七章 ❺
「あれ?」
昨日助けた狩人がいる。あーもしかしてこいつが案内人か?
「き、昨日は有難うございました。マリア・ロスと言います。知ってる人からはマリーって呼ばれてます。今日からよろしくお願いします」
あれ?マリア?
「えっ?女の子?」
「はっはい!」
「レンさん〜流石にそれは〜」
「いや、だってダブついた服だし…髪型も…分かりにくいじゃん?」
言われてみれば女の子に見えなくもない…あぁ…そこも含めて怒られてたのか…。
エレナさんの目が鋭い…ヘタな言い訳は怒らすだけだな。
「あぁ…ごめん…」
「い、良いんです。こんな装備だし…」
「まぁちょっと、コレからの予定を詰めたいから、あそこ座ろっか」
「はい」
「じゃぁ、エレナさんまた」
手を上げて場を離れた。
◆◇◆◇◆
「知ってるかもしれないけど…レン・ミングルだ。基本職は騎士だ。宜しく」
「あっ、はい。私の職業は一応魔術師です」
「えっ?魔術師?」
目を凝らして纏う魔素を観ると確かに濃くて多い。
「でも、装備は剣士っぽいけど?」
「私…魔術が使えなくて…」
「魔術が使えないのに魔術師…?まぁいいや、そこは後でクリアにしよう」
「えっ?良いんですか?」
「まぁ、間に合わせだけど、魔素操作は出来る?」
「はい。以前見てもらって出来てるみたいです」
「それならどうにかする方法はあるから…。
で、今日やることなんだけど…先ずはこの丸で囲ってある所一帯の調査かな」
「はい」
「一応、昨日と同じくヒルデに騎乗してもらうから、朝の内には戻ってこれるし、今から簡単な魔術を使えるようにするよ」
「えっ!?」
「じゃぁ、下の練武場に行くね」
「えっあっはい!」
俺はスッと立ち上がって受付カウンターに向かう。
「すみませんエレナさん。ちょっと練武場使いますね?」
「えっ?ちょっ…昨日みたいに…マリー?」
スタスタと練武場へ向かう。後ろにはマリーがついてきている。
そして、その後ろからドタドタと無用な観衆がくっついてきた。
ぶっちゃけ、朝一ということもあって人数は十人にも満たないが、全員興味津々だ。
演舞場の広場に着くと、奥に向かって一枚の紙を投げる。『飛燕』の要領で気を通してあるので、真っ直ぐ一直線に目的の地面に突き刺さる。
ズズズッ
広場の地面がせり上がり、分厚い石の壁が生まれる。それだけで観客はオオッと声を上げている。
『凝視』
魄術に対する魂術の一つ。これで魔素の流れを観測する。
「あれに向かってなんでも良いから放ってくれないか?」
マリーは腰に備えていた短めの木杖を前に出した。
二秒かからない速さでイメージを確定させ、言葉を発する。
「『火球』!」
頭にイメージした火球がワンドから生み出され、石壁を破壊…できなかった。
そもそも、ワンドから火球も発現されなかった。
「おいおい!何やってんだ!!折角『英雄』様が指導してんだ!やる気出せよ!」
一人が騒ぎ出すと、どんどん釣られる。マリーは顔を顰めて俯いている。
「ちょっと黙れ」
手は抜いたが、相応の怒気を観客にぶつけた。
「「「「「「「かっ…はっ…」」」」」」」
息がし辛くなったようだ。よしよし…。
「マリー、顔を上げてくれ」
「は、はい。御免なさい」
「謝らなくて良いよ。今やってもらったのは『流れ』を見たかったからだ」
「流れ?」
「あぁ、人には凡そ共通する魔術発動の流れが複数存在する。その中でマリーが行なっていた魔術発動の流れはこうだ。
❶発現する対象のイメージを構築
❷必要な魔素の収束
❸触媒による魔素の変換
こうだと思うんだけどどうだろう?」
「は、はい。そうです」
「恐らく、マリーは❸が不味い」
「えぇぇっ!?なんでそんなことがわかるんですか!?」
「それは秘密だ。だけど魔術と同じ効果を齎すアイテムがあるから先に渡しておく」
俺は五枚のカードを取り出して、マリーの手のひらに置いた。
「こ、これは…?」
「五属性の基本攻撃術の符だ。それは素材も特注品だから何回使っても無くならないよ」
「えぇっと…そんな凄いアイテム…」
「それはあげるから、取り敢えずその赤いカードに魔素だけ放り込んで、なんでも良いから声を出してみて。ただ、図柄を石壁に向けて込める魔力はほんの少しでいいよ」
「えっ?あっはい!……や、やっ!」
ドォン……ヴォォォン!!
特大火球の発現から着弾。
俺は苦笑しながら困惑しているマリーに声をかける。
「ほんの少しでいいって言ったのに…まぁ、それだけ魔素許容量があればしようがないか。…どうしたの?」
「なんで?魔素の変換が…出来てないって…?」
「マリー、勘違いしてる。俺の言い方が悪かったかもしれないけど、魔素の変換が下手なんじゃない。触媒が合ってないのさ」
「これがっ?」
マリアはワンドを見つめながら呆然としている。
「だって、お爺ちゃんが使ってたワンドだよ?」
「そうなんだ…でも違う。マリーの触媒はスタンダードなワンドじゃないよ」
「じゃ、じゃぁこのカードって事?」
「当たってるとも言えるけど〜ちょっと違う」
「えっ?どういう事?」
「そのカードは魔素制御さえ出来れば誰でも使える反面、使える魔術が限定されてしまうんだよ」
「あ、そう言えば『基本攻撃術の』って…」
「そう、でも魔素許容量がそこそこないと連発できないし、魔素制御ができないと暴発の危険がつきまとったり、一発で魔素がすっからかんになる場合もある。でも、『誰でも使える』」
「そっか…」
「正直、マリーの触媒が特殊なもののような気がする」
「えっと…」
「言いたいことはわかる。けど、俺の力は発動までの流れを追っただけだから何が触媒か迄は分からないんだ」
「そっか…」
「ごめんね。肝心なところで役に立てなくて」
「い、いえ!良いんです!でもこんな凄いアイテムもらっちゃっても良いんですか?」
「まぁ、また作れば良いし…」
「えっ?」
「それよりも今は戦力が欲しい。と、言うわけで…」
四枚の符を投げて石壁を出す。
「残りのカードを使ってみようか」
◆◇◆◇◆
マリーはホクホク顔で練武場の階段を登る。
生まれてから今日まで、魔術が使えない魔術師と蔑まれてきたのが、一転、制限付きにせよ魔術が使えるようになったのだ。
これは大きな一歩だった。
「後は、加減を覚えれば良いと思う。今日の調査が終わったら修行手伝えるけど…どうする?」
「ぜ…是非!!」
「うん。じゃあ案内よろしくね?」
「はい!」
こんな勢いで練武場から上がってきた二人を見て、一体何があったのか確かめるべく下へ行った他の冒険者が、練武場の一部が異様に破壊されている様と十名程の狩人が気絶しているのを発見した。
◆◇◆◇◆
「だいぶ慣れてきたね?」
「はい!」
当初どうなることかと思っていたヒルデの騎乗は、案外すんなり行った。
案外マリーはこう行った適性があったんだろう。
しかし、ルーノの町から西南西へ二十キロ程移動した位置に三つのポイントがあるのだが、確かに、魔穴も確認できない。
ここは起伏が激しく、何かと分かりづらい地形だ。
しかし、嫌な雰囲気だけは感じる。
「ここ辺りなんだよなぁ…」
「はい。後はあそことあそこです」
「そうすると、怪しいのはあそこか…」
そう、ポイントは全て丘の頂点。その三点の間に丁度いい窪地がある。
「『凝視』」
魔素の流れが今立っている場所から溢れ、窪地に向かって流れ込んでいる。
溢れ?
成る程下か…。
「よし…。ヒルデ、下がれ」
ヒルデはマリーを乗せたまま五十メートル程下がる。
「ブラド!」
掛け声とともに大きく後ろに飛び下がり、そして今いた場所に向かって飛びかかる。
「はぁぁぁぁぁっ!」
手にしたグレイブに、丘一帯を吹き飛ばせるだけの魄を載せて飛燕を放つ。
ドンッ!ドォォォオオオオオ!!
土埃がひどい…。風気石に強めの魔素を通して突風を起こす。
そして、見えた。




