七章 ❹
日も暮れ、下が騒がしくなって来る頃に目が覚めた。
よく寝たらしい。腹も丁度良いくらいに減ってきた。
シャツと綿のパンツを纏って部屋を出ると、ブラドとヒルデも追ってきた。
宿の受付の隣が広めの酒場になっていて、かなりの人数が酒と料理に踊っていた。
スッとカウンターに座り、適当に料理を頼む。ただ、肉料理がメインだ。
ずらりと並んだ料理はバード系の料理が主だ。それを片っ端から胃に詰め込みながら、足下で待っているブラドとヒルデにお裾分けを上げる。
あとでマハが拗ねない様に、小分けしている。
すると、ドカッと隣の席に誰かが座った。カリオだ。
「なんだ?またやるのか?」
度数の高いアルコールの入ったグラスをグイッと傾けて吐き出す様に呟く。
「いや、今朝は済まなかった」
「何だよ…殊勝な事だな…」
裏でもあるのかな?
「お前…魔物使いなのか?」
「いや、ブラドと一緒にいたらクラスが追加された」
「ブラドってのは今日の狼か?」
「あぁ、足元で飯食ってるけどな」
「はぁっ!?」
確かに足下で二匹の子犬が肉を食い漁っている。
「あ〜……」
どうやらトラウマが首をもたげたようだ。
「それで?まだなんかあんの?」
「いや、じゃぁ本当のクラスはなんなんだ?」
「ナイトだ」
「ダブルクラスか…」
「どうなんだろうな?薬師も入っているかもしれないな」
「なんでそんなあやふやなんだ?」
「おれはステータスボードに意味を感じなくなったからな」
「どうしてだ?」
「あれは結局、過去と現在の集大成を数値で表しただけだろ?
だけど、未来は何処にも載っちゃいない。
それなら進んで見る価値なんてないんじゃないかって思うようになった。
人生の最後にちらっとみて、あぁ俺ってここまでやれたんだなって思えればそれで良いよ」
「そ、そうか…」
「俺は『看破』とか言う便利なスキルを持っちゃいない。
対峙した相手がもしかしたらとんでも無く強いかもしれない。
でも、だからと言って歩みを止めたりしない。
詰まる所、俺は足掻くしか出来ないからな。
全く…いつだって強い奴はこっちが望まなくてもやって来る…」
酒を飲んでもないのにブツブツと愚痴を言っている。
この頃良かった事なんて…おぉ!あった!リスティさんにチュウされたんだった。
何だろう、それだけで生きて行けそうだ。
「なっ…何にやけてんだよ」
おっと…ヤバイヤバイ顔に出ていたみたいだ。
「そ…そうだな、数少ない幸せを噛み締めてたんだよ」
「…英雄も楽じゃなさそうだ…」
「当たり前だ…事が起こるたびに、狙い撃ちで大きい何かにぶち当たるんだ。
毎度毎度たまったもんじゃない。代わるか?」
「いや、遠慮しとく」
「しかし…今回の件はカリオ、あんたの一存なのか?」
なんか怪しい。
「わかったか…」
「ん…やっぱりか…」
「何でわかったんだ?」
ため息をつく
「強引なんだよなぁ…そしてタイミングが良すぎる。
こう言うことをやる人を、俺は何人か知ってるんだよね」
カリオは目を伏せる。
「恐らく、あんたの思ってる人で当たってる」
「どんな繋がりが?」
「俺が駆け出しの頃にちっとばっかり世話になってな。
姐さんにはそれからちょくちょく稽古をつけてもらってる。
そのお陰で三等星まで上がれたようなもんさ」
『姐さん』ね…間違いないなぁ…
「一通の手紙が来た。そこには短くこう書いてあった。
『私の義弟でありお前の義弟が、子犬を二匹連れてそっちに行くからよろしくしてくれ』ってな。
後は俺のアドリブだ。俺はこの街で十指に入る狩人だ。
それがどんなやられ方にせよ負けたのなら、お前への信頼は固くなる。
ただ、あそこまでコテンパにやられるとは思いもしなかったがな。」
「そ…それで自分の人望が落ちたとしても?」
そ、それは幾ら何でもやり過ぎでは…。
「気にすんな。姐さんへの借りを少しでも返すのと、俺の弟分の昇格祝いだと思ってくれ」
まったく…ヴェール姉さんの弟子らしいや…。
もう何処に行っても手のひらの上にいるみたいだ。
「すみません。エール二つ」
「おっなんだ?呑むのか?」
「明日から一気に行きたいんでこれだけですけど、一杯だけ付き合ってください。義兄さん」
「おぅ。義弟」
二人でグラスを鳴らして一気に空けた。
◆◇◆◇◆
「お早う」
床で丸まっているブラドとヒルデは、まだ眠そうに目だけを開けた。
桶の水を流しに持っていて流し、水気石と熱気石で新たにお湯を作る。
乾かしていたタオルをざぶんと浸し、軽く絞って顔を拭き、またざぶんと浸してきつく絞る。そしてまた顔を拭いて終了だ。
漸く起き始めた二匹は軽く背伸びをしている。
窓を開けるとマハがバサバサと降りてきて俺の方に乗る。
そのままブラドとヒルデを二匹を抱きかかえると、下の酒場に降りていった。
すると、カウンターの部分に料理が何種類か置いてあり、好きなものを好きな分だけたべれるようになっていた。
いいね。こういうの。
肉と野菜を均等に盛り付け、パンと牛乳を持って空いている席に移動する。
コンソメスープを取りに行く時、ブラドとヒルデ、マハ用にソーセージを三本ずつ貰ってくる。
そして、床に銀の皿を三枚おいて、それぞれにソーセージを分けるとガツガツと食べ始めた。
俺はそれを見ながらゆっくりと食べる。
マハはお腹いっぱいになったのか、テーブルに乗って動かない。けれど、二匹はハッハッとおねだりだ。
「お前ら太っても知らんぞー?」
と言いつつ、ソーセージを二本ずつ貰ってくる。
完食すると、俺は食器を返して準備をする。
まだ朝は早く、漸く日が差してきた程度なのだ。
しかし、今出されているオーダーなどもチェックしておきたくて早目に宿を出た。
ハンターズギルド迄五分とかからない距離だったが、そこそこ人通りがある。絶えず魔物から襲われているとは到底思えない。
と、思っている内にハンターズギルドに到着した。
ムンティスと同じような重厚なドアを開け中へ入ると、すでに何人かの狩人がオーダーボードの前にいた。
俺は取り敢えずそこを素通りして、受付カウンターの前に行った。
こんなに朝早いと言うのに、昨日と同じ格好で受付カウンターに座っているのはエレナさんだ。
エレナさんの前に来てぺこりと頭を下げる。
「お早うございます」
「レンさん、お早うございます」
「エレナさん、昨日は済みませんでした。来た早々問題起こしちゃって…」
「良いんです。あれはカリオさんが悪いんです。狩人さんって結構強引な人が多くって、その中でもカリオさんは結構紳士だったんですけど…ちょっと幻滅しました」
「あ、あ〜。あの後ですね、夜に二人で酒場で飲んで仲良くなって蟠りも無いので…」
「あ、そうなんですか?良かった〜。レンさんは王命で来ていらっしゃるって聞いているのでどうなることかひやひやしてたんです!」
お、おぅ。
「カリオさんはお咎めなしですよね?」
「そんな権限無いですよ」
「えっ?でも、通行カードを見た衛兵さんから色々権限を持ってるとか…」
「あっ忘れてた。でも、そんな横暴なことはしませんよ。もしそれを使うときは理不尽な権力に対してのみなので」
「そうですか…分かりました。レンさんが話のわかる人で良かったです。
今この街では断続するモンスターの襲来で狩人は結構疲れてるんです。
その中で頑張ってくれてるカリオさんに抜けられるとちょっと…」
あれ?
「でも今カリオさんのこと悪く言ってなかった?」
「それはそれです。でも、カリオさんはこの街には必要なんです」
割り切ってるなー。ある意味凄い人だ。
「成る程…感心しました」
「えへへへ」
照れてる姿はめちゃ可愛いんだが…。
「あ、それじゃぁ時間ないかもしれないんですけど、ここ数ヶ月魔獣が頻繁に出ている場所とか簡単な地図に記載してもらって良いですか?」
「あ、それなら…」
カウンターの下に手を伸ばす。
「コレです」
そこそこ正確な周辺地図が出てきた。そしてその上には丸で何箇所か囲ってある部分がある。
「早いですね」
「一応、当ギルドでも調べてみたんですけど…全然原因に辿り着けなくて…」
「そうですか…んー…でもこれ、お借りしても良いですか?」
「あ、コレは写しなので差し上げます」
「お、やった。後は…案内してもらえる人を待つだけだ」
「もう、来てますよ」
「えっ」




