七章 ❽
作戦説明が終わり、まだ夕方だ。明日の作戦に支障が出ないくらいの修行に付き合う事にした。
練武場にはデュランさん筆頭に、殆どの冒険者が降りていた。
マリー、取り敢えずこれな。
丸薬を三包手渡す。
「一粒だけ飲んでくれ」
「えっ?あっはい…んっ。
…えっえー?魔素が…溢れてくる?」
「だからと言って、使い過ぎたら明日の作戦にも支障をきたすから気をつけて」
「は、はい!師匠!」
「じゃぁ、取り敢えず斬空符、突風符、雷鳴符、水流符をメインに一通り練習してくれ。
練習は極小・小・中程度の魔力を込めること。これをメインは三セット、他は一セット行なって今日は上がりだ。頑張って感覚を掴んで欲しい。それと、魔素はいつか切れる事を忘れずに!」
「はい!」
「じゃぁ、誰か修行をしたいひ…と…」
「先ずは俺だろ?」
デュランさんが周りを威圧しながらずずいと進んでくる。
「却下です」
「何でだよ!」
「だって…デュランさん必要ないじゃないですか」
「んなこたねぇよ。錆びついた槍の勘を取り戻さねぇと明日しくじっちゃうかも?」
んーあれかな?慣れてくると口調か変わっちゃう人なのかな?初期と全然違う…。
「分かりました…。どの位でやるんですか?」
「お前に合わせるぜ?」
デュランさんはカードを取り出して槍士系の武具を装着する。
ただ、制限武具ではない。
「じゃぁ…」
こちらは鬼神の武具を装着する。ただ、軽装バージョンだ。
そして、武器はグレイブ。槍の長さに対抗する。
「ほーぅ、なんか見たことねぇ武具だな」
「でも、ミョルニルの槌製なんで間違い無いですよ。
「げっ…あそこのか…。俺も欲しいなぁ」
「それじゃぁ行きますよ?」
「こい」
一瞬で槍の間合いの半歩外に詰める。
しかし、デュランさんは一歩踏み込み間合いを広げて突きにかかる。
「ギア・ファースト」
ギィィィン
ギアで回避、そして横から斬りかかる。が、それに反応するギルマスも凄い。
「くっ!?お、お前…それはゼオの…」
あの森槍のデュランが片膝をついた。これは大きい。
「はい。紫電のゼオの『ギア』です。つい先日継承しました」
「あいつ…ついに『渡した』のか…」
「良いだろう…あいつの『ギア』で、この俺にどこまで食らいつけるか…勝負だ!」
◆◇◆◇◆
数合打ち合った。
確かに、デュランさんの動きは早いし重い。槍の間合いもある。
けれど、これで一等星か?
なんか腑に落ちないな…。
んっ?
「どうした?英雄」
デュランさんがニヤリと口角を上げる。
おかしい…デュランさんとは別の方向から剣気が…。
「止まってるぞ?」
「くっ!」
正面のデュランさんとは違う方向から、より強い剣気が飛んでくる。
それに対応すると、デュランさんが踏み込み、高速の突きが飛んでくる。
これが…『森』か…?どういう理屈かは分からないけど、剣気を任意の場所から撃ち込んでくる。
しかも…デュランさんは本気じゃない…まだ『始まり』の段階だ。
回避しながら武器を双刀に持ち帰る。
これは後手に回れば不利だ。
「『円』&『ギア・サード』」
ぽたーーーーーーーーーん
一々反応してしまうなら……全部撃ち落とす!!!
「ほぅ…『深林』」
「おぉぉぉぉおおおおおおお!!」
「はぁぁぁぁあああああああ!!」
ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!
ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!
ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!
ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!
ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!
ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!
ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!
ギィィィィィィィィッ!!
空中で三叉槍と双刀が火花を散らしてぶつかり合って止まる。
何とか…追い付いた。
「ふぅー久し振りに良い汗かいたぜ…」
「いや、明日『作戦』なのに何でこんなガチ試合やるんですか…」
「はっ…よく言うぜ…まだ全然余力あるくせにな…。
だが、今ので頭の中の霧がかなり晴れた。ありがとな」
「いえ、森槍の一端を見させていただいて有難う御座います」
「ふっ…ほらな…きっちり『見る』だけの余裕がある」
「あははは…」
そしてがっちり握手をした。
ぱち…ぱち…ぱちぱちぱちぱちぱちぱち……
観客席から拍手が巻き起こった。恐らく、何が起こっていたのかわかっていないものでさえ、高度過ぎる何かが起きた事は理解できたらしい。
そして…次から次へと試合を申し込まれた。
おかしい…修行を付き合うんじゃなかったのか?
◆◇◆◇◆
終わりが見えそうになかったので試合は十九時で打ち切った。
ルーノ支部のほぼ全ての上位狩人とは試合ったからいいだろう。
勿論その中には、ダンさんも含まれていてデュランさんの次に試合った。
ダンさんは三叉槍を獲物にしていて、『森槍』を継承中との事だった。
けれど、オリジナルからすればまだまだで、突っ込みどころが多過ぎた。
まぁ、ダンさんとやる前にオリジナルの『森槍』を味わったからと言うのもあるが…。
ただ、俺がやる人毎に武器を持ち替えていた事に感心された。
逆に言えば、決まった武器で倒せないと言う欠点でもある。
今後はちょっと考えないといけないかもしれない。
それからは、魔術師系の狩人と講義というかコツを話し合ったりした。
「あのー」
「はい」
「マリーが突然魔術を使えるようになったにはなぜですか?」
「それは符術といって、紙などに予め特定の術式を書き込んだりする事によって魔素を起爆剤として魔術を発生させるんです術です」
「そ、それだと誰だって使えるんですか?」
「んー使えなくは無いんですが…魔術師やそれに類する人に比べれば断然威力は落ちますし、書き込んだ術式しか使えません。この符術で優れているとすれば『誰でも使える』と言うことと、『直ぐに使える』という事です」
「直ぐに…ですか?」
「えぇ…速効性があります。色んな過程を飛ばして現象に辿り着きます」
「それであんなに凄い魔術が?」
「そこは…マリーだからです」
皆んながマリーに注目する。
「マリーの魔素許容量は、恐らく一般の魔術師の方の千人分はあります」
「「「「「「「「「「えぇぇぇぇぇ!!!」」」」」」」」」」
「嘘だろ…」「あのマリーが…」「だったら何で…」「馬鹿な…」
「色々聞いたのですが、五歳の頃から魔術師であったお祖父さんの特訓を受けていたそうです。それが元で膨大になり過ぎた魔素許容量を、受け止めるだけの触媒が通常にはないから、発動できないのではないでしょうか?」
「まぁ、マリーについては置いておきましょう。符術においてやはり使うにあたっては、魔素を日頃から扱う職である事。そして使えない魔術や、砲術を符にしておくことが良いでしょう」
「あぁ、この符術の最大の欠点を言っていませんでした」
「紙だと、一度使うと燃えます」
「「「「「「「「「「えぇぇぇぇぇ!!!」」」」」」」」」」
「逆にそこに価値があります。基本的に作れるのは対象の術を扱える方のみです。
だから、狩人を引退しても、良い符を作れるならお金に困る事がありません。
それに一回のみなので、絶対に消費されます。
「そ…それの作り方は……?」
「まだ今の段階では明かせませんが、一度、王都へ出向かないといけません。
認可が下りるのであれば、早くて数ヶ月のうちには出回ります。
その時は、ギルドを通すことになるはずです。
あと、作り放題は出来ないと思ってください。
こんなにお手軽に魔術が使えるようになってしまうと、国が傾く危険性があります」
「マリーが扱っているものは…?」
「あれは私が色んな方と合同で作った特注品なので、出回る事はないでしょう。
それに、マリーは今回の作戦のパートナーであり、弟子ですので…。
さらに言えば、こんなに優秀な才能を眠らせておくのは勿体ないです。王国の損失です」
あちらこちらに国を絡ませ、下手な追求を避ける。
魔術師に類する人はこれだから怖い…。
「全くその通りです!!」
◆◇◆◇◆
「ど、ドレファンさん!!?」
ドアを勢いよく開け放ち登場したのはブルガルド王国宰相ドレファンさんだった。
「おい、あれだれだよ」「分かんね」「でも偉い人そう」
「ちょっ…何で一国の宰相がこんなとこにいるんですか!!?」
「「「「「「「「「「えぇぇぇぇぇ!!!」」」」」」」」」」
「それはこっちのセリフですよレン君?
こんな美味し…いや、危ない話を私に持ってこないなんて…どういった事ですか?」
この人今美味しいって言いかけたよな…。あと、他に…二人?
「ちゃんと、ルーノの一件が終わり次第王都に出向く予定だったんですけど…(大嘘)」
「そうすると時間が掛かりそうなので、私が転移装置を使ってやって来ました」
ふっ軽いな転移装置…。
「しかし何で……」
はっ!ドアの脇に気配。
「デュランさん……バラしました?」
「い……いや、そんな事は…昔の嘉で色々とギルドの通信で話しててな?
マリーの一件を話したら喰いついてな……」
「あんたやないかーーーーーーーー!!!」
「すまーーーんレーーーン!!!」
ドドドドドッ
チッ逃げやがった……。
がしっ
やけに力の入った手が肩を掴む。
「まぁレン君、明日は早いみたいだから、早めに終わらせてあげるからさ。そこ座って」
そう、マリー以外の魔術師はいつのまにか消えていた。




