六章 ❼レーテの村と森の湖
水路の調子を見つつ、森の湖までブラドとヒルデに乗ってきた。
ブラドには俺とスルートスさん、ヒルデにはジェイムスさんが乗っている。
「まったく…とんでもねえな…」
「いや〜それ程でも」
「あぁ?こりゃ間違いなくそれほど以上だよ。
なぁスルートスさんよ」
「まったくです。こんなにあっさり工事が進むのならいろんなことに転用できます。
しかし、あんなに大規模な魔術を行使しして魔力の消費は大丈夫なんですか?」
心配そうだ。そりゃああれだけの土塊を煉瓦に生成したのだ。
四行相生によって補助をしているとは言え、普通の人にはあり得ない魔力量だ。
「はい。後でジェイムスさんにも渡そうかと思ってたんですが、これを使っています」
見せたのは俺の人差し指におさまる、飾りっ気など微塵もない、ただの黒い指輪だ。
「これにはミョルニルの槌で作り出された無属性付与術式が組み込まれています」
「ふむふむ」
「あっ、今の内にジェイムスさんに二つ渡しておきます。コレは相当貴重な物なので絶対に無くさないようにしてくださいね」
「何!?おっ、おう分かった」
いきなり話を振られて、ジェイムスさんも困っている。
「それでコレの付与術式には、魔素収集と魔素魔力転換、魔力使用向上の三つが組み込まれています」
「ん?それはどういう?」
「つまりコレを身につけるだけで、一般の人でも短期間である程度の魔術は行使できるようになります」
「「!!?」」
「そんな馬鹿な!」
スルートスさんは愕然とした。
それはそうだ。
中の人曰く、この世界は中の人がいた世界よりも格段に、魔力や精霊力が豊満にあり密度も芳醇だ。
つまり、中の人のいた世界では、より緻密に丁寧に術を構築せねばならなかった。
それでも中の人は才能のお陰で、割と考えることもなく使えていた。
しかし、この世界は先も言ったように魔力や精霊力が豊満にあり過ぎて、使えるか使えないかの開きが薄かったりする。
それだけ、その薄氷を割れるか割れないかの違いは恐ろしい。
何せコレを使って練習すれば、あっという間に魔術師が出来上がってしまうのだ。
期間は長くても、一週間身に付けていれば身体の中に魔力転換回路が形成される。
この魔力転換回路は重要で、コレが使える人と使えない人の差なのだ。
逆にこれさえ出来て仕舞えば魔術は使える。
後は適正の問題だけだ。
因みに精霊力は、精霊自身が持ち放ち続けているものだ。
そして精霊はこの精霊力が濃い場所か、現界できる場所を提供できる依代がなければ現界出来ない。
単独で精霊を呼び出すには、術者にも精霊にも負荷がかかるので、精霊憑依を高位の武具に使用する事で、安定的に戦うのがルイや俺たちの手法だ。
因みに、ブラドとマハは種族特性で、精霊適正が異常に高いため、精霊憑依をリスクなく行えている。
さて、魔力転換回路が出来た場合、どちら側から魔力を持って来るかで使用者の負担が格段に変わる。
どちらかと言えば、簡単に言うと中か外かだ。
中は魂。外は大気に漂う魔素だ。
おそらく、力の行使からすれば間違いなく、自己の魔力量からの補充が簡単だ。
しかし魂の強さと量が、魔力と魔力量に直結する為、失われた魔力は魂からゆっくりと魔力へ転換・補充される。
魔力枯渇状態は、この失われた魔力を魂が補う際、生命の根源の片方である魂を消費しているから起こる現象だ。
村人程度の魔力量では、魔術を使えば直ぐに疲弊した後、枯渇状態が長い時間続いてしまうしてしまう。
けれど、外から持って来る場合、ほぼ無限とも言える魔力を引っ張って来るのだから、魔力枯渇を抑えて魔術の行使が可能だ。
では、なぜこんなにメリットの多い外からの魔力を取り込まないのか?
魂からと外から魔力に転換する為に、魔力転換回路は二種類ある。
圧倒的に魔力転換回路の形成が優しく、簡単なのが魂からだからだ。
そもそも、魂は己自身。
その魂が、自分を補う為に発露するものが魔力ならば、魂用の魔力転換回路の形成が容易なのは当たり前だ。
一方、魔素からの魔力転換回路は、自分用に調律するのが極端に難しく、一気に取り込めば魔素酔いが引き起こされ、下手をすると身体が変質してしまう。
なので、魔素の魔力転換回路形成は、基本的にかなりの歳月を持って行われる。
故に、魔術師には大きく早熟型と晩成型がきっちり別れる。
早熟型は、最初に魂との結びつきをより深く進めてしまう為、自身の中に限界を求めてしまい、継戦能力に乏しく伸び代が少ない。
けれど、ゆっくりと魔素を取り込む回路を形成すると、使用できる力が継続できるので、一気に魔素を取り込む事さえ気を付ければ、安定して戦い続けることができる。
王城で聞いた魔術大国クルムリード公国では、恐らく両方をじっくりとバランス良く鍛える事で、貴重な魔術士を挫折させる事なく育成し続け、今に至るんだろう。
で、大元に戻ると、この為に簡単な魔術を使える一般人が少ない。
で、コレをなぜジェイムスさんにあげたかと言うと…
「こ…これは大変貴重な物だと思うんだけど?」
スルートスさんドン引き。
気持ちは分からなくもない。
「単純に、レーテの村のジェイムスさんには魔力を補充し続けて欲しいんです」
「そして、一週間ごとに村民で指輪を回して、村の魔術を使える人間を増やして欲しいんです。
ここは、薬丸生成の要になります。
外敵から自分達を守るのは勿論、私の渡した属性石に魔力を与え、生産性を維持して欲しいんです。
そして、池の滸で手をついた。
「『土術、石気創造!』」
中央付近迄かかるアーチ状の橋がかかった。
橋の幅四メートル程の石造りの堅牢な作りだ。
途中で柱があり、その柱に向かって半円を描くように橋がかかる。
水面に映ると眼鏡のようだ。
そして橋の終わり、中央付近に水面から高さ三メートル、直系四メートル程の石の四角柱が立っている。
俺は水面から一.五メートル程の所に、中心迄貫く直系十五センチ程の穴をあけた。
更にその柱の頂上へ飛び乗り、さっきの穴に届くように小さな穴をあける。
そして、結界石、水気石、金気石の三つを落とし、起動の魔力を中心に向かって注ぐ。
すると、かなりの量の水が溢れてきた。
俺は飛び降りて二人の顔をを見る。
「これで軽く一ヶ月は持つと思います。
後は練習がてらに魔力を補充して下さい」
石柱から水がこんこんと湧き出る様を見て、やはり二人とも口を開けている。
「どうやってやるんだ?」
「はい。水が出ている穴に、指輪を付けてない方の手を入れて魔力を放出して下さい。それだけで大丈夫です」
「それだけでいいのか?」
「はい。魔力が十分なら十年は水は切れませんが、それをやっちゃうと練習になりませんので」
「成る程な」
「似たような感じで、畑の方もお願いしますね?」
「おう、分かった」
「後、簡単な魔術書です。コレを見て、初級など勉強してください」
「何から何まですまねぇな」
スルートスさんはさっきからずっとパニック状態だ。
今行われている事が、何から何まで聞いた事のないものばかりだったからだ。
そもそも魔術とは魔物を打ち倒すものであって、人の生活をよりよくするものではなかった。
更に、魔道具を使って国民全てが魔術師になれるなら、国力の増強は半端では無い。
しかし、コレが世に広まれば恐ろしい事にもなりかねない。
だからだろう…目の焦点が合っていない。
「スルートスさん?」
「…」
「スルートスさん?」
「……」
「スルートスさん!!」
「あっはい!」
「これから気石の事でも話しましょうか?」




