六章 ❾ ムンティスとギルマス
御免なさい。
長らくお待たせしました。
ブルガルド城から戻ると、直ぐにギルドへ向かった。
既にギルマスは王国からの命令の件を知ってはいたが、いつ出発するのか迄は俺の気分次第だったので一応報告しておくことにした。
ハンターズギルドのドアを開け中に入ると、ラムさん、シンシアさんが小さく手を振っている。
食堂の方は、昼過ぎということもあって閑散としている。
カウンターの方へ歩みを進める。
「こんにちは。ラムさん、シンシアさん」
「「こんにちは」」
「今日は、どんな事かな?」
ラムさんが早速切り出す。
「はい。ギルマスに、今日の夜にはムンティスを発つので、その報告に来ました。」
「そうなんだ…。ちゃんと戻ってこないとダメだよ?」
「あはは。大丈夫ですよ」
ちらりと横目でシンシアさんを見ると、一瞬ペンが止まった。
心配してくれてるんだろう。
それと受付嬢の二人は、ムンティス所属の二等星や三等星を他の町のギルドへ送り出しているため、その手続きも行なっている。
その為、俺が近々王国のギルドを回る手筈になっていることを知っていた。
「ギルマスは二階の執務室にいるからね」
「はい。分かりました」
そう言って階段を登っていく。
ギルマスの執務室をノックして入る。
「ん?今日は何かな?また僕と訓練する?」
「いや、それは遠慮します」
そんなのお断りです。あんなのもう訓練じゃない。
「なんだ…」
この人『ギルマス』が嫌なんじゃなくて退屈が嫌なんじゃないかな?
まぁ、死線を何度もくぐり抜けた果てに事務職なんてのは、ヴェール姉さんなら軽く発狂しそうだしなぁ…。
「今日は王命の方をこなそうかと思ってるんです」
「あー、それかー。いーなー。交代しない?」
「ヤです」
「即答かぁー」
ギルマスは項垂れた。
「どっちから回るの?ドーマ?ルーノ?」
「ルーノから回ろうかと思います」
「成る程ね、ルーノからか。じゃぁ時計回りかな?」
「はい。次にコルネット、ドーマに行きます。
そして最後に、王都で報告して戻ってくる予定です」
「成る程、いいんじゃないかな」
「だいたい十日前後で回ってくるつもりなんですけど…」
「レン君の装備はどうなの?」
「はい。もう普通の武具は仕上がってます」
「そうか、なら問題ないね…あ!」
「どうかしたんですか?」
「ちょっと上に行こうか」
「えっ?」
「どんな感じの武具なのか、見ておきたいからね」
「あー。でも、余波が結構キツイですよ?」
「どう言うこと?制限武具じゃ無いんでしょ?」
「それが…出来がいいらしいんです」
「へぇ…、それなら昨日の夜取り付けばかりのホールを使おう」
「えっ?何ですかそれ?」
「ホールはね、君が考案した制限武具を保管しているカードの術式を、私達の所属するハンターズギルドの技術陣が解析して、一種の広域位相空間を作り出す技術に転用したんだ」
「えっあれを?」
「まだまだ試作段階らしくてね。
一時間しか持たないそうだけど、そのうち半永久的なものを作るって言ってたよ」
「制限武具を格納しているカードは、制限武具自体から魔素供給を受けているから、魔素を常時作り出せるような素材があれば案外簡単に作り出せるかもしれないですね」
「じゃぁ上に上がろうか」
何だろう…凄く嬉しそうに見える…。
「今日は、天気もいいから貸切だよ」
さて三階に上がり、ギルマスは柱の一部を外して中にあったボタンを押した。
波が押し寄せる。
これは位相空間が展開されるときの波動だ。
凄いな、もうこんな技術を作り出しているのか…。
やっぱり、適材適所なんだろうなぁ…。
とか考えてるうちに、位相空間の固定が終わった。
これ…闘技場かな?
「レン君。君の考えている通り、ここは闘技場だよ。
例え軽い練習程度でも、高位の狩人がぶつかり合えば、それはもう練習とは言えないレベルの被害が周囲に起こってしまう。
それを少しでも回避する為に用意してもらったのさ」
まぁ、確かに…この間のギルマスとの稽古では相当な苦情が寄せられたらしい。
ぶっちゃけ…嫌なんだろうなぁ…。
「さぁ、レン君。君の武具を解放してくれないかい?」
めちゃくちゃわくわくしてるし…。
目がキラキラしてるし…。
「じゃぁ…」
「はぁ!」
溢れ出す闘気。
「いい…いいね!じゃぁちょっとだけ手合わせしてもらおうかな…」
「まぁ、そう来るとは思ってましたよ」
「ははっ!話が早くて助かるよー」
「いえ、少しだけこの武具の性能を試してみたかったんです」
「いいね〜。若いし…やっぱりそのくらいなくちゃね〜。
じゃぁ僕もこれを使っちゃおうかな〜」
そう言いつつ、胸の内ポケットから一枚のカードを取り出す。
その黄金色のシーレッドカードは、ギルマスの制限武具を封具したもの。
はっきり言って卑怯だよ…制限武具って…。
「行くよ〜?リリース『雷を運ぶもの』」
この中に封印されている武器は、かつてゼオが古鳥種『雷迅鳥』と戦い、倒した後に持ち帰った素材を元に、ミョルニルの槌のエルダードワーフが創作した逸品だ。
ランクは一つ星級。
二等星級には破壊力では及ばないが、その速さは二等星級であっても追いつけないと言われている。
そして、その区域のギルドマスターが持つ権限、制限解除が許された時にのみ解禁される武具だ。
強烈な雷と共に、シーレッドカードの意匠であるはずの鎖に亀裂が入り、吹き飛ぶと同時にゼオの身体に専用の防具が張り付く。
『雷を運ぶもの』は、長剣と軽装備、ロングコートとセットで顕現する。
長剣が纏う強烈な雷気から使用者を守るためだ。
頰を汗が伝う。
そうだった…。
『ギア・セブン』を止めたからと言ってそれは通常状態でのみ。
本領発揮は制限武具込みの時だ。
しかし、やる事は一つだ。
武器をグレイブから双刀へ転換する。
「円」
『ギア・セブン』を受け止めた防御の構えだ。
これを発動させた状態で…突っ込む!
ゼオはニコッと微笑む。
目にも留まらぬ斬撃が、両者から繰り出され、そして撃墜される。
円を展開しながらたっぷり十秒斬り合った。
その間に結んだ斬合は、優に百を超える。
「上々だね…その武具。この長剣、雷鳥の雷撃の余波を闘気で組み伏せるとは…。
元々その武具に雷耐性があったとしてもそれは尋常じゃ無い防御性能だ」
「あ、有難うございます」
何だろう、自分が褒められたように嬉しい。
「それじゃあ、ギアを上げるよ?
『エクステンドギア・セカンド』」
音だけが空間を支配する。
円の結界が無ければ、この武具があってもとうに破綻している。
「次、『エクステンドギア・サード』」
どんどん加速される斬撃。
一撃一撃の電撃と衝撃が、籠手の上からでも手元を狂わせようとしてくる。
ただでさえ、神経を使う斬撃に副次効果を乗せてくる。
やられる。そう思った。
そして…鬼が目覚める。
闘気が鬼気に変わる。
そして、鬼気の上に闘気が被さる。
闘気の下から鬼気がせり上がった感じだ。
鬼族の持つ、闘気や殺気とは別の気。
恐らくこれが鬼神の武具の持つスキル。
この濃密な気が闘気を傘に、斬撃が重ね持つ電撃と衝撃を完全にレジストする。
更に知覚と筋力を向上させ、装着者の攻防力を大幅に増加させる。
更に、異常な程の高揚感が胸の底から湧き上がる。
「!!『エクステンドギア・フィフス』!!」
ギルマスも異常な程の気の膨れ上がりに気付き、一気に二段階加速させる。
知覚だけでは、体がついて来ず。
体だけでは、知覚できず。
知覚と体だけでは、電撃と衝撃を受けきれない。
『知覚尖鋭』『剛体』『鬼気』
三つのスキルの複合スキル『鬼力解放』が円『まどか』に力を与える。
前後左右に上下が加わる。
そして、知覚領域の増大。
見える見えないに関わらず、感じる。
そして、ゼオのスキル『ギア』を解析する。
発動の結果ではなく、過程を遡る。
ギア発動時の力の流れ、そして力の根本。
そして応用する。
「『シャイニングギア・ファースト』」
一瞬。光を纏う。光属性を宿し、鬼力解放を使える俺に許された絶技。
「ぐっ!」
ゼオがギア状態を解き、片膝をつく。
そう、ゼオの技『ギア』は自身を帯電させ、空気中を漂う電子を受け取り知覚し、自身の帯電により加速させた反射が、人智を超えるスピードで的確な斬撃を放つ、半ば自動的な反則級の技だ。
つまり、この技のキモは自身への『属性付与』だ。
それなら光子を体に満たす帯光状態を作り、電子ではなく光子を知覚し、光子によって反射を加速させたらどうなるだろうか?
答えは簡単。光が雷を追い抜く。
そしてゼオは薄っすらと笑みを浮かべる。
「レン君なら出来るんじゃないかなって思ってたんだけど…。
こんなにあっさり出来るものなんだね」
ん?あれ?
「この『ギア』は、かつて数世代前の勇者が編み出した技なんだよ」
「えっ?」
ゆっくりとゼオは立つ。
「そして、この技を私達に継承させようとしたんだけど、他の属性ではこの技を継承できず、代々雷属性の狩人が受け継いできたんだ。
そしていつか…勇者にお返しする為にね…。
でも今代の勇者や『勇者の直系』には機会が訪れず、やっとレン君に伝えることができたよ」
「まさか…その為に事あるごとに『ギア』を使っていた?」
「それだけじゃないさ、このホールだってそうさ。
周囲への影響が顕著になるからね。
その為には、この設備も必要だった。
それに、この技は『見取り』によって会得しなければならないんだ。
その点では口伝よりもはるかに難易度が高い。
なぜかと言えば…分かるだろう?一瞬だからさ。
口伝を行なった後にこの技を体験させても、余計な思考が会得を邪魔する。
だから、数度に渡ってレン君の臨界を引っ張り上げていく事で『気づき』を誘発させたんだ。
実際、僕が会得する時もそんな感じだったよ」
「そ、そうだったのか…。てっきり自己満足かと…」
「あ、それもあるから」
あるんかいぃぃぃ!!
「でもね、実際うちの師匠が使えたのは『ギア・フィフス』までだったんだ。
それを言えば、レン君との『ギア』伝授の儀は僕にも良い結果をもたらしてくれた。
有難う」
丁寧に、そして深々と頭を下げられた。
「い、いえ!こちらこそ…」
そしてギルマスは、静かにホール発生のボタンへ歩み寄り位相空間を解除する。
「恐らくこれでレン君は、平時でも『ギア・サード』位までなら使えるだろう。
あとは修練を積む事で『ギア』を上げていけば良い」
「あ、有難う御座います!!」
俺は直角の角度で頭を下げた。
「で、帰ってきたらまた手合わせしよう。
何処まで頑張ったかを見たいからね?」
………。
「それ、退屈しのぎじゃないですよね?」
ジト目でギルマスを見ると。
「半々かな〜」
正直だった。




