六章 ❼レーテの村と気石
「これが、気石です」
ジャラッと小さな石を、テーブルの上に何個も何個も転がしている。
ジェイムスさんもスルートスさんも興味津々だ。
手にとって一個一個をジッと見つめている。
これに、色んな事をやっていくんですが、先ずは、属性付与術式を埋め込みます」
「属性付与術?」
「付与術式の性質の一端です。
一つに一つづつ、属性を確定させます。
けれど属性を持ったところで、魔力を帯びなければ効力は保てず、命令が無ければその効果を指定することもできません。
なので、概念付与術式で命令して上げるんです」
「概念付与術式?」
「概念なので細かな事は出来ませんが、キーワードを合わせる事で、簡単な魔術よりも早いスピードで術式を組立てる事ができます
で、湖で使ったのは結界石、水気石、金気石でした。
うち二つは属性を施していました。
水の気、金の気です。
結界石はそれ自体に属性を用いていないので、何かに特攻と言うわけではなく、悪意のある攻撃を万遍なく弾来ます。
そしてそれぞれ、『結界・張れ』『水・出せ』『水気石・助けろ』の命令を与えていました。
これであの石柱に結界が張られ、水がこんこんと湧き出し、その水の産出を助ける。
と言う流れになるんです」
「成る程…」
「けれど、それを維持し続けるためには、魔力を注がなければならないので、ジェイムスさんや村の人にそれをお願いしているんです」
「その為の指輪と指南書か…。
果たして軽く四十を過ぎている俺にそんなことが出来るのか?」
「俗に言われる小さい頃から魔導の修練を積まなければと言うのは、あくまでも内在する魂から魔力を引っ張り出す際に作り上げられる魔力転換回路の形成の事。
これが未発達なために、瞬発的な魔力を発せずに、また外からの供給もなく一気に魔力枯渇状態に陥るんです。
でも、年老いてからの方が発達のいい魔力転換回路を鍛えれば話は別。
勿論、既に内部魔力転換回路を形成されていれば、加えて魔力を使うことができます。
けれど、全くではないのですがその形成は難しい。
だから、外部魔力転換回路の形成を、短期に補助育成するこの指輪で、簡単な魔法が使えるようになれば今後の生活も村の簡単な防衛も出来るようになります」
「成る程分からん」
「「えぇ〜」」
「でもな、村の生活が良くなるのなら、取り敢えずやってみるだけやってみても良いかもしれん」
「その息でお願いします」
「あと、スルートスさん」
「なんだい?」
「王様にお願いして、薬草栽培の拠点となるこの村に、交代で狩人や騎士団を駐屯させてほしいのです」
「確かに、ここは下手をすると我が国の最重要拠点の一つとなるからね。
ドレファン様にその事も伝えるよ」
「あと、この気石を応用した魔道具を作る一環で、武器も考えています」
「また…ど、どんな武器だい?」
「簡単に言うと、魔力を込める事で魔力弾が発射される武器です
その属性は込められた気石によって変わる感じです」
「つまり、ファイアーボールを撃てる感じかな?」
「はい」
「それなら別に魔術師でも…あっ!?」
「そうです。魔力さえ込めることができれば誰でも使える武器です」
「い…威力は?」
「その人の魔力次第になりますが、基本的には込める気石の力に寄るところが大きいです」
「今回、私が気石に使った鬼神クラスの素材だと、あれだけ小さくても、とんでもない破壊力を生み出すことができます」
「その案は保留してもらっていいかな?一応ドレファンさん様に了承を得よう」
「はい」
「しかし、とんでもないものが多いな…それより、もっと生活の向上するようなものはないかい?」
「例えば、この火気石を板状にしたものに、魔力を通すことで火ではなく熱を発するとか、水気石を洗い場に配置して水を出すとか、木気石を使う事で園芸にも使うとか、金気石で純度を操作したり…」
「い…色々あるんだね?」
「流石に元になる素材いかんによっては、力をうまく発揮できません。
そこで、もっと質のいい素材を集める事が出来れば、あとは魔力を上手く発生させることが出来きます。
加えて、小さい頃から内部魔力転換回路形成のトレーニングをし、歳をとった方は外部魔力転換回路形成を養うんです。
そうすれば、王国はクルムリード公国とはまた違った魔術大国へランクアップ出来ますよ」
俺を見る二人とも口を押さえてる。
そう。
未来は平坦でしかなかった。
未来は去年の明日でしかなかった。
未来は起伏はなく、抑揚ない毎日だった。
けれど未来は変わる事が、こんなにもあっさりと肯定されてしまった。
今まで考えていなかっただけで、実はちょっとした丘の向こうに、ポンと置いてあっただけなのだ。
俺も、俺の中の人達の開く、知恵の一端を譲り受けているに過ぎない。
そこからどんどん、自分の都合のいいように派生させていっているだけだ。
実を言うと、昔からそこにあったんだ。
気付かないフリをしていただけなのかもしれない。
丘の向こうにある景色を覗こうと、歩く努力さえ置いてきていた昨日の自分。
そんな自分が今は恨めしい。
でも、未来は何時もあっと言う間に目の前に来て、気付いた時には日記の一ページだ。
そんな事が繰り返され、必死だが何となく暮らせていれば、もうそのリピートの中だ。
今は一分一秒が惜しい。
おの丘の向こうか、山の向こうか、雲の向こうかわからない。
でも一歩踏み出して例え何も見つからなかったとしても、見つからなかった事が見つかったのならそれで良い。
本当は単に調べ方が甘かったり、アプローチが違ったのかもしれない。
それなら、あると言う確信がまだその旨に残っているなら、疑うのはあると言う事を信じた自分じゃない。
見つけられなかった自分を疑うんだ。
歩いていた時、真っ直ぐしか見ていなかったのか?下は?上は?右は?左は?もしかすると後ろとか土の下かもしれない。
見つけられない可能性を探すより、見つけるだけの観察をしよう。
そんな事を考え始めたらもう、一日が一日では足りない。
一日が一年あっても足りないくらい、時間を渇望する。
その末に閃き、結集したもので、また新たな丘の上を目指す。
何度、何回、何千万回目指しても事足りないくらい。
俺は歩く。
歩みを止める時は、ご飯を食べている時だけだ。
ご飯は時間の結晶だ。
時間の結晶を身体が取り込む為の神聖な儀式を、誰にも彼にも自分にさえも邪魔させちゃいけない。
そして得たエネルギーでまた歩く。
真っ暗闇だと言うのなら、自身が輝けば良い。
照らすだけの知識を、ずっとずっと収集し続けていたはずだし、今も、これからもそうだ。
そして、その先で今まさに生まれ落ちた知識、使い古されて捨てられていた知識、凍えて今にも消え入りそうな知識、どんな風にも揺るがない知識、それらを集めて雑巾のように絞って垂れた一雫を掬い取って、飲み下して明日に進む。
俺は、この場所をこの王国で一番発展している村にしたいんだ。
勿論、気付いたら街になっているかもしれない。
それも良いかもしれない。
王国の中で街は規定数なわけがない。
そうじゃないはずだ。
でも残念な事に、俺は一人しかいない。
いつも傍にいて、あーだこーだと教え導く事は出来ない。
だから、ドレファンさん、スルートスさん、ジェイムスさん、どうか力を貸してくださいお願いします。
と、お願いしてみた。
頭を下げて、お願いしてみた。
ジェイムスさんも、スルートスさんも目に涙を溜めながら俺の方に手を置いてくれた。




