たる勇者の秘めたる力か…。
一対多を覆す勇者の武器。それを振るえる事の異常さを改めて思い知った。
けれど…勇者は一人だ。セリア義姉さんも勇者と言われてはいるが厳密には勇者本来の力は無い。その身に宿しているのも木属雷の気だ。
『俺の体は一体何なのか?』
全く…
「ぉぉぉぉぉおおお!!」
刃閃が光気の影響を受けて宙に浮かぶ。
最初の狙いは足だけだったが、
(ヤれる…)
三十を越す刃閃が瞬き、ブロサイクロプスの体を切り裂いてゆく。
ズサァァァ!!
光気の影響を受け、異常なほどに加速した足を止めるのに苦労した。
「はぁっ、はぁっ、はー」
鬼力解放の影響下でかなり体力が底上げされていても、まだ体と感覚がついていけてない所があるみたいだ。
本来の力についていけない体と感覚が、多大なストレスを抱えているのが分かる。
連続使用は極力控えるようにした方が良いのかもしれない。
けれど、やりたい事をやるのにはこのぐらいは我慢のうちだ。
まったく…いくら光気化したとはいえ、こんなに体力と精神力を削ぐ技をギア・セブンまで使えるギルマスが恐ろしい…。
そう思っている俺の背後には、斬り刻まれ絶命したブロサイクロプスの死体が散乱していた。
案外やれるものだな。と、思っているとギガンテスが迫ってきた。
ギガンテスはブロサイクロプスの上位種で神話級の魔獣だが、ブロサイクロプスより一回り小さい。
しかし、その凶悪なまでの怪力と威圧の魔眼の力により、敵を一瞬でミンチにする。
そう、その手に持つ棍棒とは言えないサイズの棍棒でだ。
「さーせーるーかー!」
ドォオオン!
デュランさんの飛び蹴りが顔の側面に決まる。
槍を棒に見立てて反動で跳んだらしい。
「立て!そう何度も庇いきれんぞ!」
そう言うデュランさんの頬を汗が伝う。
基本的に巨人系は土の属性の為、デュランさんの攻撃では効きが薄い。
「デュランさん!足留めを一瞬でいいのでお願いします!」
「分かった!」
俺は体制を立て直して距離を取り、鬼力解放を行う。気を抜くと直ぐに解放状態が解けてしまうのは、まだまだ不慣れとしかいえない。
けれど一回目よりスムーズに鬼力解放が進み、ふわりと光が体に纏わりついてくる。
「グオオオオオ!」
それに気づいたギガンテスが、棍棒をおおきく振りかぶって大声を上げながら突っ込んでくる。
「させねぇよっ!!絶槍ォォッ!!」
俺とギガンテスの間に立ちはだかったデュランさんが、勢い良く槍を大地に突き立てる。
すると、幾重もの土の大槍が迎え撃つようにギガンテスに襲いかかる。
ギガンテスは、振りかぶった棍棒で大槍を打ち壊す。
「怒涛!!!」
今度は全方位から大槍が湧き上がる。
明らかな足留めに苛立ちを覚えつつも、流石に無傷では済まない攻撃に顳顬に青筋を立てるギガンテス。
どこにそんな運動神経があるのか分からない勢いで振り抜いた反動で、その場で横に回転しながら土の大槍を悉く撃ち落とす。
やり切った感じのギガンテスの文字通り眼前に、デュランは槍を構えていた。
「その目、戴く」
殺気を込めた一撃が、一つしかない眼球に迫る。
ズン!
…。
ギガンテスは何とか手の甲で受け止めた。
槍の切っ先は目の前で止まっている。
大きく目を見開いて、安堵したギガンテスの意識はそこで途切れた。
俺が背後からの一撃で首を切り落としたからだ。
デュランさんの攻撃の全てはこの布石。
けれど、どれだけの真を込めるかで相手の意識を削れるかが決まる。
デュランさんは一つ一つの攻撃に全力を注いでいた。
何故なら、まだ二体残っているのだ、出来れば俺の攻撃を温存して起きたい。それが功を奏したのだ。
そして俺はギガンテスの体を足場に反転して、大きく跳躍する。
たった1人でギガンテス2体を相手にするヴェール義姉さんに助勢する為だ。




