七章 ❷
題名はまだ決まってません。
ゴブリン達は震えた。いつも従えている狼ではない。何か別の白い巨狼。
全てのゴブリンが本能で察知する。
『喰われる』
つい今しがたまで狩りの時間に心躍らせていたのに、まさか瞬時に入れ替わるなんてどのゴブリンが予測できただろうか?
振り返り、逃げようとした。
其処には深淵の巨狼と槍を携えた人間が立ちはだかった。
「グッグォォォォッ!」
ホブゴブリンが雄叫びをあげる。
それでも、手下のゴブリンの戦意を奮い起こすには至らなかった。
「ふぅ…」
俺はブラドから降りてゴブリン達の横を通り過ぎる。
ゴブリン達は目で俺を追って手を上げようとするが、その都度、ブラドとヒルデの威圧が襲う。
何もされていないのにビクンと体が震えるのがわかる。
「良かった。大丈夫だ。
ブラド、ヒルデ好きにやっちゃって良いよ」
背後で悲鳴が聞こえるが、そんな事を気にしてはいられない。
肩と背中に突き刺さったままの矢を引き抜いて、薬用のカードから浄水を取り出す。
これは、直接患部にかける事で大抵の毒を中和することができる。
浄水を患部にかけたあと包み紙を薬用のカードから取り出す。
そして、包み紙から粉を一つまみパラパラと鼻先にかける。
ビクッと体を震わせて眼が開く。強制覚醒剤だ。
覚醒剤と言っても麻薬ではなく、単純に眠りから叩き起こす薬だ。
そのかわり…。
「は、鼻が…ぁ…ぁ……」
嗅覚が一時鈍る。
「起きた?」
「は、はぃうわぁぁぁぁぁっ!!」
俺の肩越しに見えるブラドとヒルデに驚いたみたいだ。
「あー…ブラド、ヒルデ、『幼獣化』」
「えっ…」
今まで聳え立っていた巨狼が、いつのまにか小さな幼犬に変化したのだ。
「これで大丈夫かな?じゃぁこれとこれ飲んで?」
「えっ…とこれは?」
怪しいものを見る目で此方を見ている。
「あぁ…。これが黄丸、こっちは緑丸。黄丸は回復薬と同等、緑丸は状態異常回復薬ね。
傷口はもう浄水で洗ったから大丈夫だけど、体に取り込まれた分は消えてないからね」
「あっ有難うございます」
二つの丸薬を勢いよく口にいれて、俺が用意した水筒から水を口に含んだ。
俺が直接作っている丸薬は、特殊能力のせいか特に効果が高く即効性がある。
「あ、あれ?」
「どうです?」
「頭の中が綺麗になっていく感じです。それに、痛みもない」
「ん〜大丈夫みたいですね」
俺は立ち上がって失礼しようとした。
「ど、どちらへ」
「あぁ、あの街のハンターズギルドに用がありまして…」
「そ、それならご案内します!」
「えっ良いんですか?」
「僕はこう見えても狩人ですし、助けていただいた御恩もあります!」
まぁ、無下にもできないしなぁ…
「そうですか…知り合いがいると何かと楽ですし…お願いします。
じゃぁ、ブラド、ヒルデ宜しく」
じゃれ合っていた二匹がスクッと立ち上がり成獣化した。
「じゃぁ乗ってください」
「えっ、えぇ…」
◆◇◆◇◆
ブラドとヒルデは、乗り慣れていない狩人さんに合わせて速度を緩めたが、それでも街まであっという間だった。
街門に近づくと騒然としていた門兵が更に騒然となった。
ヒルデの突進で突き飛ばされたゴブリンが外壁に当たってミンチになっていて、そこに加えて二体の巨狼が現れたからだ。
街の狩人が共にいて話してくれたことと、ハンターズリングと通行証を見せて漸く落ち着いた。魔物使いというクラス自体が特殊らしい。
街に入る時に二体の巨狼は、幼狼化していたので門兵は別の世界を見るかのように驚いていた。
しかし、朝の早い段階で良かった。門兵があそこまで取り乱すとなると、一般の商人や通行人がパニックになっただろう。今後気をつけよう。
さて、ハンターズギルドに入ると巨狼の話で騒然としていた。
マジか…ヤバイなこれ…。
朝も早かったという事で、ホールは狩人で溢れていて一悶着以上に発展しそうだった。
そんな中、スッとカウンターに近づき話をする。
隣ではさっきの狩人さんが依頼完了の手続きをしている。
「すみません、ギルドマスターはご在籍ですか?」
「本日はお昼からの出勤ですので、ちょっと待って頂くようになります」
初めての人にも笑顔を見せる…良い対応だ。
「あーそうですか、じゃぁ、この街の良い宿屋とか教えていただけると嬉しいんですけど…」
「あ、はい。それならこことか良いですよ?ハンターズリングで決済すれば一割引です」
「えっ?そんなのもあるんだ…じゃぁ其処にしよっかな…」
「馬鹿っ!だからソロじゃ危ないってあれだけいってるじゃない!」
「だって…」
真横で咎められているのは…さっきの狩人さんだ。
「どうしたんですか?」
「貴方は?」
ジロリと睨まれる。
「あ、この人が僕を助けてくれたんだ」
軽く説明してくれる。
「えっ…有難うございます。この子がお世話になって…」
「あぁ、いえ。俺はレン・ミングルと言います。
今日から此方のギルドで少しの間お世話になります」
「えっ?レン・ミングルさん…?」
「はい」
「「えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!?」」
「も、申し訳ございませんでした」
最初に話しかけていた受付嬢さんが謝り出す。
「す、直ぐにギルドマスターを起こしますので…」
ん?起こします《・・・・・》?
バタバタと二階に駆け上がる受付嬢さん。
周りの狩人達も更に騒ぎ出して視線が集中する。
そして、バタバタと降りてきて階段を踏み外す。
「キャッ…」
『ギア・ファースト』
心の中で『ギア』をイメージした。体が残像を残すように滑らかに動く。
ゆっくりと落下する受付嬢さんに追いつき、フワリと受け止めながら、ゆっくりと勢いを殺しつつ、体勢を変えていく。
「よっと」
何とかお姫様抱っこで受け止めることができた。
「「「「「「ぅ、うぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」」
「す、すげぇ…」
「何だよ今の…」
「体がブレてたぜ…」
「あれって紫電のゼオの…」
様々な反応だ。
「あ、あの…」
「ん?」
「も、もう大丈夫ですから…」
「あ、ご、ごめん」
受付嬢さんをおろすと、
「んっんー。今からギルマスがお会いになるそうです。レン・ミングル様」
と、告げられた。
◆◇◆◇◆
ドアを開けると寝癖が消えていない壮年の男が座っていた。
メガネをかけ、無精髭を生やすその人がギルマスターの森槍のデュランだ。
「初めましてレン君。デュラン・マードンだ。このルーノのギルドマスターをやっている。ゼオから話は聞いているよ。ムンティスの英雄」
「その通り名に恥じないよう、頑張らせて頂きます」
「あぁ、有り難う」
握手を交わして、向かい合うようにソファーに座った。
「早速ですが昨日、何かあったんですか?」
「ん?あぁ、昨日も街の南西から魔物の群れが押し寄せてな…といってもムンティス程の規模じゃない。四、五十体といったところだ」
「そうだったんですか」
「ただな、昼夜問わず襲ってくるのが難点でな、狩人も衛兵も疲れているんだ、そして俺は宿直だ」
「ギルマス自ら…成る程、そんなに頻繁に何ですね。恐らく此処にもムンティスのような拠点を配置しているのではないかと思います」
「そう思うか…」
「ええ。ただ、今日は休ませていただいて、明日から周辺調査をしようかと思いますが…」
ちょっと眠い。
「あぁ、そうだな。来たばっかりで済まないな」
「大丈夫ですよ。あっ…ん〜、一つだけお願いがあるんですけど?」
「なんだ?」
「五等星の方でも良いので、ソロで街周辺に詳しい人を一人用意して頂けないでしょうか?」
「ソロでいいのか?」
「はい。逆に大人数だと機動力が落ちるので」
「機動力?ん〜分かった用意しておく」
「では、明日からよろしくお願いします」
「頼むぞ」
「頼まれました」




