六章 ❺ レーテの森と転移陣
一応品種や栽培方法をもう一度確認し、同一品種ということを確認して、また明日伺う事にした。
その時、貰いすぎだと真金貨十枚だけ抜いて返されそうになったが、契約金だといって突っ返した。
その後、ルイ、ゾッド、モーラは泣きながら抱きついてきた。
そしてお決まりの、
「「「一生ついていきます〜」」」
を大声で叫んでいた。
勿論、この薬草はこの村の収益になるのだから、村にとってはとんでもないプラスだ。
リスティさんや薬師の研究者一同は、俺の強引な迄の手法に呆れながらも感心していた。
しかし、これで栽培の体制に目処がついたと言いたいところだが、まだまだ田畑の整備が追いつかないだろう。
「リスティさん。明日は俺一人でまたここに来るから、栽培の研究を宜しく頼むよ」
ニコッとしながら話しかける。
「レン君、貴方どれだけ頑張るの?」
「ん〜出来るとこまでかな?さぁ、帰ろう」
俺が腰を上げるとジェイムスさんが止めて来た。
「お前らもうちょっとで日が暮れるぞ?
悪いことは言わん泊まっていけ」
「ジェイムスさん。有難う。大丈夫明日また来るよ。」
俺以外の皆んなが不安げな顔をしている。
夜は魔族の領域だ。
今朝のご飯の朝採りだって基本的には街壁の二百メートル程度までの畑でしか行われない。
夜に差し掛かっての移動なんていうのは、奇人のやる事だ。
そんな事は十分わかっている。なので、一応カンテラを灯して歩く。
そして今朝調査した森へ入っていこうとした。
「し、師匠…幾ら何でも…」
ルイが心配している。
「あはは、大丈夫だよ。さぁ行こう。
あ、皆んなにはこれから二班に分かれてもらうから」
「「「「「えっ!?」」」」」
「取り敢えず、リスティさんと研究員のみんなは先に行って、ルイとゾッド、ブラド、ヒルデ、マハは後な?」
「その班構成は何か意味が?」
リスティさんが震えている。
夜の森は本当に怖い。
とは言っても俺が先導して、茂みを掻き分ける。
すると5人程度が入れるスペースがある。
「じゃぁ、モーラとリスティさん達は先にそこに立って下さい。
転移した後はその場所から退いて、モーラは聖結界を張っておいて。いい?」
「「「「「「「えっ転移!?」」」」」」」
「瞬転!」
フォン
「ほら、ルイとゾッド、ブラド、ヒルデ、マハ行くよ?」
「「はっ、はい!」」
「瞬転!」
目の前が変わる。
ガサガサと茂みから出ると、茂みの外にはちゃんとモーラが聖結界を張っていた。
「レン君今のは!?」
「「「師匠!今のは?」」」
「あぁ、俺専用の転移陣だ。
おれか、俺が作ったこのカードを持っているものしか反応しない。
なので、もし俺がいなかったら、早目にギルドに行って依頼出して下さい」
「う、うん。分かったわ…レン君が色々と凄いって事が…」
リスティさんが引いている。
「あ、因みにコレは国の機密に引っ掛かる可能性があるので、公言しまくっていると皆んなが引っ張られる可能性があります」
皆んな思い思いににビビる。
「さて、帰りましょっか?」
そう、すぐそこはムンティスだ。
◆◇◆◇◆◇◆
ムンティスに着くと衛兵の一人が近寄ってきた。
恐らく今朝の盗賊団の件だろう。
なのでリスティさんや、研究員の方にはここでお別れする事にした。
「済みません。今朝の盗賊団の一件があるので今日はこの辺で切り上げましょう。
明日の夕方か、明後日にはまた顔を出します」
リスティさんが寄って来た。
「他の街を回る前に、一度ご飯に行きましょ」
耳元で囁く。
「はい」
小さな声で返した。
が、モーラの耳にはダダ漏れだった。
背後からの圧がすごい。
さて、衛士さんに連れられて、兵舎に着くと今朝の盗賊団の事を一通り聴取された。
そして、懸賞金と奴隷売却人数で二百万マルカを貰った。
一人五十万マルカで山分けしながら話をする。
「ま、遠出する時は難しいけど、こういう小遣い稼ぎも知っておくと、色々お金には困らないぞ?」
「「「はい」」」
「じゃぁ、帰ろうか」
◆◇◆◇◆◇◆
さて、俺だけハンターズギルドに寄り道した。
何をやったかというと、ヒルデの従魔登録だ。
まぁ、簡単な申請だけなので五分もあれば終わる。
チャチャっと申請書を書き上げ、シンシアさんに渡す。
待っている間、ヒルデはブラドと一緒に狩人のみんなに可愛がられていた。
本当に人に慣れるの早すぎじゃないですか?
あと、シンシアさんの『いつ誘ってくれるかな』オーラが怖い…。
早くこのミッションは終わらせなければならない感じがした。
◆◇◆◇◆◇◆
さて、明日の為にまだまだやる事はある。
次はミョルニルの槌だ。
ハンターズギルドから、ミョルニルの槌迄はそんなに遠くない。直ぐに着いた。
ぎりぎり鍛冶場にいた親方に声を掛けた。
「すみません。ちょっと良いですか?」
「ん?何だ」
「まだ鬼神の素材って残ってますか?」
明日、の為にちょっと必要だ。
「端材ならそこに積んである。持ってけ」
「あっ有難う御座います」
コレで薬草の育成をスムーズに進める。
「おぅ。それでどうだった?」
「えっ?」
「えっじゃねぇよ。武具の事よぉ」
「はい。はっきり言って良すぎです」
「ほぅ」
親方は目を細め豊かな髭をシゴいている。
「武器を使わずに魔化オーガとオーガを倒せました」
「ん?お前は一体何を言っているんだ?
幾ら何でもオーガや魔化オーガを素手で倒せるか!」
「だって倒せましたもん!」
親方はからかわれたと思っているが、残念事実だ。
「本当…か?」
「はい」
「どうやって?」
「オーガは、籠手に練気剣の要領で力を流し、燕にして飛ばして首を落としました。
魔化オーガは驚いたところを同じようにして籠手を軸にした手刀で両断しました」
………。
「嘘は…言ってないように感じる。
全く…お前は一体何処まで強くなるんだ」
親方は呆れ気味だ。もう好きにしろと言わんがばかりだ。
「今回受ける事は無かったんですが、練気剣の要領で防具に力を通したら、恐らく魔化オーガ位の全力でも、やすやすと受け止められるんじゃないかって思います」
「そんな性能なのか?」
親方は自分の作り出したものが、とんでもないものだと気づいたらしい。
しかも、その上のランクの逸品を鋭意製作中だ。
「ん〜まぁ、お前の事だ。悪どい事には使わんだろ」
なんか、納得してくれた。
「しかし、端材なんか持って行ってどうすんだ?」
「畑の肥料です」
◆◇◆◇◆◇◆
先ずは明日の畑仕事の秘策のタネを用意する。
そんなに対したものじゃないし、内には自称師匠様がいらっしゃるので楽ちんだ。
次に、今日あった出来事をファティナさんに報告した。
ファティナさんは面白いらしくよく笑った。
まぁ、公務中は笑えないよな。
しかし、お金をがっつり支払ったのを聞いて、一応ドレファンさんにも伝えておくと言ってくれた。
俺の中では少しでも返ってくれば良いな程度だ。
さて、明日は畑仕事だ。早目に寝よう。
◆◇◆◇◆◇◆
今朝も朝一稽古から始まる。
影踏みも今や、闘神中のヴェール姉さんとやり合っている。
負ける負ける負ける。
一度鬼神との戦いを見ているから、より鮮明なヴェール姉さんの影と戦えるが、強すぎて萎えるレベルだ。
適度に切り上げて体を拭いて食堂に向かう。
今朝もボリュームたっぷりのご飯だ。
全くいつもいつもやる気が出てくる。
今日は鎧は付けていない。
恐らく開墾や、用水路の整備がメインになるからだ。
こんな事にルイ達を借り出せない。
しかし、従者たるブラド、ヒルデ、マハが俺を左右と上空からガードしてくれている。
ペットモード化しているが、いざという時はすぐリサイズ出来るので本当に頼りにしている。
街門を出るとき、鎧や武器の着用を勧められたが、特に問題ないので笑ってスルーした。
鬼神装備は本当の意味で、規格外の装備な気がするので城外に出て木剣と籠手だけを装備した。
それに今日は農作業の手伝いがメインだ。
やれる事はさっさとやって、早く薬丸の量産体勢を整えたい。
「瞬転」
ムンティス周辺の草叢の中にある転移陣から、
レーテの北の森内の転移陣へ移動した。
軽く森を見回ってみたが、魔素は安定していて魔穴は出来そうに無い。
さて、レーテの村へ移動すると、ジェイムスさんがいち早く俺に気がついた。
広めの畦道に、かなり大きめの畑だ。
一枚だけは既に出来ていた。後三枚を急ピッチで進めている。
元々、簡単な小石を退けたり、木の根をどかす作業は村としてもやっていた。
しかし、村は飢えておらず、家々が少しづつ蓄えも出来るので、無理してまで開墾を急ぐ必要が無かった。
だが、村を救った狩人と薬師ギルドの要請とあっては断れない。
しかも多額のお金まで頂いたのだ、やるしか無い。
「お早う御座います」
「あぁ、お早う」
「しかし、早いな。お前昨日帰るの遅めだったじゃ無いか?」
「えぇコツがあるんです」
「はぁ…コツねぇ…」
あっけらかんと答える俺に呆れ気味のジェイムスさん。
「しかしよぉ?開墾だからこっちで全部できちまうぞ?
昨日の揚げ足取るつもりじゃぁねえが、お前は狩人なんだろ?」
「えぇ。だから、狩人らしい事をやりに来ました」




