七章 ❸
トントントン。
軽い話が終わり、ギルマスの部屋から出て降りてくる。
それを聞きつけて狩人達の視線が階段に集中する。
そして、受付の前を抜けてそのまま外へ出ようとする。
「ちょっと待てよ!」
「えっ?俺ですか?」
「そうだ!お前だ!」
「何ですか?」
俺は引き返してその冒険者に近づく。まぁこういうのは想定内だ。
「調子乗ってんじゃねえぞ!何が二等星だ!!
どうせ裏金でもやって手に入れたんだろ!?」
「うわーそれは…どうかと…?」
それは認定したギルマスや、それを観ていた全ての狩人を侮辱する行為だ。
「じゃぁ俺と戦え!俺は三等星のカリオだ!!
叩きのめしてこの街から追放してやる!!」
「いや、眠いんだけど…」
「うるせー!怖いのか?ビビってんだろうが!?」
「ちょっとカリオさん!」
さっきの受付嬢だ。でもまぁ一回ガツンと言わせとけば後が楽になるものでもある。
「あー面倒 くさいなー…一回だけだよ?で、どこでやんの?」
「ちょっとレンさん!」
「下だ、地下に練武場がある」
へぇ、そういう作りなんだ。
「あ、ちょっと聞いていい?」
「なんだ?」
「何でも使って良いのか?」
「はっ金でもばら撒くのか?良いぜ使ってみろや!」
本当にいちいち頭にくるやつだな…。
◆◇◆◇◆
地下に移動すると、結構広い円形の場所を囲うように観戦スペースがある。
他の狩人達も観に来ている。
そして、さっきの受付嬢が呼んだのだろうギルマスも降りてきていた。
「おら、使え」
カリオが投げてよこした木刀をそのまま地面に突き刺した。
「はっ?お前ふざけてんのか?」
「いや、俺はこれを使わない」
「こ…の…!死ね!」
カリオは流石サードらしい踏み込みを見せた。
しかし、剣線は空を切った。
「なっ…」
振り抜いた反対側に移動したのだ。
それだけでかなりの力量の差を感じてくれるはずだが、カリオは木剣に力場を発生させ、何かをそれに蓄えはじめた。
「んっ?」
カリオは俺の足元に二匹の子犬がいることに気づいた。けれど大きく振りかぶり、振り抜いた。
ドンッという音ともに土煙が上がる。しかし、俺が右手を振るうと風が起こり土煙が吹き飛ばされ、二体の巨狼が姿をあらわす。
恐らく、俺の飛燕と同類の技なんだろうが威力が…今ひとつだ。
そしてそれはブラドの一踏みで消えたのだ。
「「「「「「「うわぁぁぁぁぁ!!!」」」」」」」
観戦していた狩人達が思い思いに武器を手に取る。
「ブラド、ヒルデ!殺さない程度に遊んでやれ!!」
命令と共にカリオに強襲する二頭。
カリオは瞬間でズタズタにされて転がった。
「戻れ」
俺の両脇に戻るブラドとヒルデ。
「『幼獣化』」
スゥッと元の子犬に戻る。
武器に手を掛けていた狩人達は、カリオが転がり、転がした巨狼が今は幼犬化した事に驚いて何も言えなかった。
「じゃぁこれで良いかな?」
ギルドホールへ上がる階段に登っていくと、ザザザッと人が左右に引いた。
最後にギルマスが階段の入り口の脇に寄りかかっていた。
「おい…」
「ギルマス…あいつが起きたらコレを…」
「ん?コレは?」
「黄丸です。効果はポーションと同等です。ただ、俺が渡したなんて言わないでくださいね」
「これが…。おい、どこ行くんだ?」
「えっと…宿屋に行って寝ます。ムンティスから寝てないんで…」
「そうか…まぁ、エレナから聞く限りだと、お前から突っかかったわけじゃなさそうだから今回は不問にするが…自重しろよ?」
「はーい」
気だるそうに俺は答えた。
◆◇◆◇◆
ハンターズギルドを出て、エレナさんに貰った地図を見ながら歩く。
このルーノの街もムンティス並みに大きく、ブルガルド王国西側の街としては最大級だ。
だから、結構人通りもあり色んな露店も出ている。ただ、掻き入れどきに向けて準備をしていて、直ぐに何かありつけそうなのも少なかったが、何とか焼きを始めた肉串屋を見つけた。
「すみません。十本ほど貰えますか?」
「おー眠そうだねにいちゃん。良いけどよ。見ての通り焼き始めたばっかりだ、時間は少しもらうぜ?」
「良いですよ。先にお代をここに置きますね」
「おっ良いのかい?わかった。気合を入れて焼いてやるぜ!」
ん〜先にお代を払っただけなのに、気合い入れてくれたのに吃驚だ。
足元のブラドとヒルデに構ってやりながら屋根を見ると、マハがじーっと此方を見ている。
ふっふっふっ…忘れてませんよ…忘れてませんよ?
と、思いつつ三本追加した。
お釣りを貰って中を確認すると十五本入っていた。朝一で大口さんは縁起がいいからとキリよく二本オマケしてくれた。
ん〜こいつらこんなに食べるかな〜?
お礼を言って目当ての宿に入ると、パタパタと女の子が走ってきた。
「あの〜レンさんですか?」
「はい。そうです」
「ハンターズギルドから連絡来てますので、うちに泊まっていただいたら宿代はタダです」
「えっ嘘!?」
「ギルドマスターのデュランさんからで、阿保に稽古をつけてくれた礼だって言ってました」
「有難う。でさ、今日はもう寝ちゃうからその前に桶とタオルを持ってきてくれないかい?」
「はい。お湯のお好みは有りますか?」
「いや、桶とタオルだけで良いよ」
「えっ?水もいらないんですか?」
「あぁ、流しはあるんだろ?」
「はい」
「じゃぁ、頼むね?あとさ、こいつらも良いよね?」
「ペットですね?はい、大丈夫ですよ。二階の突き当たりの部屋です」
「有り難う」
俺はブラドとヒルデを抱きかかえて二階に上がった。
◆◇◆◇◆
部屋に入るとすぐに上着を脱いでシャツだけになった。
それから窓を開けるとマハがバサッと窓口に降り立つ。
「ピー!」
「分かった分かった。ちょっと待て」
三本分の肉串を一個ずつ外して、皿に移して窓口の平らな所に置いた。
美味そうに食べ始めるマハ。と、シーンとしていると思いきや涎を必死に堪えているブラドとヒルデがじーっとこちらを見ていた。
こっちも三本分の肉串を串から外して皿に取り分け、目の前に置くと一気にガツガツと食べ始める。
一羽と二頭の食いっぷりに当てられて俺ももしゃもしゃと食べる。
少しだけ空腹感が紛れると、眠気が少しづつ襲ってきた。
すると、コンコンとドアをノックする音。
「どうぞ」
「はい。持ってきました〜」
大きめの桶とタオルを二枚持ってきてくれた。
「有り難う」
と、チップを渡すとニコッと笑った。でも、部屋から出ようとしないのでおかしいな?と思って聞いてみた。
「まだなんかある?」
「違うんです。水も何もない桶で何をするんだろうと思って…」
「あぁ、そういう事か…」
ポケットから魔石を二つ取り出すと、魔力を流して桶に投げ入れた。
一つから水が溢れ出し、一つは熱を発し始めた。
桶は数分で熱めのお湯で満たされた。
「嘘〜!あ、あれは何なんですか!?」
「魔石だね。水気石と熱気石。魔力を通すと、その通した魔力の量や質に応じて特性が発揮される石さ」
「すっごーい!どこで売ってるんですか?」
「どこにも売ってないんじゃないかな?」
「えっ?」
「あれは俺の発明みたいなものだしなぁ…。今後、王国直通で売り出されるかもしれないな…」
「じゃぁ…貴重なものなんですね」
「あぁ。素材が貴重だから今直ぐには出てこないだろうなぁ」
「そうなんですか…」
ちょっと落ち込んだみたいだ。多分、この水気石と熱気石のペアは今までの王国の根幹の一つを覆し、宿屋のあり方も変えてしまいそうだからおいそれとあげることも出来ない。
「まぁ、早いうちにどうにかする様に伝えておくよ」
「本当ですか?有り難う御座います!」
「じゃぁ夕食は食べるから、下の酒場に行けば良いのかな?」
「はい!お待ちしてます!」
一礼して部屋を出て行った。
俺はパンツだけになると、顔を洗い身体を拭いた。
次に熱気石と風気石を使って温風を作り、身体を乾かしてベッドに横になった。
後は黒い布を目の上に乗せて目を閉じた。




