六章 10 弟子達と従魔契約
侯爵邸を出て、ミョルニルの槌へと向かった。
その道すがら、何人もの人に頭を下げられ子供達に群がられた。
『ムンティスの英雄』ってのも満更じゃないな…と思いつつ、夕暮れの街を歩いた。
ミョルニルの槌はまだ槌の音が響いている。
小さな脇道を抜けて、アパートを見ると既に一階の部屋から明かりが漏れている。
あの部屋は其々弟子達の部屋だ。
ルイの部屋の戸をノックすると、直ぐに中からルイが顔を出した。
「あっ、師匠!お帰りなさい。今日はどうしたんですか?」
「うん。取り敢えず、ゾッドとモーラを連れて俺の部屋に来てくれるか?」
「あっ、はいわかりました!」
元気に声を上げ了承てくれる。
「じゃぁ、俺は部屋にいるからな」
片手を上げ俺の部屋に戻る。
椅子を準備しているとノックする音が聞こえた。
「ルイです」
「入ってくれ」
ゾッドとモーラも入ってきた。
弟子達には椅子に腰掛けてもらい、俺はベッドに座る。
「単刀直入に言おう、俺に王命が降った」
「「「えっ!?」」」
「それは…一体?」
ルイが恐る恐る聞く。
「簡単に言うと、他の街の見回りだ」
「えっ?でも、他の街は今結構大変なんですよね?」
「まぁ、だからだな」
「成る程、それで俺らにもついて来いって事か!」
ゾッドが意気揚々と声を上げる。
「そっか!」
モーラもその推論にのっている。
「いや、お前達にはこのムンティスの防衛を任せたい」
「「「えぇっ!?」」」
「なんでですか!?」
モーラがいきり立つ。
「落ち着けモーラ。簡単だ、今回のムンティス防衛戦にて衛兵が役に立っていたか?」
「んん〜全然」
「そこへ、王命とはいえ俺まで抜けてしまった場合、このムンティスの戦力はガタ落ちだ」
「確かに…」
ルイが相槌を打つ。
「それなら、姉ちゃん達がいるぜ?」
ゾッドは俺の義姉たる、勇者の直系や聖戦士を持ち出す。
「義姉さん達も同じく王命で直ぐには動けない」
「えぇ…」
「そう言うわけで、お前達には俺の留守の間、ゴドフリーさん達と一緒にこのムンティス周辺の治安を守ってほしい。
頼めるか?」
「…分かりました」
リーダーのルイが頷く。
「「えっ?」」
ゾッドとモーラがルイを見る。
「でも、魔王討伐の時は連れて行ってくれるんですよね?」
「あぁ…もちろんだ。
ただ、ちゃんと鍛えてないと連れて行けないぞ?」
「「「はい!」」」
何とか折り合いがつけた。
「あと、ついさっき領主であり貴族のムンティス侯爵と会ってきたんだが、ムンティス侯爵から依頼が発布されるかも知れない。
その時、お前達に指名が来るかも知れないから、言葉遣いもそうだが…鍛えておけよ?」
「「「はぁ!?」」」
「し、師匠…何で侯爵様から?」
モーラが持ってきた杖を強く握りしめながら問うてきた。
「まぁ、侯爵にも色々あるんだろう?それに、お前達の獣人としての直感や身体力、精霊使いとしての感覚能力を活かせば、色々出来るんじゃないかと思って進言しておいた」
三人共瞬きが激しい。
「ぼ、僕たちが侯爵様の依頼を?」
「す、すげー」
「ほ、ほんとに…?」
ん、ん…
「依頼が来るとはまだ決まってないんだぞ?ただ、その可能性があるって事だ。
だから、今からあれこれ考えてもどうしようもない。
何か起こった時のために、先ずは地力と最低限のマナーを覚えておけって事だ。いいか?」
三人の目を見ながら言った。
「「「はい!!」」」
「後は何かあるか?」
「いつから何ですか」
「今夜だ」
「「「えっ?」」」
三人共口が開いている。
「まぁ、本当は数日前に出されていたんだけど、例の丸薬絡みで時間がかかってさ」
「「「あー」」」
「師匠って、熱中すると周り見えなくなりますもんね〜」
あ〜そう見られてんのか〜。
「持っていくのもそんなにないし、俺はカードにいつも最低限の着替えを入れてるから特に準備するものがない。今直ぐにだって立てる。
このあと、女将さん達に挨拶して出発だ。
途中で野宿して、明日の朝にはルーノに着く予定だ」
「そっかーブラドがいるからか〜、あっ!師匠」
「ルイ、なんだ?」
「俺達にもブラドみたいな魔獣が欲しいんですけど…」
「えっ?乗騎にするってことか?ん〜成る程…。まぁ、機動力があると色々と楽だよなぁ…」
少し考えた。
「ヒルデ」
「あぅ!」
基本的に俺が行くところに、いつもミニ状態でブラドとヒルデはくっついてきている。今もブラドと戯れていたところだ。
◆◇◆◇◆
部屋では大きさに問題があるので中庭に出た。
少し撫でて念を込めると、凛々しく綺麗な白毛の狼が立っていた。
ヒルデは魔狼の部類、月天狼で、全高が一.二メートルはある。
擦り寄ってきてぺろぺろと俺の頰を舐めてきた。それを見て三人がヒルデに寄り添う。
ヒルデもブラドに負けず劣らずの強さを誇る。
三人との相性は良いみたいなのでヒルデに触れる。
「眷属召喚」
ヒルデが仄かに輝くと、足元に白い狼が三頭現れた。全て、ヒルデより一回り小さい。しかし、どれも芯は強そうだ。
三人に一枚ずつカードを渡し、其々気に入った相手を前に立たせる。
「自分と狼の間にカードを立てて、俺に続いて詠唱しろ」
「「「はい」」」
「我、汝と共にあり」
「「「我、汝と共にあり」」」
「果てなき道を死が二人を別つ迄」
「「「果てなき道を死が二人を別つ迄」」」
「共に歩まん事をここに願う」
「「「共に歩まん事をここに願う」」」
三人共上手くいったみたいだ。三頭の狼はその大きさを子犬程にして、三人の足元に擦り寄っている。
「じゃぁ部屋に戻るか、ヒルデ、お前も小さくなってくれ」
ヒルデは一擦りした後、小さくなった。
◆◇◆◇◆
ヒルデを抱いて、部屋に入るとブラドが暇そうに欠伸をしていた。
「よしよし」
背中から腰にかけて何回か撫でてやると、今度はお腹を出してさすってくれと言わんがばかりにねだる。
まったく…これが勇猛果敢な魔天狼とは…しかし、今回弟子たちに契約させた狼を、ヒルデの眷属にしたかと言うと、月天狼の眷属、月光狼は気性が柔らかく、盟友契約が成立しやすいからだ。
三人は獣人族の特性として、魔物使いの職業ではなくても盟友契約が成立しやすいが、念には念を入れた。
さて、俺はベッドに座り、三人は椅子に腰掛ける。
「どうだ?」
「「「良いです!!」」」
「でも、このカードは何なんですか?師匠はこんなの使ってるところ見たことないんですが…」
ルイがカードをまじまじと見つめながら問いかけてくる。
「あぁ、それは契約の符なんだが、俺は魔物使いでもあるのと、ブラドとヒルデが幼獣化出来るようになったのもあって、あまり使ってないだけだ。
役割としては、一時的にそのカードに保護出来たり、又は解放したり、一日三回まで強制命令出来たりする。
魔物使いの恩恵がなければ出来ないからな」
「じゃぁ、コレがあれば師匠と同じことができるようになるのか!」
「その通りだゾッド。ただ、名前をつけて、寝食を共にして、苦楽を分かち合えれば、いつか必要なくなるだろう」
「師匠とブラドみたいな感じですか?」
「あぁモーラ。ヒルデはこれからだけど、ブラドとマハは、俺が姉さん達の弟子時代からずっと一緒に戦い続けてきたからな。
あーそうだ。明日にでもギルドで使役獣の登録をやって、それと、女将さんに飯のお願いをするなら家賃を大目に払えよ」
「どの位大目に払えば良いんですか?」
モーラが心配そうに聞いてくる。
「そうだな、まぁ気持ちでいいと思うんだが、眷属もまだ若いし一割くらい大目に払えばいいんじゃないか?お前達も四等星何だしそのぐらいの稼ぎは出来るだろ?」
「「「はい!」」」
「それじゃぁ、飯食ってみんなに挨拶したら後は任せたぜ?」
「「「はい!」」」




